患者由来iPS細胞を用いた加齢黄斑変性の病態解明・治療法の開発研究

文献情報

文献番号
201419068A
報告書区分
総括
研究課題名
患者由来iPS細胞を用いた加齢黄斑変性の病態解明・治療法の開発研究
課題番号
H25-感覚-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
辻川 明孝(香川大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉村 長久(京都大学大学院 医学研究科)
  • 平家 俊男(京都大学大学院 医学研究科)
  • 垣塚 彰(京都大学大学院 生命科学研究科)
  • 山城 健児(京都大学大学院 医学研究科)
  • 池田 華子(京都大学大学院 医学研究科)
  • 後藤 謙元(京都大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
9,465,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢黄斑変性(AMD)は先進国における社会的中途失明の最大の原因となっており、我が国でも近年急速に増加している疾患である。最近になって光線力学療法や硝子体注射薬といった治療方法が開発され、加療可能な疾患となってきたが、これらの治療方法の効果は視力を回復させるには十分ではない。そこで我々は、早期加齢黄斑変性に着目し、その段階に特徴的なドルーゼンと呼ばれる沈着物を効果指標として、AMDの病態解明及び新規治療薬の開発を行う。上述した滲出型及び萎縮型AMDは、いずれも早期加齢黄斑変性から進展することが疫学的に知られており、ドルーゼンの形成を抑制することで、早期から後期への進展を防げる可能性がある。
 これまでのドルーゼン研究では、マウスモデル(Ccr2欠損マウス)が研究され、種々の薬剤候補が検討されている。また近年サルAMDモデルが確立され、その組成がマウスに比してヒトに類似していることが分かっており、当科ではVCP阻害剤を用いて、このAMDモデルサルのドルーゼン形成抑制・消失効果を有する可能性が分かりつつある。他方、患者由来iPS細胞を用いたドルーゼン研究という観点からは、近年ドルーゼン様物質の産に成功したという報告があり、創薬の評価系としての役割に期待が持たれている。我々は、これら既報を発展させ、患者由来RPE細胞のドルーゼン産生能という観点から、AMDの病態解明と創薬研究を行っていく。
研究方法
京都大学医学部附属病院眼科を中心に、眼科臨床情報の取得できている患者・健常者を対象とする。具体的には、AMD感受性遺伝子であるARMS2よびCFH, C3,C2, CFB, ApoE遺伝子のうち、少なくとも2つ以上がリスクホモであり、かつ眼底に癒合軟性ドルーゼンを有する対象を患者群、同じく上記遺伝子の全てがノンリスクホモである眼底にドルーゼンを有さない対象を正常群とし、各々6名ずつを当科外来受診患者及び白内障手術目的での入院患者より選定。京都大学医学部医学部附属病院iPS細胞臨床開発部の指針に従い、患者への説明・同意取得を行う。
 これら対象者から採取した皮膚線維芽細胞を用いたiPS細胞の作成は、京都大学iPS研究所基盤技術研究部門の浅香研究所へ依頼しiPS樹立を行う。樹立後のiPS細胞は、SNPジェノタイピングと、高速エクソームシークエンスを行い、上記6つの感受性遺伝子以外の遺伝子変異も可能な限り検討していく。これら遺伝学的解析は、京都大学大学院医学研究科 遺伝・ゲノム医学コース松田教授研究室に依頼する。
 iPS細胞からRPE細胞への分化方法に関しては、当科池田助教を中心とした浮遊培養法(SFEB-DL法)を活用する。具体的には、5-10細胞塊を分化培地にて20日間浮遊培養、その後分化細胞塊を接着培養すると20-30日程度でRPE細胞の前駆細胞に分化し、さらに30-60日培養を持続すると敷石状で色素を持った細胞が出現する。これを顕微鏡下で採取し、更に培養を続けることで、単層シート状のRPE細胞が得られる。こうして取得したRPE細胞を用いて、分化後の長期培養状態、遺伝子多型、細胞ストレス、などのRPE細胞機能に与える影響を、各種条件下での比較検討を行う。
結果と考察
これらの対象者に対し、iPS細胞臨床開発部の担当医師により皮膚組織採取、その後京都大学iPS研究所基盤技術研究部門の浅香研究所へ依頼し、OCT3/4, SOX2, KLF4, MYCの4因子導入によりiPS細胞樹立開始、現在までに3名分のiPS細胞8ラインの譲渡を受けている。うち健常および疾患株の2株がRPE細胞へ分化させることに成功した。更に、分化RPE細胞の形態評価として、電子顕微鏡によりRPEの微絨毛やタイトジャンクションおよびメラニン顆粒などを確認した。
RPE細胞機能評価の予備実験として、市販されているヒトRPE培養細胞(ARPE細胞)を用いて人工ビーズや蛍光色素ラベル豚視細胞外節を用いた貪食能および放射性ヨードラベルロイシンを用いた代謝能評価系を確立した。小胞体ストレス惹起物質であるツニカマイシンをARPE細胞に負荷することにより、人工ビーズや豚眼視細胞外節の貪食能の低下が確認され、小胞体ストレスによりRPE細胞の機能障害を引き起こすことが明らかとなった。現在、ツニカマイシン添加によるRPE細胞機能障害に対する、VCP阻害剤の効果について検討を行っている。また、サルでのVCP阻害剤の効果検討:動物モデル(カニクイザル)でのドルーゼン消失効果をほぼ確認できた。
結論
AMD患者由来のiPS細胞を用いて、体外で患者由来RPE細胞を取得し、ドルーゼン形成能を通してAMDの病態解明・創薬が可能となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419068Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,221,000円
(2)補助金確定額
12,221,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,283,848円
人件費・謝金 3,973,306円
旅費 2,022,680円
その他 185,166円
間接経費 2,756,000円
合計 12,221,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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