レット症候群の早期診断と治療をめざした統合的研究

文献情報

文献番号
201419083A
報告書区分
総括
研究課題名
レット症候群の早期診断と治療をめざした統合的研究
課題番号
H24-神経・筋-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 雅之(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 松石 豊次郎(久留米大学医学部小児科)
  • 白川 哲夫(日本大学歯学部小児歯科)
  • 高橋 悟(旭川医科大学医学部小児科)
  • 青天目 信(大阪大学医学部小児科)
  • 堀家 慎一(金沢大学)
  • 田中 輝幸(東京大学大学院医学系研究科発達医科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
14,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
レット症候群は多彩な症状のため診断に苦慮する。有効な治療法がなく、早期からの療育が求められる。そこで、診断基準を改定し、診療ガイドブックを作成して、早期診断の推進をはかる。レット症候群の原因遺伝子としてMECP2が同定されて以来、類似した臨床症状を呈する非典型例の存在が知られ、それらの原因遺伝子の機能喪失および重複による臨床像の特徴を明らかにする。基礎研究では、MeCP2欠損マウス(Mecp2-/y)をはじめとしたモデル動物や細胞を用いて、様々な病態の解明と治療法開発の基盤的研究を展開する。
研究方法
2010年の診断基準の基づき、本邦に適合した改正、注釈を加えて、新しい診断基準を公表した。また、各分野の専門医、研究者へ執筆依頼し、診療ガイドブックを作成した。
 遺伝子解析は、末梢白血球DNAを用いて、塩基配列決定法にて行った。動物実験では、①生後2週齢のMecp2-/yと野生型の延髄腹側呼吸核群からDNAを抽出し、bisulfite処理を行ったのちGad1プロモーター領域の塩基配列を決定し、23ヶ所のCpGのメチル化cytosineを検出した。さらに、脳組織を固定後二重染色を行った。②IGFBP3遺伝子改変マウスを作成し、Mecp2-/yとの二重改変マウスを作成した。これらマウスの行動学的、形態学的解析とIGF-1発現を調べた。③Cdkl5 欠損マウスでは、神経細胞の微小形態、薬物投与による易けいれん性解析、等を行った。④Mecp2-/y のES細胞の心筋分化マーカー遺伝子や蛋白質の発現、および電子顕微鏡による心臓の刺激伝道系を検討し、心筋分化能、形態異常を評価した。また、Mecp2-/yの心エコーによる心機能と心電図の計測を行った。Mecp2-/yの心臓の遺伝子発現は、30個の心臓特異的遺伝子の定量PCRにより解析した。細胞実験では、ヒト染色体工学技術を用いてPWS-ICを欠失させた改変ヒト15番染色体を構築し、qRT-PCR、 DNAメチル化解析、DNA-FISH法、ChIP法により、15q11-q13領域のクロマチン動態と遺伝子発現を調べた。
(倫理面への配慮等)すべての研究は、各研究施設の当該倫理委員会の承認を得て、臨床研究においては患者あるいは保護者への十分な説明と同意を得てのちに行った。また、組み換えDNA実験安全委員会、実験動物倫理問題等検討委員会等の承認を得たのちに行った。各研究は、当該研究施設の利益相反に関する審査、承認を得たのちに行った。
結果と考察
改正診断基準を公表した。今後、これによる診断と遺伝子診断の相関を調べる。また、診療ガイドブックを刊行した。このガイドブックを利用することによる疾患認知と早期診断の関係を患者データベース登録システムを利用して追跡する。
 動物実験では、①延髄腹側呼吸核群のGad1プロモーター領域のCpGメチル化レベルに母親由来のアレルの違いが影響していることがわかった。Mecp2-/yの無呼吸はこれらの高メチル化とそれによるGad1 mRNAの転写抑制、GAD1発現低下によるGABA合成の減少が推測された。②IGFBP3欠損マウス、IGFBP3過剰発現マウス、Mecp2-/yとの二重改変マウスの行動学的、形態学的解析とIGF-1発現はいずれもIGFBP3欠損によって回復することが分かった。IGFBP3の量的異常が発症病態に影響していることから、IGFBP3が治療のターゲットになりうると考えられる。③Cdkl5欠損マウスでは、海馬CA1錐体神経細胞の易けいれん誘発性がみられ、グルタミン酸障害がわかった。④Mecp2-/y のES細胞の心筋分化過程で、特異的な遺伝子発現がが認められた。Mecp2-/yの心臓の生理学的解析では、QT延長と左心室壁の菲薄化があった。心筋分化にMeCP2が寄与している可能性が示唆された。細胞実験では、父方特異的なMAGEL2遺伝子の発現低下が認められ、15q11-q13領域にPWS-ICを欠失したが父方アレル特異的クロマチン脱凝集は維持されていた。一方、PWS-IC欠失母方染色体では異所的にクロマチン脱凝集が起こっていた。正常母方アレルにおけるコンパクトなクロマチン状態の維持に重要であると考えられた。
結論
本邦の実情に合わせたわかりやすいレット症候群の診断基準に改正した。また、診療ガイドブックを作成した。これらを活用することで、レット症候群の早期診断が可能となることが期待される。
 基礎研究では、多角的なアプローチにより、治療法開発の礎となる成果を得ることができた。今後、これらの成果を発展させ、臨床応用へ展開させる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201419083B
報告書区分
総合
研究課題名
レット症候群の早期診断と治療をめざした統合的研究
課題番号
H24-神経・筋-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 雅之(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 松石豊次郎(久留米大学医学部小児科)
  • 白川 哲夫(日本大学歯学部小児歯科)
  • 高橋 悟(旭川医科大学医学部小児科)
  • 青天目 信(大阪大学医学部小児科)
  • 堀家 慎一(金沢大学学術総合センター)
  • 田中 輝幸(東京大学大学院医学系研究科発達医科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
レット症候群は年齢依存的に多彩な症状を呈する特異な発達障害である。しかし、臨床研究は少なく、確立された治療法や療育法がない。本研究班では、患者データベースを構築し、基礎研究とあわせてトランスレーショナルリサーチを展開し、科学的根拠に基づいた生物マーカーと早期診断法を確立し、創薬・治療法の開発をめざす。
研究方法
臨床研究、基礎研究とも研究計画に沿って、進めることができた。
結果と考察
2010年の診断基準を基に改正診断基準を作成した。さらに、これまでの臨床経験および文献的レビュー等を持ち寄り診療ガイドブックを作成した。これらの取り組みと従来からの遺伝子診断サービスにより、一般臨床医の早期診断を推進する。患者登録制による患者データベースシステムを作り、平成25年11月より運用している。今後、疫学解析と臨床研究に向けた体制の整備と登録患者の収集を進める。
臨床研究として、表現型と遺伝子異常の相関を明らかにした。レット症候群の病因遺伝子MECP2, CDKL5, FOXG1のうち、典型的レット症候群例では高頻度でMECP2変異が同定された。しかし、CDKL5変異やFOXG1変異の症例は神経症候の退行が明らかではなく、レット症候群の診断が少なかった。一方、典型的レット症候群の診断基準合致するがMECP2異常がない症例に、WDR45異常とSHANK3異常を発見し、非典型的レット症候群症例にPDHA1異常とNR2F1異常を認めた。基礎研究では、(1) 軽症化因子の探求:MECP2変異発現ベクターをつくり、線維芽細胞へ導入、症状への関連性が予測される分子を同定した。(2) MECP2下流遺伝子IGFBP3の発症病態の解明:Igfbp3欠損マウスとMecp2欠損マウスとの二重遺伝子改変マウスを作成し、行動学的、形態学的解析とIGF-1発現解析を行ない、レット症候群の発症病態の一部がIGFBP3によるものと考えられた。(3) MECP2が関与する神経系と心臓の病態解明: Mecp2欠損マウスとそのES細胞を用いて神経系の発生・分化過程のMeCP2役割を解析し、MeCP2の神経細胞成熟やグリア細胞分化への関与を明らかにした。また、Mecp2欠損マウス心臓の生理学的、分子生物学的解析から、心電図異常と特定の遺伝子発現異常を明らかにした。(4) 呼吸障害の分子機序の解明:Mecp2欠損マウスでは、生後2-7週齢で野生型母由来野生型マウスに比し無呼吸頻度が高かった(p<0.01)。これは明初期をピークとする無呼吸頻度の日内変動がみられた。この変化は、分子病理学的に延髄呼吸中枢のVMAT2陽性puncta数減少と相関があるものと考えられた。一方、Mecp2欠損マウスの生後8日齢から7日間のバルプロ酸腹腔内投与により、無呼吸頻度が有意に減少した(p<0.05)。発現解析の結果、延髄腹側呼吸核群のGad1 mRNA 発現量はMecp2欠損マウスで有意に低下していた(p<0.05)が、バルプロ酸腹腔内投与により回復した(p<0.05)。延髄腹側呼吸核群のGad1プロモーター領域のメチル化レベルは高メチル化状態にあることが分かった。また、同部位でバルプロ酸投与により、H3K9,H4K5アセチル化レベルの上昇があった(p<0.01)。Mecp2欠損マウスの無呼吸は延髄呼吸中枢のモノアミン作動性シナプス伝達障害と生後早期からのエピゲノム機構を介したGABA合成系の発現調節障害が関与していることが明らかになった。(5) CDKL5遺伝子異常の病態解析:非典型レット症候群の原因遺伝子CDKL5の遺伝子変異による病態機序の解明を目的として、酵母ツーハイブリッドとインタラクトームスクリーニングによるCDKL5相互作用タンパクを同定した。また、Cdkl5 欠損マウスを作成し解析した結果、海馬神経細胞のスパイン形態と密度の異常、易痙攣性、グルタミン酸受容体の機能と蛋白質の異常を明らかにした。さらに、グルタミン酸受容体阻害薬による興奮性アミノ酸誘発性けいれんの治療効果を明らかにした。(6) ヒト染色体15q11-q13領域のエピゲノム機構の病態解明: MeCP2のAS責任遺伝子座における分子動態の一部を解明した。また、MeCP2と類似の機能をもつMBD5の標的遺伝子の同定と分子機構を解明した。これらの結果から、MeCP2とMBD5の生物学的共通機構の存在が示唆され、その解明が広く発達障害の治療法開発へ発展できるものと期待できる。
結論
臨床研究では、診療ガイドブックを作成し、診療支援を行い、患者データベースの運用を今後も行っていく。基礎研究では、多角的なアプローチにより、治療法開発の礎となる成果を得ることができた。本研究班の成果は、今後のレット症候群の臨床および研究に広く利用されることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419083C

収支報告書

文献番号
201419083Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,300,000円
(2)補助金確定額
18,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,981,581円
人件費・謝金 3,873,667円
旅費 2,250,011円
その他 2,971,741円
間接経費 4,223,000円
合計 18,300,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-