縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーに対するさらに高い効果の期待される治療薬の開発

文献情報

文献番号
201419087A
報告書区分
総括
研究課題名
縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーに対するさらに高い効果の期待される治療薬の開発
課題番号
H25-神経・筋-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
野口 悟(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
18,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦から世界に先駆けて報告された縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV)を対象として、病気の進行を抑えつつ、罹患骨格筋を正常へ回復させる、より効果的な治療法の開発研究を行う。我々はモデルマウス(DMRVマウス)を独自に開発し、シアル酸の投与によって発症を予防することに成功し、シアル酸の低下こそが疾患原因であることを示し、根本的治療法の開発に成功した。本研究ではこれまでの研究成果をさらに発展させ、DMRVマウスを用いて分子病態機構の詳細を明らかにすることで、治療の標的分子経路を具体的に設定し、さらなる効果的な治療薬の開発に取り組む。また、これまでの研究で全く行われていないような新たな治療法や治療薬の開発にも挑むことを目的とする。
研究方法
DMRVのモデルマウス(GNE-/-・hGNETg)およびコントロールマウス(GNE+/-・hGNETg)は、GNEKOマウスと変異GNEトランスジェニックマウスとの掛け合わせにより作製した。マウスは自由飲水、自由食餌摂取、12時間の明暗環境で飼育した。
 6’-SLの薬物動態の解析では、正常マウスに、6’-SL(47 micromole)を胃内投与した。投与後、5、10、30、60、120、240、480分に尾静脈からの採血と採尿を行った。血中、尿中の6’-SL量は4-AminoBenzoic acid EthylEsterにて、シアル酸は1,2-Diamino-4,5- MethylenedioxyBenzeneにて蛍光標識し、HPLCにて測定した。
 In vitroでの単離骨格筋の収縮力テストは、腓腹筋および前頸骨筋を腱から骨まで完全な状態で単離し、トランスデューサーと連結させた。生理検査溶液中で、最大単収縮長での単収縮力(3ms)と10-200Hz(300ms)での強縮力を測定した。その他、骨格筋形態パラメーターについて解析した。
 DMRVマウスの骨格筋の病理は、定法に基づき、抗P62タンパク質抗体の他、抗P62Ser403リン酸化抗体および抗Ser351リン酸化抗体,HSP90抗体、抗真核生物翻訳開始因子2α(eIF2α)Ser52リン酸化抗体を用いた。
結果と考察
 高齢の発症したDMRVモデルマウスに対して有効性が認められた結合型シアル酸(α2-6シアリルラクトース:6’-SL)の薬物動態の再検討を行った。この化合物は遊離シアル酸とは異なる代謝速度を示すばかりでなく、そこから遊離したシアル酸も体内を循環することを見いだした。この結果をふまえ、シアル酸補充療法の有効性を示す化合物の性質について考察した。シアル酸補充療法において、高い治療効果を示す条件は次の3点であり、①Ac4ManNAcのような、標的組織での高い取り込みが期待できる、シアル酸前駆体化合物、②6’-SLのように、血液中を長時間循環し、代謝された後も遊離シアル酸を生成しうるシアル酸複合化合物、③服用後、ゆっくりと放出され、長期間の体内循環を可能にする、遊離シアル酸の徐放形剤。が挙げられる。
 さらに、APP-/-マウス系統は、個体産出、生下時の外見、離乳個体数などは、野生型と全く同様であった。DMRVマウスとの掛け合わせには全く問題がないと思われる。40週齢におけるAPP-/-マウスの筋力は、DMRVマウスと比較して非常に軽いものであった。この週齢では、DMRVマウスの筋収縮力に個体差が大きいことが観察されている。面白いことに、APP-/-マウスではむしろ、腓腹筋よりも前脛骨筋の筋力、特に強縮が低下していることが示された。DMRVマウスでは前脛骨筋の筋力の低下は筋萎縮によることがわかっているが、このマウスでは、筋萎縮はなく、筋力が低下していた。
 高齢(78週齢)DMRVマウス腓腹筋には、βアミロイド、P62, ユビキチンタンパク質の他に、HSP90およびリン酸化eIF2αが蓄積していた。このことは、以下の二つのことを示唆していると考えられる。①蓄積タンパク質が、コンフォーメーション変化を来たし、分解系へのクライアントタンパク質となっている可能性があること、②その結果として、罹患筋において、タンパク質翻訳活性の低下が働いていることである。これらの結果は、DMRV筋においても、筋線維内に蓄積したタンパク質に対して、細胞内応答が起こっていることを示しており、高齢マウスでの筋萎縮への一つの原因であると考えられる。
結論
 DMRVに対するシアル酸治療について、有効性を規定する3つの条件を決定することができた。遺伝学的手法を用いて、DMRVモデルマウスに、APP-/-マウスを掛け合わせている。APP-/-マウスの骨格筋収縮力の解析では、筋力低下、筋萎縮ともに軽度であり、掛け合わせは、DMRVモデルマウスの解析において問題ないと思われた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419087Z