脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201419088A
報告書区分
総括
研究課題名
脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究
課題番号
H25-神経・筋-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
嘉山 孝正(山形大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 三國 信啓(札幌医科大学 医学部)
  • 吉峰 俊樹(大阪大学 大学院医学研究科)
  • 高安 正和(愛知医科大学 医学部)
  • 宇川 義一(福島県立医科大学 医学部)
  • 馬場 久敏(福井大学 医学部)
  • 有賀 徹(昭和大学 医学部)
  • 喜多村 孝幸(日本医科大学 医学部)
  • 深尾 彰(山形大学 医学部)
  • 細矢 貴亮(山形大学 医学部)
  • 畑澤 順(大阪大学 大学院医学研究科)
  • 篠永 正道(国際医療福祉大学 附属熱海病院)
  • 佐藤 慎哉(山形大学 医学部)
  • 西尾 実(名古屋市立大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
12,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)は、70年以上も前に提唱された疾患だが、近年、交通事故の後遺障害として法廷で争われるなど、社会問題化している。その理由は、診断基準が未確立なためである。本研究は、脳脊髄液減少症の科学的根拠に基づく診療指針を作成し不確実な診断・治療による合併症発生の回避を目的としている。
研究方法
(1)まず本症の診断に関する文献レビューを行い、臨床像を検討し、診断プロトコール(研究計画書)を作成する。(2)次に、作成した新たな診断プロトコールによる前方視的解析を行い、診断基準を確立する。(3)その診断基準により診断された患者を対象として治療法の検討を行い、本症に関連する学会の協力を得て、誰がみても納得できる診療指針を作成する。
結果と考察
<結果>平成22年度に起立性頭痛患者100名(脳脊髄液漏出確実例16例、疑い例17例)の検討結果をもとに、本症に関係する8学会の了承・承認を得て「脳脊髄液漏出症の画像判定基準・画像診断基準」を策定、平成23年に公表した。この基準により「ブラッドパッチ療法」が先進医療として認められ、現在44施設が承認されている。その後、治療法と周辺病態を検討するための臨床研究を平成24年6月より開始し平成26年度も継続した。平成26年度は、3月末までに22例の解析が終了し、昨年度までに解析を行った50例と合わせて72例での解析が可能となった。今年度登録された22例の各施設自身の診断結果は、脳脊髄液漏出症13例、脳脊髄液漏出症疑5例、髄液漏出を否定4例であった。疑例中2例は、低髄液圧症の所見を有していた。昨年度までのデータを加えた72例では、脳脊髄液漏出症53例、脳脊髄液漏出症疑11例、髄液漏出を否定8例であった。疑例中5例は、低髄液圧症の所見を有していた。画像中央判定により、脳脊髄液漏出症が確定または確実とされた症例は、平成26年度5例で、合計22例となった。これら22例の原因(誘因)と考えられるものは、特発性10例(46%)、スポーツ・整体など4例(18%)、交通事故・外傷6例(27%)、重労働2例(9%)であった。治療効果としては、各施設の自己診断確定確実症例53例では、安静にて治癒:5例、安静にて軽快:1例、ブラッドパッチにより治癒:20例、ブラッドパッチにより軽快:25例、ブラッドパッチにより不変:2例、ブラッドパッチにより悪化:0例。中央判定確定確実症例22例に限ると、安静にて治癒:4例、安静にて軽快:1例、ブラッドパッチにより治癒:10例、ブラッドパッチにより軽快:7例、ブラッドパッチにより不変・悪化:0例であった。有害事象として報告のあったものは、感染徴候を伴わない不明熱(1例)、迷走神経反射(1例)、頭蓋内圧上昇(1例)である。
<考察>本研究班の画像判定基準および診断基準においては、脊髄MRI axial T2像に重きを置いている。昨年度の検討では脊髄MRI axial T2像、特にFloating dural sac sign (FDSS)の有効性を強調したが、今年度の検討ではFDSSの中には静脈の拡張と思われるものや、artifactと思われるものが混在しており、脊髄MRI axial T2像のFDSS所見単独では、一般の医療施設でのスクリーニングとしては有効であるが、髄液漏出が少ない例や漏出方向に偏りがある例の診断には、複数方向で硬膜外の水信号を確認することや、Gd造影T1強調脂肪抑制画像やCTミエログラフィーとの比較検討が必要であると考えられた。穿刺部からの漏出については、これまでの登録症例72例中画像中央判定で21例に穿刺部からの漏出所見が認められ、24時間RI残存率やRIクリアランスの評価に影響を与えることが懸念された。ブラッドパッチについては、症例数が50例余の段階で治療効果を正確に判定するのは困難であるが、約6割が治癒、残4割の症例も軽快しており、悪化や永続する有害事象がなかったことから、診断をしっかり行なえば脳脊髄液漏出症に対するブラッドパッチ療法は有効かつ安全な治療法であることが期待される。
結論
本症に関係する学会の承認を受けた画像判定基準・画像診断基準を公表できたことで、少なくとも中核病態と規定した「脳脊髄液漏出症」に関しては、広くコンセンサスが得られ、「先進医療」制度を活用した診療が可能となった。現在、本研究班の8施設以外にも全国で36施設が先進医療の承認を受け診療を行なっている。本研究班では、平成24年度からブラッドパッチ療法の有効性・安全性の評価も含めた治療法の検討と周辺病態の検討を行う臨床研究を継続中であるが、この臨床研究も平成27年度早期に完結する見込みがたち、最終年度には、最終目的である「科学的根拠に基づく診療指針」の策定を完了できる見込みである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201419088Z