文献情報
文献番号
201419093A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄・臍帯間葉系細胞由来脳移行性シュワン細胞による脳梗塞の神経修復治療
課題番号
H24-神経・筋-若手-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松瀬 大(九州大学 大学院医学研究院神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 松下 拓也(九州大学 大学院医学研究院神経内科学分野 )
- 吉村 怜(九州大学 大学院医学研究院神経内科学分野 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
脳梗塞は罹患率の高い疾患であり、かつ発症後の症状を改善する治療法に乏しいため、多くの患者が後遺症に苦しんでいるのが現状である。そのもっとも大きな理由の一つとして、中枢神経は通常軸索再生能力がほとんどない点が挙げられる。この点は、他の中枢神経疾患も抱えている、治癒を難しくさせている大きな原因である。
一方シュワン細胞は末梢だけでなく中枢性の軸索伸長も促す作用を持ち、中枢神経疾患への細胞移植治療へも応用できる可能性がある。また間葉系細胞は様々な分化能を持ち、培養も容易で使用に倫理的な問題が少なく安全であるなどの点から、細胞移植治療において注目されている。間葉系細胞から種々の培養操作を行うことで、シュワン細胞の機能を有する細胞も誘導可能であることが、すでに申請者らのグループの報告で示されている。
本研究は、間葉系細胞からシュワン細胞を誘導し、それを脳梗塞モデル動物へ移植することで、脳梗塞に対する新たな細胞移植治療を確立することを目的とする。また、中枢性脱髄疾患、パーキンソン病といった、他の神経疾患に対しても同細胞の移植治療を行い、神経疾患全般に対する本細胞の移植治療法の確立を試みる。
一方シュワン細胞は末梢だけでなく中枢性の軸索伸長も促す作用を持ち、中枢神経疾患への細胞移植治療へも応用できる可能性がある。また間葉系細胞は様々な分化能を持ち、培養も容易で使用に倫理的な問題が少なく安全であるなどの点から、細胞移植治療において注目されている。間葉系細胞から種々の培養操作を行うことで、シュワン細胞の機能を有する細胞も誘導可能であることが、すでに申請者らのグループの報告で示されている。
本研究は、間葉系細胞からシュワン細胞を誘導し、それを脳梗塞モデル動物へ移植することで、脳梗塞に対する新たな細胞移植治療を確立することを目的とする。また、中枢性脱髄疾患、パーキンソン病といった、他の神経疾患に対しても同細胞の移植治療を行い、神経疾患全般に対する本細胞の移植治療法の確立を試みる。
研究方法
Wistar Rat(8週齢、♂)の骨髄から間葉系細胞(BM-MSCs)を採取し、3代継代培養。その後beta-mercaptoethanol、All-trans retinoic acidで処理した後、human basic fibroblast growth factor、forskolin、platelet-derived growth factor-AA、heregulin-beta1-EGF-domainのtrophic factorを加えることで、シュワン細胞(BM-SCs)の誘導を行った。誘導した細胞は、シュワン細胞特異的なマーカーの発現を免疫細胞化学、RT-PCRにて確認した。脳梗塞モデルとして、Wistar Rat(8週齢、♂)の中大脳動脈の2時間閉塞を行うことによって中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルラットを作成。また中枢性脱髄疾患モデルとして、Wistar Rat(8週齢、♂)の脊髄にEthidium bromide(EB)を注入することによって脊髄局所脱髄モデルラットを作成。またパーキンソン病モデルについては、Wistar Rat(275-290g、♂)の線条体に6-OHDAを注入することにより作成。これらの3つのモデル動物に対する移植実験を行い、BM-SCsの移植治療効果を評価した。細胞移植の際は、MCAOモデルに対しては10万細胞、脱髄モデルに対しては20万細胞、パーキンソン病モデルに対しては10万細胞をそれぞれ病変部位へ直接注入した。なお、移植細胞は、前年度までは、レンチウィルスを用いてGFP標識を行っていたが、標識率の低さの問題があり、GFPトランスジェニックラット(Wistar)由来の骨髄間葉系細胞を使用する方法に切り替えて行った。
結果と考察
誘導したBM-SCsは、S100β、PMP22、GFAPなどのシュワン細胞のマーカーを発現していたことが、RT-PCRや免疫細胞化学で確認された。脳梗塞モデル、脱髄モデル、パーキンソン病モデルそれぞれに対して細胞移植実験を行ったが、いずれにおいても、BM-SCs移植群において明らかな機能改善、組織学的な改善を認めなかった。移植細胞は、移植後1週間程度は生着していることが確認されたが、その後徐々に生体内から排除され、約4週後には確認できないレベルになっていることが判明した。脱髄モデルでの実験では、Iba1 陽性のミクログリアの浸潤、GFAP陽性の反応性アストロサイトの増加といったグリオーシスの所見が観察され、移植細胞がグリオーシスを起こして排除されている可能性が示唆された。Trophic effectの可能性についても、脳梗塞モデル、パーキンソン病モデルで明らかな行動評価の改善が見られず、脱髄モデルにおいても、NF陽性軸索数の有意な増加を認めなかった。また移植後早期に、移植臓器内で確認された移植細胞も、シュワン細胞のマーカーを発現していない、あるいは発現を低下させている所見が得られ、間葉系細胞から誘導されたシュワン細胞は、少なくとも今回の実験系においては移植後シュワン細胞としての性質、機能を失っている可能性も示唆された。
結論
間葉系細胞から誘導したシュワン細胞を用い、脳梗塞モデル、脊髄脱髄モデル、パーキンソン病モデルへの移植実験を行った。実験結果からは、残念ながら、移植細胞の生着能が非常に低かったことと、移植細胞が移植後にシュワン細胞の性質を失っている可能性が認められ、当初想定していた結果を出すことが現時点ではできなかった。
公開日・更新日
公開日
2015-09-17
更新日
-