DNAメチル化修飾に着目したうつ病のマーカー作成-双極、単極、治療抵抗性うつ病の識別を目指して-

文献情報

文献番号
201419075A
報告書区分
総括
研究課題名
DNAメチル化修飾に着目したうつ病のマーカー作成-双極、単極、治療抵抗性うつ病の識別を目指して-
課題番号
H25-精神-実用化(精神)-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大森 哲郎(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 純(産業医科大学医学部)
  • 森信 繁(高知大学医学部)
  • 久住 一郎(北海道大学大学院医学研究科)
  • 関山 敦生(先端医療振興財団先端医療センター研究所先制医療研究開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
11,848,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
うつ病を健常者から分ける診断指標の確立は、その早期発見と治療導入を可能とする。研究代表者らは白血球をサンプルとして網羅的メチル化修飾解析により統合失調症を健常者から区別する所見を認め(Kinoshita 他. 2013)、うつ病ではこれと異なる所見を得た。また、研究分担者(森信)らは、うつ病に特有のBDNF遺伝子メチル化修飾変化を報告している(Fuchikami他. 2011)。本研究は、これらの所見を発展させ、DNAメチル化修飾変化を組み合わせたうつ病の診断マーカーを作成することを目的としている。並行して、mRNA発現解析などを利用した判別も検討する。
研究方法
文書による同意を得た患者を対象として、診断確定と重症度評価を行い、10-20mlの静脈血を採血した。末梢白血球からフェノール・クロロフォルム法で抽出するゲノミックDNAをメチル化解析に、PAXgene Blood RNA キットを用いて精製するtotal RNAをmRNA発現解析に供する。血漿をBDNFとサイトカインの測定に供する。Infinium HumanMethylation450 Beadchip (Illumina社)を用いて、広範囲の遺伝子CpGサイトのメチル化修飾状態を調べた。網羅的解析によって差異の見出されたメチル化サイトの一部に関してはPyroMarkを用いて検証した。特定遺伝子mRNA発現は大森らの既報の方法で解析する。大用量情報からのデータ抽出には、バイオインフォーマティックス専門の石井一夫東京農工大学特任教授(研究協力者)の協力を得た。「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」および平成27年度から施行される「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守する。研究計画は各施設の倫理委員会において承認を受けている。
結果と考察
17種類のサイトを用いた判別分析法を行ったところ、うつ病群と対照群の2群にサンプルを区別することができた。同じ17種類のサイトを用いて第2集団で検証を行ったところ再現性のある結果を得られた。これらの成果はEpigenetics(Numata et al.2015)に掲載され、国内特許を出願し(特願2014‐161176)、国際特許を出願準備中である。双極性障害についても、まず治療中の患者サンプルを解析したところ、単極性うつ病とは別の変化を見出している。
網羅的解析によって変化の見られた遺伝子メチル化サイトのいくつかについてPyroMarkを用いて検討したところ、GSK3-βのひとつサイトにおいてうつ病患者のメチル化が低下し、これと対応してGSK3-βのmRNA発現は増加し、両変化の程度は逆相関していた。
また、mRNA発現解析を指標とする研究では、5種類のmRNAレベルを用い、感度80%特異度92%でサンプルをうつ病群と対照群に区別することができた。同じ5種類の遺伝子を用いて第2集団で検証を行ったところ感度85%特異度89%となり、再現性のある結果を得られた。これらの成果について、25年度に国内特許を申請していたが(特願2014‐035813)、26年度には特許内容を修正するとともに国際特許も出願し(PCT/JP2015/051107)、論文がJ Psychiatr Res(Watanabe et al.2015)に印刷中となっている。
これらの結果はDNAメチル化修飾変化およびmRNA発現を利用した実用的な診断マーカーの作成が可能であることを示唆している。現時点では、うつ状態においてのみ見られる所見(sate- dependent)か、回復後にも持続する所見(trait dependent)かはまだ不明である。うつ病の病態との関連も今後の検討課題である。
結論
うつ病の診断マーカー確立の試みはデキサメサゾン抑制試験をはじめとしてこれまでにも数多い。しかし、単一の測定値での判別はうつ病群と対照群のオーバーラップを避けることが難しく、そのため感度と特異度に限界が生じた。本研究では、複数の遺伝子サイトのメチル化修飾変化や複数の遺伝子のmRNA発現を複合して指標とすることによって、高い感度と特異度を持つ指標の開発を目指している。平成26年度までの研究成果において、メチル化解析においてもmRNA発現解析においても、単極うつ病と健常者の間の区別がこれまでにない高い精度で可能であることを示し、論文発表し、特許を取得した。
本研究は、高度の先端技術を応用した企画であるが、患者負担は一度の少量の採血のみなので、臨床現場で使用しやすい指標とすることができる。網羅的解析を起点とするが、最終的には数十以内の測定指標に絞り込む見通しであり、今後の測定技術の進歩と相まって、安価かつ安定した指標とすることができる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419075Z