震災後精神症状の脆弱性因子・獲得因子・回復過程の心理・神経基盤を解明し、早期発見・予防・治療のターゲットを特定するための研究

文献情報

文献番号
201419050A
報告書区分
総括
研究課題名
震災後精神症状の脆弱性因子・獲得因子・回復過程の心理・神経基盤を解明し、早期発見・予防・治療のターゲットを特定するための研究
課題番号
H24-精神-若手-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
関口 敦(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
研究分担者(所属機関)
  • 事崎 由佳(東北大学 加齢医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災では,内陸部の被災程度は比較的軽度とはいえ,被災者は多大なストレスに晒されている.過去の研究ではストレス暴露後の脳画像評価が主であり,精神症状(不安,うつなど)の脆弱性/獲得因子の弁別および,精神症状からの回復を予測する諸因子は未解明であった.
 我々の研究室では,宮城県在住の学生・小児を対象とした脳画像研究を行っており,震災前の脳画像データを多数保有しており,これらデータベース内の被験者を再募集し,縦断的に 震災前後の脳形態画像および震災後の精神症状を評価することで,震災後に発現した精神症状の脆弱性/獲得因子および回復過程の心理・神経基盤を解明することができた.
 本研究の目的は,震災前後の脳画像を用いて震災後に発現した精神症状の脆弱性/獲得因子および回復過程の心理・神経基盤を解明することである.
 更に、沿岸部被災地在住の軽度PTSD症状を有する住民に対して園芸療法を用いた生活介入を実施し、軽度PTSD症状における園芸療法の効果を実証することを目指している.
研究方法
 平成26年度には,前年度までに取得した震災前の脳画像データのある大学生32名,健常小児229名の縦断データ、更に対照群として震災前のデータベースから震災経験を挟まない被験者を再検索し,300日以上あけて2回以上のMRI実験に参加していた大学生11人の縦断データの解析を行った.
 また、前年度までの検証結果を足掛かりに、新たな地域コミュニティ再生におけるコミュニティ活性のツールとしての園芸療法の有効性の検証するため、被災地(宮城県沿岸部)でのフィールドワークとして園芸療法を実施し、実施前後での心理状態について評価した。
結果と考察
 大学生被験者の震災1年後の追跡調査の結果,海馬の萎縮,眼窩前頭皮質量の増大を認め,後者は自尊心の強さと正相関していた.これら変化は対照群では認めなかった.回復過程の予測因子として,自尊心の強さが示唆された.また、12歳以上の青年層166名における震災ストレス反応と脳灰白質量変化を検証したところ,右外側前頭皮質の減少および左海馬の増大が震災ストレス反応の脆弱性因子として認められた.同様に12歳以上の青年層155名における震災ストレス反応と脳白質統合栄を検証したところ,左前帯状束の白質統合性の増加と左鉤状束の白質統合性の低下が震災ストレス反応の脆弱性因子として特定された.更に、外傷後成長尺度を評価した小児66名において、震災後の外傷後成長は、震災前に右外側前頭皮質の減少している子どもほど大きいことが明らかになった。右外側前頭皮質の体積減少が、回復過程の予測因子と考えられる。
 園芸療法のフィールドワークの結果、介入群において、対照群と比べて介入後のCAPS得点、自尊感情尺度、GHQ得点、CES-D得点、コミュニティ尺度のコミュニティ感覚合計得点、ニーズの強化得点、影響力得点、情緒的つながりの共有得点が顕著に改善していた。これらの結果から、被災者のストレス症状や心理状態の改善、およびコミュニティ意識の向上が確認され、園芸療法の効果が実証された。
結論
 脳画像研究から特定された諸因子は,災害後精神障害の早期発見,予防,治療への寄与が考えられる.具体的には,災害直後に把握すべき心理特性や神経学的変化についての情報を提示し,これらは,精神療法のターゲットになると考えられる.
 また、大震災から4年が過ぎ、被災者が抱える心身のストレスは改善されてきているが、植物を介在させることでよりストレスを改善させる効果が得られやすくなり、また、被災地の地域コミュニティ再生の円滑なツールになりうるのではないかと期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201419050B
報告書区分
総合
研究課題名
震災後精神症状の脆弱性因子・獲得因子・回復過程の心理・神経基盤を解明し、早期発見・予防・治療のターゲットを特定するための研究
課題番号
H24-精神-若手-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
関口 敦(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
研究分担者(所属機関)
  • 事崎 由佳(東北大学 加齢医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災では,内陸部の被災程度は比較的軽度とはいえ,被災者は多大なストレスに晒されている.過去の研究ではストレス暴露後の脳画像評価が主であり,精神症状(不安,うつなど)の脆弱性/獲得因子の弁別および,精神症状からの回復を予測する諸因子は未解明であった.我々の研究室では,宮城県在住の学生・小児を対象とした脳画像研究を行っており,震災前の脳画像データを多数保有している.本研究の目的は,これらデータベース内の被験者を再募集し,縦断的に震災前後の脳形態画像および震災後の精神症状を評価することで,震災後に発現した精神症状の脆弱性/獲得因子および回復過程の心理・神経基盤を解明することである.更に、有効な治療介入法を開発するために、沿岸部被災地在住の軽度PTSD症状を有する住民に対して園芸療法を用いた生活介入を実施し、軽度PTSD症状における園芸療法の効果を実証することである.
研究方法
 震災前/震災3~4か月後/震災1年後の大学生被験者42名のデータ解析及び成果発表,震災前後の脳画像データがある小児229名の一部に対して震災後ストレス反応および外傷後成長を評価した.加えて,震災未経験の対照群を設定するために,震災前のデータベースから震災経験を挟まない被験者を再検索し,300日以上あけて2回以上のMRI実験に参加していた大学生11人の縦断データを抽出した.
 また,宮城県沿岸部在住で東日本大震災の被害を受けた地域在住の成人女性および高齢女性に対して、生活介入として園芸療法を実施し、介入前後のPTSD重症度、心理状態、唾液ストレスマーカーの変化について評価を行い、軽度PTSD症状における園芸療法の効果検証を行った。更に,新たな地域コミュニティ再生におけるコミュニティ活性のツールとしての園芸療法の有効性の検証するため、被災地(宮城県沿岸部)でのフィールドワークとして園芸療法を実施し、実施前後での心理状態について評価した。
結果と考察
 大学生被験者のデータ解析の結果,前帯状皮質の灰白質量の減少,前帯状束の白質統合性の低下が震災直後の精神症状の脆弱性医因子であることが明らかになった.また,眼窩前頭皮質の灰白質量減少,左帯状束,鉤状束の白質統合性の上昇が,震災後精神症状の獲得因子であることが明らかになった.震災1年後の追跡調査の結果,PTSDを発症した者はいなかった.回復過程の予測因子として,自尊心の強さ,帯状束/鉤状束の動的変化が示唆された.小児被験者の心理データ解析の結果,234名中14名に有意な震災ストレス反応が認められた.また, 12歳以上の青年層166名における震災ストレス反応と脳灰白質量/白質統合性を検証したところ,左海馬体積および左前帯状束の統合性の増大、右外側前頭皮質の減少および左鉤状束の統合性の減少が震災ストレス反応を予測することが明らかになった。更に、外傷後成長尺度を評価した小児66名において、震災後の外傷後成長は、震災前に右外側前頭皮質の減少している子どもほど大きいことが明らかになり、回復過程の予測因子として評価した。
  園芸療法介入研究における成人女性の心理データを分析した結果、介入群はPTSD重症度が有意に軽減し、陽性感情や外傷後成長の向上も確認され、介入前よりも心理状態が改善した。また、ストレスマーカーである唾液中コルチゾール値も介入群において有意に改善した。高齢女性の心理データを分析した結果、介入群はPTSD重症度、うつ状態、健康度が有意に軽減し、生活の質や外傷後成長の向上も認められ、唾液中コルチゾール値も介入群において有意に改善した。フィールドワークでの結果は、介入群において、対照群と比べて介入後のCAPS得点、自尊感情尺度、GHQ得点、CES-D得点、コミュニティ尺度のコミュニティ感覚合計得点、ニーズの強化得点、影響力得点、情緒的つながりの共有得点が顕著に改善していた。
結論
 脳画像研究により特定された諸因子は、災害後精神障害の早期発見,予防,治療への寄与が考えられる.具体的には,災害直後に把握すべき心理特性や神経学的変化についての情報を提示し,これらは,精神療法のターゲットになると考えられる.
 また、園芸療法介入研究の結果から、東日本大震災を経験したことによってみられていた軽度TSD症状やストレス症状など心理状態の回復が見られ、軽度PTSD症状を持つ女性に対する園芸療法の効果が認められ、また、コミュニティ意識の向上という意味でも園芸療法の効果が認められた。これは、東日本大震災のような大規模自然災害を経験した人々に対する中長期的な心理的支援の方法の一つの可能性としての園芸療法の有効性を示唆できるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419050C

収支報告書

文献番号
201419050Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,200,000円
(2)補助金確定額
1,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 145,410円
人件費・謝金 0円
旅費 582,950円
その他 195,640円
間接経費 276,000円
合計 1,200,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-