移植治療後の慢性期完全脊髄損傷患者のリハビリテーションと脳機能再構成および脊髄再生との関連性についての評価法の開発

文献情報

文献番号
201419055A
報告書区分
総括
研究課題名
移植治療後の慢性期完全脊髄損傷患者のリハビリテーションと脳機能再構成および脊髄再生との関連性についての評価法の開発
課題番号
H24-身体・知的-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岩月 幸一(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉峰 俊樹(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 )
  • 大西 諭一郎(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 )
  • 田島 文博(和歌山県立医科大学)
  • 中村 健(和歌山県立医科大学)
  • 渡邉 嘉之(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,530,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者: 大西 諭一郎 所属機関名:大阪大学医学部附属病院(平成24年4月1日~26年3月31日)→ 所属機関名:国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科(平成26年4月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄損傷に対する有効な神経再生療法は未だなく、完全脊髄損傷患者においては残存機能の強化リハビリテーションが唯一の治療法である。当グループは損傷後半年以上経過した慢性期完全脊髄損傷患者に対して自家嗅粘膜移植を行い、一定の機能回復を見ているが、慢性期では下肢筋肉の委縮による神経栄養因子の枯渇から脊髄前角細胞の変性・下位運動神経の不全が起こり、脊髄(上位)神経軸索再生のみでは十分な機能回復は得られないことが示唆される。また効果的なリハビリテーションプログラム開発には、脊髄の組織的再生や脳の神経活動の機能的回復を継時的に評価する必要がある。
本申請では慢性期完全脊損患者に術前・術後に積極的リハビリテーションを導入したうえで嗅粘膜移植を行い、より効率的な下肢機能回復を目指すことを目的とする。
研究方法
本研究では機能保存的リハビリテーション・脊髄神経再生・脳神経機能の変化の観点から、下記6つの工程を設ける。
①術前に廃用下肢筋のリハビリテーションにより、筋肉由来神経栄養因子の産生と下位運動神経の維持を図る。②自家嗅粘膜移植による脊髄神経軸索の再生。③術後のバイオフィードバックを用いた随意的筋放電の誘発。 ④長下肢装具装着による積極的歩行訓練。さらに、これら機能回復のプロセスの客観的指標として、下肢運動指標に加え、新たに ⑤DTI(Diffusion Tensor Imaging)で損傷脊髄移植部位の組織的再生を可視化する。⑥脳fMRIで脳神経活動の再構築を解明する。
結果と考察
嗅粘膜移植においては脊髄損傷後、骨損傷に対する治療やリハビリテーションを行ったにもかかわらず、12か月後に完全対麻痺を呈する胸髄損傷患者を対象とした。採取可能な嗅粘膜の量が限られているため、損傷部位の長さは3cm 以下である。術前2ヶ月にわたりリハビリテーションを行い、リハビリによってはやはり下肢運動機能が改善しないことを確認するとともに、術後リハビリが可能な下肢関節の拘縮などがないかを評価した。術後早期から連日リハビリテーションを行うと、4例中3例において6カ月後より運動機能の改善がみられ、4名いずれの患者においても体幹支持性が向上し、日常生活上何らかの運動機能改善が自覚された。ASIA Scoringのうち、運動スコアは、1名では改善が認められなかったが、他の3例では24週以後50から52-57に改善した。下肢筋収縮による筋電図の発現を認め、さらにうち2例で経頭蓋磁気刺激によるmotor evoked potentialの下肢からの導出に成功し、慢性期の完全脊髄損傷において、電気生理学的に神経軸索の再建を証明し得た。感覚および膀胱直腸障害においては変化を認めなかった。
結論
慢性期完全脊髄損傷患者に対し、嗅粘膜移植と積極的リハビリテーションを行い、一定の機能回復を導き、かつ下肢筋電図の導出に初めて成功した。このことは、損傷後数年以上を経た慢性期脊髄損傷患者の機能再建とQOLの向上に新たな道を拓くものである。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201419055B
報告書区分
総合
研究課題名
移植治療後の慢性期完全脊髄損傷患者のリハビリテーションと脳機能再構成および脊髄再生との関連性についての評価法の開発
課題番号
H24-身体・知的-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岩月 幸一(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉峰 俊樹(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 大西 諭一郎(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 田島 文博(和歌山県立医科大学)
  • 中村 健(和歌山県立医科大学)
  • 渡邉 嘉之(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄損傷に対する有効な神経再生療法は未だなく、完全脊髄損傷患者においては残存機能の強化リハビリテーションが唯一の治療法である。当グループは損傷後半年以上経過した慢性期完全脊髄損傷患者に対して自家嗅粘膜移植を行い、一定の機能回復を見ているが、慢性期では下肢筋肉の委縮による神経栄養因子の枯渇から脊髄前角細胞の変性・下位運動神経の不全が起こり、脊髄(上位)神経軸索再生のみでは十分な機能回復は得られないことが示唆される。また効果的なリハビリテーションプログラム開発には、脊髄の組織的再生や脳の神経活動の機能的回復を継時的に評価する必要がある。
本申請では慢性期完全脊損患者に術前・術後に積極的リハビリテーションを導入したうえで嗅粘膜移植を行い、より効率的な下肢機能回復を目指すことを目的とする。
研究方法
本研究では機能保存的リハビリテーション・脊髄神経再生・脳神経機能の変化の観点から、下記6つの工程を設ける。
①術前に廃用下肢筋のリハビリテーションにより、筋肉由来神経栄養因子の産生と下位運動神経の維持を図る。②自家嗅粘膜移植による脊髄神経軸索の再生。③術後のバイオフィードバックを用いた随意的筋放電の誘発。 ④長下肢装具装着による積極的歩行訓練。さらに、これら機能回復のプロセスの客観的指標として、下肢運動指標に加え、新たに ⑤DTI(Diffusion Tensor Imaging)で損傷脊髄移植部位の組織的再生を可視化する。⑥脳fMRIで脳神経活動の再構築を解明する。
結果と考察
 嗅粘膜移植においては脊髄損傷後、骨損傷に対する治療やリハビリテーションを行ったにもかかわらず、12か月後に完全対麻痺を呈する胸髄損傷患者を対象とした。採取可能な嗅粘膜の量が限られているため、損傷部位の長さは3cm 以下である。術前2ヶ月にわたりリハビリテーションを行い、リハビリによってはやはり下肢運動機能が改善しないことを確認するとともに、術後リハビリが可能な下肢関節の拘縮などがないかを評価した。術後早期から連日リハビリテーションを行うと、4例中3例において6カ月後より運動機能の改善がみられ、4名いずれの患者においても体幹支持性が向上し、日常生活上何らかの運動機能改善が自覚された。ASIA Scoringのうち、運動スコアは、1名では改善が認められなかったが、他の3例では24週以後50から52-57に改善した。下肢筋収縮による筋電図の発現を認め、さらにうち2例で経頭蓋磁気刺激によるmotor evoked potential(MEP)の下肢からの導出に成功し、慢性期の完全脊髄損傷において、電気生理学的に神経軸索の再建を証明し得た。感覚および膀胱直腸障害においては変化を認めなかった。
 慢性期脊髄完全損傷に対する嗅粘膜移植術は、現在まで8例実施済みである。うち5例において下肢の随意性運動の発現を認め、うち3例でMEPの検出に成功した。うち1例では、杖歩行ながら自力歩行500m以上が可能となった。
 DTIでは術前に比し、術後リハビリ後損傷部位に向けて多くの神経線維が伸長し、一部その連続性が伺えるものも存在した。
 FMRIによる脳機能解析では、一部減少していた下肢運動野の拡大がうかがわれた。
結論
慢性期完全脊髄損傷患者に対し、嗅粘膜移植と積極的リハビリテーションを行い、一定の機能回復を導き、かつ下肢筋電図の導出に初めて成功した。このことは、損傷後数年以上を経た慢性期脊髄損傷患者の機能再建とQOLの向上に新たな道を拓くものである。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419055C

成果

専門的・学術的観点からの成果
慢性期完全脊髄損傷に対する治療法として、神経軸索が再伸長しうる足場を、自家嗅粘膜という拒絶反応の可能性の低いまた低侵襲的に採取可能な組織を移植する手法で一定の成果を収め、安全な足場の供給が治療の一つの鍵であることを示し得た。
臨床的観点からの成果
神経軸索伸長にすでに拒絶的となった損傷後瘢痕組織を、自家嗅粘膜という神経軸索伸長に許容的な組織に置換し、集中的なリハビリテーションで神経ネットワークを構築させるという戦略に、一定の成果が得られた。脊髄に対する手術の習熟と、正確な嗅粘膜の採取が重要であり、これら技術が確立された。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
本法の安全性、一定の有効性が確認され、技術的要点も明らかにされた。他施設での施行も可能な状態となっており、適切にリハビリテーション施設の選定が行われれば、合わせて有効な治療法となる。また細胞培養などの経費もかからず、医療経済的にも優れていると思われる。
その他のインパクト
日本経済新聞 夕刊1頁
発刊:平成24年11月20日(火)

NHK おはよう日本
平成25年1月25日(金)

NHK world
平成25年2月13日(水)

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201419055Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,489,000円
(2)補助金確定額
8,489,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,562,814円
人件費・謝金 3,455,940円
旅費 309,273円
その他 1,201,973円
間接経費 1,959,000円
合計 8,489,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-