日本人常染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子診断法に関する研究

文献情報

文献番号
201419063A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人常染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子診断法に関する研究
課題番号
H24-感覚-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 誠志(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩波 将輝(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 世古 裕子(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,192,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、我々が最近明らかにした日本人の常染色体劣性網膜色素変性症(arRP)の主要原因遺伝子であるEYSについて、遺伝子診断法を確立し、予後予測や治療法の手がかりを得ることである。本年度は、EYS遺伝子の主要変異を有する患者の家系解析並びに患者の皮膚繊維芽細胞から直接リプログラミングによって誘導した視細胞様細胞の発現遺伝子の解析を重点的に行った。
研究方法
(1) EYS遺伝子変異をホモまたはヘテロ接合で有するRP患者103名の家系のうち、家族より遺伝子解析の協力を得られた15家系、38名の親族について、各家系の有する変異の追加解析を行った。(2)正常ボランティア3名と、p.S1653Kfs*2(EYS-JM1)、p.Y2935*(EYS-JM2)、p.G843E (EYS-JM3)をホモあるいはヘテロ接合で有する5名のarRP患者の肘から皮膚繊維芽細胞を採取した。(3)これらの皮膚繊維芽細胞に、4種の転写因子遺伝子(CRX, NEUROD, RAX, OTX2)をレトロウイルスベクターを用いて導入し、RT-PCRによる視細胞特異的遺伝子の発現解析、並びに網羅的遺伝子発現解析を行った。(4)誘導視細胞様細胞について、EYS遺伝子の転写産物の塩基配列解析ならびに、それぞれの細胞から抽出した蛋白質の抗EYS抗体によるウェスタンブロッティングを行った。
結果と考察
(1)EYS-JM1をホモ接合で有する1家系、EYS-JM2をホモ接合で有する1家系、EYS-JM3を有する10家系について、遺伝子変異型に基づく分離解析を行った結果、いずれの家系でも矛盾なく表現型と一致する遺伝子変異型が分離された。(2) p.G2186E(EYS-JM4)を有する3家系について、分離解析を行ったところ、これらにおいても矛盾なく表現型と一致する遺伝子変異型が分離されたことから、この変異も病原性である可能性が高い。 (3)正常ボランティア並びにarRP患者由来の皮膚線維芽細胞を分化誘導した結果、ブルーオプシン、S-antigen、OTX2など視細胞特異的な遺伝子の発現並びにEYS遺伝子の発現がみられた。発現量を定量RT-PCRで比較した結果、ブルーオプシンとS-antigenに関しては、正常細胞と誘導細胞との間で有意な差は認められなかった。(4)網羅的遺伝子発現解析によって、さらに多数の網膜特異的遺伝子の発現について検討を行ったところ、多くの網膜視細胞特異的遺伝子の発現量は、EYS 遺伝子変異の有無には依存しない可能性が示唆された。(5) EYS-JM1をホモ接合で有する患者並びにEYS-JM1とEYS-JM2の複合ヘテロ接合を有する患者由来の誘導細胞は、変異を有するアレル由来の転写産物も発現していることが示された。以上の結果は、ナンセンス変異依存mRNA分解機構(NMD)が働くことなくEYS-JM1を有する転写産物が存在し、短縮ポリペプチドが生成されていることを示唆している。(5) EYS-JM1とp.N404Kfs*3の複合ヘテロ接合を有する患者由来の誘導細胞では、p.N404Kfs*3を有するアレル由来の転写産物を検出することができなかったことから、NMDが働いている可能性が示唆された。(7) ウェスタンブロッティングの結果、抗EYS抗体と結合する蛋白質のバンドが検出されたが、さらなる検討が必要である。
結論
3種の主要変異およびEYS-JM4を有する15家系38名の遺伝学的解析を行ったところ、これらの変異のいずれについても、表現型と一致する遺伝子変異型が分離されたことから、病原性変異である可能性が強く示唆された。また、arRP患者由来のヒト皮膚繊維芽細胞を用いて、直接リプログラミングによる網膜細胞への分化誘導法を検討した結果、4種の転写因子遺伝子を導入することによって視細胞特異的な光トランスダクション関連遺伝子並びにEYS遺伝子を発現する視細胞様細胞に分化誘導できることが示された。arRP患者が有するEYS遺伝子の変異の種類によって、誘導視細胞様細胞におけるEYS遺伝子の転写産物に違いが見られた。この成果はRP患者の網膜の変性機構の解明、さらには診断法・治療法の開発に役立つことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201419063B
報告書区分
総合
研究課題名
日本人常染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子診断法に関する研究
課題番号
H24-感覚-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 誠志(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩波 将輝(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 世古 裕子(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国立障害者リハビリテーションセンターを訪れる視覚障害者の約3分の1が網膜色素変性症(RP)に罹患している。日本全国では約3~4万人のRP患者がいると推定されている。RPは、夜盲に始まり、徐々に視野狭窄、視力低下が起こる進行性の遺伝子疾患であり、現在有効な治療法はない。中途失明により就労が困難となるケースが多く、RP患者の社会生活を支援するためにも、予後の予測法や抜本的治療法が望まれている。本研究の目的は、我々が最近明らかにした日本人の常染色体劣性網膜色素変性症(arRP)の主要原因遺伝子であるEYSについて、遺伝子診断法を確立し、予後予測や治療法の手がかりを得ることである。
研究方法
(1)当センター病院眼科を受診したRP患者262名並びに京都大学病院眼科を受診したarRP患者209名、合計471名のゲノムDNAを用いて、サンガー法によるエクソンの塩基配列解析、並びにMLPA(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)法によるコピー数変異解析を行った。(2)EGF様ドメイン内に存在するミスセンス変異p.G843Eの病原性解析を行った。(3)主要変異をもつ患者家系について、遺伝子型と表現型の分離解析を行った。(4)EYS 遺伝子変異が同定された患者について夜盲の自覚年齢、診断時年齢、視力、視野などの臨床所見に基づいた解析を行った。(5)直接リプログラミング法によりヒト皮膚繊維芽細胞を視細胞様細胞に分化誘導する方法を検討し、誘導細胞についてRT-PCRによる視細胞特異的遺伝子の発現解析、網羅的遺伝子発現解析、光応答性の検討を行った。(6)正常ボランティア並びにarRP患者の皮膚繊維芽細胞から分化誘導した視細胞様細胞で発現しているEYS遺伝子の解析を行った。
結果と考察
(1) 我々が以前EYS遺伝子に見いだした日本人特有の3種の創始者変異p.S1653Kfs*2(EYS-JM1)、p.Y2935*(EYS-JM2)、p.G843E (EYS-JM3)を対象とする一次スクリーニングを行った結果、約30%の陽性患者を同定できることが示された。これら陽性患者において、両側アレルに変異が認められるのは約60%であり、残り40%の患者の約10%についてエクソンの欠失や重複が同定された。また、全エクソン解析の結果、12種類のフレームシフト変異、6種類のナンセンス変異、43種類のミスセンス変異を同定できた。このうち35種類がRPの病因変異候補であった。(2)EGF様ドメイン内に存在するミスセンス変異EYS-JM3は、ドメイン間の保存性、生物種間の保存性、各種ツールによる病原性解析、患者家系の分離解析等から、病原性変異であることが強く示唆された。この変異は健常者にも見られ、保因者率は約4%と推定された。(3) 3種の主要変異をホモ接合あるいは複合へテロ接合で有する患者23名について臨床像を調べた結果、典型的な遅発型のRP臨床像を呈し、高頻度で白内障が見られた。(4)ヒト皮膚繊維芽細胞を用いて、直接リプログラミングによる網膜細胞への分化誘導法を検討した結果、レトロウイルスベクターを用いて4種類の転写因子(OTX2、CRX、RX、NEUROD)を導入することによって視細胞特異的な光トランスダクション関連遺伝子を発現する視細胞様細胞に分化誘導できることが示された。また、作出した視細胞様細胞に光応答(過分極反応)が見られたことから、発現した遺伝子が光トランスダクションの機能を果たしていることが示された。(5) 正常ボランティア並びにarRP患者の皮膚線維芽細胞から分化誘導した視細胞様細胞の発現遺伝子を網羅的遺伝子発現解析とRT-PCRによって解析した結果、正常由来細胞とRP由来細胞いずれにもEYS遺伝子を含め視細胞特異的遺伝子の発現がみられたが、正常由来とRP由来とで発現量に違いがある遺伝子もみられた。(6) EYS-JM1とEYS-JM2を有するarRP患者由来の誘導視細胞様細胞からは、それぞれの変異を有するEYS遺伝子の発現産物が同定できた。
結論
日本人arRP患者の約30%がEYS遺伝子内の3種類の創始者変異を有することが示されたので、これらの有無を調べる一次スクリーニング法が、日本人のarRPの遺伝子診断法として有効であることが示された。遺伝子型と疾患の重症度との間に相関が見られ、今後眼科の臨床現場で予後予測に活用されることが期待される。また、ヒト皮膚細胞を直接リプログラミングによって視細胞様細胞へ分化誘導できることが示された。この方法を用いてRP患者から変性視細胞モデルを簡便に作製できる道が開かれたので、今後この変性視細胞モデルを用いた新規診断法や治療法の開発が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419063C

収支報告書

文献番号
201419063Z