補償光学適応走査型レーザー検眼鏡を用いた糖尿病網膜症の病態解析と早期発見、早期治療に関する研究

文献情報

文献番号
201419070A
報告書区分
総括
研究課題名
補償光学適応走査型レーザー検眼鏡を用いた糖尿病網膜症の病態解析と早期発見、早期治療に関する研究
課題番号
H24-感覚-若手-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
宇治 彰人(京都大学 医学部付属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,271,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
補償光学の技術を適用した共焦点走査型レーザー検眼鏡(Adaptive Optics Scanning Laser Ophthalmoscopy: AOSLO)を用いて非侵襲的に糖尿病患者における高解像度網膜血管イメージングを実現する。糖尿病網膜症(DR)を発症していない患者において、検眼鏡的には可視化できない血管の形態変化を定量評価する。

研究方法
対象は健常者、2型非糖尿病網膜症(NDR)患者、高血圧患者(HT)。京都大学眼科外来に設置されたAOSLOを用いて、視神経乳頭縁から0.5-1.0乳頭径離れたzone Bの領域内の網膜動脈を撮影、保存した。すでに開発済みの網膜血管壁解析専用ソフトウェアを用いて、固視微動に伴う動画の位置ずれおよび歪みを補正した後、半自動的に網膜血管壁の厚み(WT)を定量した。拍動に伴う血管径の変化が測定に与える影響を考慮し、パルスオキシメーターを用いて心拍動を記録、すべての血管径計測に対して脈波との同期処理を行った。
結果と考察
1)高血圧患者における血管壁厚の解析
AOSLOを用いることで明瞭な網膜血管の画像を得ることができた。また、検眼鏡的には可視化できない血管壁が可視化され、血管壁はおそらく内皮細胞、壁細胞と考えられる粒状の構造物を有していた。正常被検者51人51眼、HT22人22眼が解析可能であった。検者間の級内相関は血管外径(OD)、血管内径(ID)、WT、wall to lumen ratio (WLR)がそれぞれ0.980、0.970、 0.889、 0.882で、繰り返しによる測定間の級内相関が0.961、 0.952、 0.977、 0.960と高値であり、血管径の測定は再現性が高いものであった。OD、IDについてはカラー眼底を用いた従来の計測方法と高い相関を示した。WLRはHT(0.315 ± 0.066)が正常(0.280 ± 0.040)に比べて有意に高く、また、WT,WLRは収縮期血圧、拡張期血圧、年齢、body mass index (BMI)と正の相関を示した。
2)糖尿病患者における血管壁厚の解析
NDR28人56眼中、40眼が解析可能であった。OD、ID、WTはそれぞれ128.0±15.5µm、101.8±14.6µm、26.2±5.6µmであり、WTは頸動脈エコーで測定した中膜内膜複合体(IMT)と正の相関を示した。また、WTはHbA1c値、総コレステロール値、LDLコレステロール値と正の相関を示した。一方で、OD、IDいずれの検査値とも相関を示さなかった。

従来、網膜血管壁は直接可視化することができなかった。scanning laser Doppler flowmetry (SLDF)をもちいて、血管外径と血柱の差を壁厚とみなし、研究がおこなわれてきた経緯がある。AOSLOを用いることで、検眼鏡的には観察不可能な血管壁を可視化することができた。これは、補償光学を用いることで角膜や水晶体など眼球光学系に存在する収差による像の歪みを解消できたことが理由である。WRLは内皮細胞機能不全を表し、高血圧患者における早期のマーカーとして有用であることが報告されている。本研究においてもWRLは収縮期血圧、拡張期血圧と高い相関を示しており、直接可視化、定量した血管壁厚が網膜細小血管異常の検出に有用であることが証明された。2型糖尿病患者においても、網膜動脈の血管壁の描出が可能であった。微小血管である網膜血管の壁厚は、動脈硬化の指標のひとつである内頸動脈のIMTと正の相関を認めた。これは従来、糖尿病においては細小血管障害と大血管障害を区別して評価してきたが、これらに実際にはある程度の関係があり、共通の血管障害のメカニズムを有することを示す初めての根拠である。また、定量化された壁厚はHbA1c、T-chol、LDLと正の相関を認め、これら数値の上昇が最小血管障害を起こす可能性を直接的に示すものである。つまり、網膜血管の破たん、出血、無灌流といった糖尿病網膜症の状態を呈する前にAOSLOを用いて定量的に最小血管障害を評価できる可能性が示唆された。今後、これまでに我々が評価系を確立したAOSLOを用いた微小循環動態の解析とあわせることで、形態変化と機能障害が関係を明らかにし、糖尿病における微小循環障害発症のメカニズムの解明、早期診断、早期治療法の開発に貢献できると考えられる。
結論
AOSLOは非侵襲的に網膜血管壁を可視化することができる。AOSLOは高血圧患者や糖尿病患者において、初期の病的な血管の変化を捉えることができる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201419070B
報告書区分
総合
研究課題名
補償光学適応走査型レーザー検眼鏡を用いた糖尿病網膜症の病態解析と早期発見、早期治療に関する研究
課題番号
H24-感覚-若手-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
宇治 彰人(京都大学 医学部付属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病網膜症は、網膜微小循環の障害がその本体である。人眼における微小循環動態の解明が可能になれば、病気の早期発見やより良い治療法の確立に有用であり、その技術の確立は社会的失明予防の観点からも重要である。本研究は補償光学の技術を適用した共焦点走査型レーザー検眼鏡(AOSLO)を用いて非侵襲的に糖尿病網膜症における循環動態をとらえることを目的とする。非侵襲的な検査であるため、糖尿病網膜症がほとんど認められない患者に対してもスクリーニング的に施行することが可能であり、病初期の循環障害を解明していく。
研究方法
対象は、健常者および糖尿病網膜症(DR)患者、糖尿病患者で非糖尿病網膜症(NDR)患者。京都大学眼科外来に設置されたAOSLOを用いて1)SLO動画解析方法の確立、2)血流動態の解析、3)血管の形態変化の評価を行った。1)非線形レジストレーションを用いたAOSLO動画の補正方法の検討をおこなった。またパルスオキシメーターを用いた脈波との同期処理を行いながら撮影し、動画解析への反映、加算平均処理への応用を検討した。2)血流動態は傍中心窩網膜毛細血管網を流れる赤血球列を解析した。動画解析に必要な画像処理方法を検討し、専用ソフトウェアを用いて、動画から血管造影を構築、時空間画像を用いた血球速度の算出、血球成分の配列の変化を測定した。3)血管の形態変化は網膜動脈の血管壁を可視化しその壁厚を測定、解析に用いた。
結果と考察
非線形レジストレーションを用いることでSLO動画に生じるフレーム間の歪みを解消することが可能となった。また、AOSLOで得た血球速度データを心拍動と同期させることで正確な速度の算出に成功した。正常群、DR群、NDR群の3群の比較の結果、血球速度はDRが正常、NDRと比較し有意に早く、NDRと正常の間に差は認められなかった。血球の流れやすさに注目し、赤血球列の分岐のない毛細血管における速度変化、赤血球列の伸長率を調べたところ、DRでは有意に速度変化する血管が多かった。また赤血球列の伸び率はDRとNDRに差がない一方で、正常群と両群との間には有意な差があり、糖尿病網膜症の早期発見の手掛かりとなり得ると考えられた。
形態の評価においては、NDRと正常被験者、高血圧患者のデータを取得し、解析することができた。動脈壁厚は高血圧患者で有意に高く、また血圧値と年齢との間に相関関係を認めた。一方、高血圧既往の無いNDRにおいて、壁圧は年齢以外にHbA1c、総コレステロール値、LDL、頸動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)と相関を示した。この結果は最小血管障害を壁厚として定量することが可能であり、また最小血管の変化が大血管における変化と関連することを示唆するものである。
結論
AOSLOを用いることで非侵襲的に眼底を細胞レベルで観察することが可能であり、直接的な検眼では検出不可能な微細な糖尿病に伴う細小血管障害は定量的に評価できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419070C

収支報告書

文献番号
201419070Z