向精神薬の処方実態に関する研究

文献情報

文献番号
201419047A
報告書区分
総括
研究課題名
向精神薬の処方実態に関する研究
課題番号
H26-精神-指定-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中込 和幸(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 三島 和夫(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部)
  • 中川 敦夫(慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター)
  • 稲垣 中(青山学院大学国際政治経済学部)
  • 伊藤 弘人(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会精神保健研究部)
  • 奥村 泰之(一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
  • 山之内 芳雄(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会精神保健研究部 )
  • 石郷岡 純(東京女子医科大学医学部精神医学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
15,754,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、現時点でのわが国における向精神薬の処方実態を明らかにすることを目的とする。とくに、①診療報酬データを用いて、近年の向精神薬処方の動向を明らかにすること、②広範なデータベースを用いることで、より実態に即したデータを得ること、③児童思春期患者における向精神薬の処方実態について検討すること、④相互作用、という視点からQT延長のリスクにつながる抗精神病薬の併用処方を明らかにすること、⑤うつ病患者に対する治療戦略の選択に関する日米間での比較を行うこと、⑥統合失調症の薬物治療ガイドラインを作成すること、⑦抗精神病薬の減量方法の精緻化を図ること、を盛り込んだ。
研究方法
① 大型健保団体の診療報酬データ、社会医療診療行為別調査等の大規模データベースを用いて、向精神薬処方の実態と経年変化を検討した。とくに診療報酬改定に伴う抗不安・睡眠薬の多剤大量処方の変化に着目した。② 国府台病院,肥前精神医療センターより抽出した薬歴データを利用して児童思春期患者の処方調査を実施した。③ 2004年4月~2005年3月の間で、精神科病院から入院治療を受けて退院した統合失調症患者1437名を対象として、同じシトクロムP450(CYP)アイソフォームで代謝される複数の抗精神病薬の処方に関連するQTc間隔延長を確認した。④ 日米の精神科医のうつ病の治療戦略の選択の違いを通じて精神科処方選択に及ぼす影響を検討した。⑤ 統合失調症の薬物治療ガイドラインを広範なエビデンスに基づき、日本医療機能評価機構の医療情報サービス(Minds)の方法に従って作成した。⑥ 多剤大量処方の緩徐な減量法(SCAP法)の、さらに多剤大量療法(1500mg/day~・CP equiv)患者への適応可能性について検討した。
結果と考察
診療報酬データを用いたトレンド解析の結果、向精神薬4種(睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬)の処方率は2010年度以降、同水準で推移している。一方、社会医療診療行為別調査等の大規模データベースを用いた解析から、精神科外来通院患者において、抗不安薬の3剤以上の処方割合は、2012年の診療報酬改定後、睡眠薬の3剤以上の処方割合は、2014年の診療報酬改定後に減少傾向が確認された。さらに、大規模データベースを用いた解析結果から、わが国では抗認知症薬使用者(認知症患者)の21%に抗精神病薬が使用され、2002年から2010年の9年間で微増傾向にあることが示された。薬歴データを用いた調査からは、児童思春期患者への向精神薬の使用については、大量療法や多剤併用が広く行われていると考える根拠は乏しいように思われた。QTc延長のリスクとして、女性、CYP3A4-代謝薬の組み合わせがある場合、およびCYP1A2-代謝薬の組み合わせがない場合が挙げられた。日本の精神科医師は、薬物選択において診療ガイドラインを情報源とするのに対して、米国では臨床意思決定支援サイトを活用する傾向が認められた。また、日本人医師はベンゾジアゼピン使用に寛大であること、米国人医師は逆にSSRIを含む抗うつ薬全般にわたって、その副作用に寛容であった。統合失調症の薬物治療ガイドラインについては、27の臨床疑問を設定し、推奨草案と解説草案を作成した。抗精神病薬の減量ガイドラインについては、予備的検討として、国立精神・神経医療研究センター病院精神科で、カルテ調査により、過去2年間になされた抗精神病薬の減量速度をレトロスペクティブに検証した。その結果、予想通り、減量速度は危険要因になる可能性が示された。
結論
向精神薬処方の動向については、少なくとも増加傾向にはないことが示された。向精神薬の併用処方の割合も概ね減少傾向にある。一方、児童思春期患者に関しては、薬物使用に関して慎重な姿勢が窺われた。また、認知症と推定される患者の5人に1人に対して抗精神病薬が使用され、微増傾向にあることは懸念材料として挙げられる。統合失調症の薬物治療ガイドラインや抗精神病薬の減量ガイドラインについては、本研究で明らかにされたわが国における処方実態を踏まえた上で作成する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419047C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、大規模なデータベースとして、医療扶助実態調査や社会医療診療行為別調査に係る調査票情報を用いた解析を行った。こうした大規模データベースを用いることによって、はじめて生活保護受給者や国民健康保険加入者の情報を統合し、より実態に即した状況が把握できるようになった。その結果、2012年、2014年の診療報酬改定によって抗不安薬、睡眠薬の多剤併用処方の割合の減少に寄与した可能性や、抗認知症薬使用患者における抗精神病薬の併用率が減少していないことなど、貴重な成果が得られた。
臨床的観点からの成果
心臓突然死などの重大な副作用につながる危険があるQTc延長のリスクについては、女性、CYP3A4-代謝薬の組み合わせがある場合、およびCYP1A2-代謝薬の組み合わせがない場合、などいくつかの要因が示唆された。精神疾患患者における心血管疾患のリスクの高さを考慮すると、QTc延長のリスクに関して、貴重なエビデンスが得られたと考えられる。統合失調症の薬物治療ガイドラインや多剤併用大量療法患者の減薬法など、現場の臨床医にとってニーズの高い研究であり、いずれもさらなる研究の推進臨まれる。
ガイドライン等の開発
統合失調症の薬物治療ガイドラインについては、MINDS法を適用して作成されており、わが国の実態に即した、質の高いガイドラインが完成し、広く使用されることが期待される。
その他行政的観点からの成果
2012年、2014年の診療報酬改定における減算措置後、抗不安薬、睡眠薬の多剤併用処方の割合が減少しており、一定の効果があった可能性が示唆された。一方、向精神薬の処方率には大きな変化は見られず、向精神薬の処方行動そのものが減じることはなかった。その要因については、今後検討する価値がある。
その他のインパクト
とくになし。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakagawa A, Williams A, Sado M, et al.
Comparison of treatment selections by Japanese and US psychiatrists for major depressive disorder: A case vignette study.
Psychiatry Clin Neurosci. , 69 (9) , 553-562  (2015)
10.1111/pcn.12273.

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
2020-06-03

収支報告書

文献番号
201419047Z