下部神経管閉鎖障害の病態・制御研究

文献情報

文献番号
201419081A
報告書区分
総括
研究課題名
下部神経管閉鎖障害の病態・制御研究
課題番号
H24-神経・筋-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大野 欽司(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 東 雄二郎(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院)
  • 柳田 晴久(福岡市立こども病院)
  • 鬼頭 浩史(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎生初期における下部神経管閉鎖障害は二分脊椎とともに下肢運動感覚障害、膀胱・直腸機能障害を惹きおこす。本症における脊髄神経細胞障害の発症機構は十分に解明されておらず治療法も存在しない。妊娠初期における400 µg以上の葉酸摂取が本症の発症率を低下させることが知られているが (New Engl J Med 350:101, 2004)、葉酸欠乏は本症の唯一の原因ではない。遺伝性症例も報告されているが、多くは孤発例である。我々はホメオボックス遺伝子Zeb1 Zeb2 (Sip1)欠損マウスが神経管閉鎖障害を起こすことを報告してきた(Am J Hum Genet 72: 465, 2003; Dev Dyna 235: 1941, 2006; PLoS Genet 7: e1002307, 2011; Neuron 73: 713, 2012; Neuron 77: 83, 2013; Genesis in press)。モデル動物において神経管閉鎖に関わる遺伝子が他に80種類同定をされているが(Nat Rev Genet 4: 784, 2003)、ヒトにおいてはVANGL1 (New Engl J Med 356: 1432, 2007), VANGL2 (New Engl J Med 362: 2232, 2010), FUZ (Hum Mol Genet 2011), CELSR1 (PloS One 2014)の遺伝子変異のみが報告されている。(i) 本研究では、下部神経管閉鎖障害の一部にはZEB1, ZEB2遺伝子を含む神経管形成遺伝子群のde novo変異が関与する可能性を考え、患者会の協力を得て下部神経管閉鎖障害の網羅的なエキソームシークエンス解析を行い、同定をした候補遺伝子のモデル細胞・モデル動物における分子作用機構の解明を行う。(ii) 我々が新規に同定をした脊髄運動神経細胞特異的に発現をするRSPO2、分子X、分子Yの運動神経細胞分化促進作用の分子機構を解明する。(iii) さらに、脊髄運動神経細胞の軸索延長を増強する薬剤をdrug repositioning法により同定をする。
研究方法
(i) 血液DNAのexome capture resequencing (ECR)解析を行った。高信頼度から低信頼度までパラメータを変動させながら、VNAGL1, VANGL2, FUZ, CELSR1, ZEB1, ZEB2に加えて、葉酸代謝に関与する31遺伝子、モデル動物において神経管閉鎖に関わる80遺伝子に絞りde novo遺伝子変異解析を行った。(ii) 脊髄運動神経細胞のレーザーキャプチャーマイクロダイセクション法により同定をしたRspo2、分子X、分子Yのノックアウトマウス解析ならびに脊髄運動神経初代培養細胞を用いて、これら分子の分子作用機構の解明を行った。(iii) 既認可薬パネルを分化誘導したマウス由来運動神経細胞NSC34細胞に付加し、neurite growthを指標にscreeningを行い、マウス脊髄前角初代培養細胞を用いて検証した。
結果と考察
(i) 9名の患者のECR解析を行い、一例においてVANGL1遺伝子に新規ヘテロ変異を同定した。遺伝子変異をVANGL1に導入しMDCK細胞に発現をさせたが遺伝子変異はVANGL1の細胞膜局在に影響を与えなかった。他の症例においてCELSR1, DVL3, DACT1, SNMT1, PRICKLE1の候補遺伝子群にSNVsを同定した。(ii) マウス脊髄前角細胞特異的に発現をするRspo2、分子X、分子Yを同定した。Rspo2は神経筋接合部形成を促進するagrinに次ぐ重要なタンパクであることを同定するとともに、Rspo2、分子X、分子Yはいずれも運動神経細胞の神経突起延長作用とアセチルコリン受容体クラスター形成作用を有することを明らかにした。(iii) マウスNSC34細胞ならびにマウス脊髄前角細胞プライリーカルチャーに対して薬剤Xが濃度依存的に神経突起延長促進作用を有することを同定した。
結論
下部神経管閉鎖障害患児9例のECR解析によりVANGL1の新規ミスセンス変異を含む候補遺伝子変異群を同定した。さらに、Rspo2、分子X、分子Yが運動神経突起延長促進作用を有する脊髄運動神経に特異的に発現し、神経筋接合部のアセチルコリン受容体のクラスタリングを促進する新規分子であることを明らかにした。既認可薬として広く使われてきている薬剤Xが、マウスNSC34細胞ならびにマウス脊髄前角初代培養細胞に対して濃度依存的に神経突起延長促進作用を有することを同定するとともにモデルマウスにおける効果を確認した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201419081B
報告書区分
総合
研究課題名
下部神経管閉鎖障害の病態・制御研究
課題番号
H24-神経・筋-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大野 欽司(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 東 雄二郎(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院)
  • 柳田 晴久(福岡市立こども病院)
  • 鬼頭 浩史(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎生初期における下部神経管閉鎖障害は二分脊椎とともに下肢運動感覚障害、膀胱・直腸機能障害を惹きおこす。本症における脊髄神経細胞障害の発症機構は十分に解明されておらず治療法も存在しない。妊娠初期における400 µg以上の葉酸摂取が本症の発症率を低下させることが知られているが (New Engl J Med 350:101, 2004)、葉酸欠乏は本症の唯一の原因ではない。遺伝性症例も報告されているが、多くは孤発例である。我々はホメオボックス遺伝子Zeb1 Zeb2 (Sip1)欠損マウスが神経管閉鎖障害を起こすことを報告してきた(Am J Hum Genet 72: 465, 2003; Dev Dyna 235: 1941, 2006; PLoS Genet 7: e1002307, 2011; Neuron 73: 713, 2012; Neuron 77: 83, 2013; Genesis in press)。モデル動物において神経管閉鎖に関わる遺伝子が他に80種類同定をされているが(Nat Rev Genet 4: 784, 2003)、ヒトにおいてはVANGL1 (New Engl J Med 356: 1432, 2007), VANGL2 (New Engl J Med 362: 2232, 2010), FUZ (Hum Mol Genet 2011), CELSR1 (PloS One 2014)の遺伝子変異のみが報告されている。(i) 本研究では、下部神経管閉鎖障害の一部にはZEB1, ZEB2遺伝子を含む神経管形成遺伝子群のde novo変異が関与する可能性を考え、患者会の協力を得て下部神経管閉鎖障害の網羅的なエキソームシークエンス解析を行い、同定をした候補遺伝子のモデル細胞・モデル動物における分子作用機構の解明を行う。(ii) 我々が新規に同定をした脊髄運動神経細胞特異的に発現をするRSPO2、分子X、分子Yの運動神経細胞分化促進作用の分子機構を解明する。(iii) さらに、脊髄運動神経細胞の軸索延長を増強する薬剤をdrug repositioning法により同定をする。
研究方法
(i) 血液DNAのexome capture resequencing (ECR)解析を行った。高信頼度から低信頼度までパラメータを変動させながら、VNAGL1, VANGL2, FUZ, CELSR1, ZEB1, ZEB2に加えて、葉酸代謝に関与する31遺伝子、モデル動物において神経管閉鎖に関わる80遺伝子に絞りde novo遺伝子変異解析を行った。(ii) 脊髄運動神経細胞のレーザーキャプチャーマイクロダイセクション法により同定をしたRspo2、分子X、分子Yのノックアウトマウス解析ならびに脊髄運動神経初代培養細胞を用いて、これら分子の分子作用機構の解明を行った。(iii) 既認可薬パネルを分化誘導したマウス由来運動神経細胞NSC34細胞に付加し、neurite growthを指標にscreeningを行い、マウス脊髄前角初代培養細胞を用いて検証した。
結果と考察
(i) 9名の患者のECR解析を行い、一例においてVANGL1遺伝子に新規ヘテロ変異を同定した。遺伝子変異をVANGL1に導入しMDCK細胞に発現をさせたが遺伝子変異はVANGL1の細胞膜局在に影響を与えなかった。他の症例においてCELSR1, DVL3, DACT1, SNMT1, PRICKLE1の候補遺伝子群にSNVsを同定した。(ii) マウス脊髄前角細胞特異的に発現をするRspo2、分子X、分子Yを同定した。Rspo2は神経筋接合部形成を促進するagrinに次ぐ重要なタンパクであることを同定するとともに、Rspo2、分子X、分子Yはいずれも運動神経細胞の神経突起延長作用とアセチルコリン受容体クラスター形成作用を有することを明らかにした。(iii) マウスNSC34細胞ならびにマウス脊髄前角細胞プライリーカルチャーに対して薬剤Xが濃度依存的に神経突起延長促進作用を有することを同定した。
結論
下部神経管閉鎖障害患児9例のECR解析によりVANGL1の新規ミスセンス変異を含む候補遺伝子変異群を同定した。さらに、Rspo2、分子X、分子Yが運動神経突起延長促進作用を有する脊髄運動神経に特異的に発現し、神経筋接合部のアセチルコリン受容体のクラスタリングを促進する新規分子であることを明らかにした。既認可薬として広く使われてきている薬剤Xが、マウスNSC34細胞ならびにマウス脊髄前角初代培養細胞に対して濃度依存的に神経突起延長促進作用を有することを同定するとともにモデルマウスにおける効果を確認した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419081C

収支報告書

文献番号
201419081Z