臨床評価指標を踏まえた睡眠障害の治療ガイドライン作成及び難治性の睡眠障害の治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
201419040A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床評価指標を踏まえた睡眠障害の治療ガイドライン作成及び難治性の睡眠障害の治療法開発に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 三島 和夫(国立精神・神経医療研究センター 精神生理研究部)
  • 石郷岡 純(東京女子医科大学医学部精神医学教室)
  • 清水 徹男(秋田大学医学部大学院医学系研究科精神科学講座)
  • 山下 英尚(広島大学病院精神科)
  • 山寺 亘(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター精神神経科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
12,689,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ベンゾジアゼピン誘導体ないしベンゾジアゼピン受容体アゴニスト(以下ベンゾジアゼピン系薬剤とする)は、長年にわたり睡眠薬治療の主役であった。しかしながら、この種の薬剤では、急性投与における副作用のみならず長期投与下で生じる耐性と依存形成リスクが懸念される。本研究は、慢性不眠症に対するベンゾジアゼピン系睡眠薬の不適切な使用を抑制するために、同系薬剤治療に対する抵抗例の特性を明らかにすることを目的として行った。
研究方法
睡眠総合ケアクリニック代々木を2004年から2010年の間に初診し、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-IV)に準拠して原発性不眠症primary insomnia慢性例と診断され、BZP系睡眠薬単剤常用量による治療開始となった患者連続例140名(男性68名、女性72例、平均年齢53.8±10.8歳)を研究対象とした。
対象患者に対しては、指定された睡眠薬の服用開始前に、性別、年齢、不眠の発症年齢と罹病期間、婚姻状況(既婚/独身)、教育歴、雇用状況などの情報を採取した。また、Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)とZungのself-rating depression scale(SDS)を自記させた。本研究は、BZP系睡眠薬での耐性・依存形成が服用開始6か月以上経過時点で上昇し始めることに注目し、予後観察期間を6か月とした。
追跡終了時点で、対象患者は睡眠薬中断群(期間中に十分な症状改善が得られ、処方中止が可能だった群)と長期使用群(終了時点までに十分な改善が得られず服用継続となった群)に二分された。なお、PSQIは前者群では服用終了時点で、後者群では6か月後の観察終了時点で自己評価させた。
結果と考察
本研究で6か月追跡時点での治療終結者は64例(45.4%)にとどまった。残りの長期服用者(76名、54.6%)において、28名は同一薬剤を同用量服用しており、41例では追跡期間中に増量もしくは多剤の追加が、7例では多剤への変更がなされていた。
 中止・長期服用の二群間では、教育歴、ベースライン時点でのPSQI総得点に有意差が診られたが、その他の指標については群間差はみられなかった。
 ロジステッィック回帰分析の結果では、単回帰、重回帰ともに、PSQI総得点が服用中止/長期継続に関連していた。そこで、PSQIを指標として6か月時点での服用中止予測のためのROCカーブ解析を行ったところ(AUCは0.86)、服用長期化を予測するカットオフ得点は13.5点であった。
 そののち、ロジスティック回帰分析を再度用いて、ベースライン時点でのPSQIの下位項目を独立変数として、治療長期化との関連指標を検討した。その結果、C1、C3, C4,C6が有意な関連要因となった。
本研究のROCカーブ解析において、PSQI得点の高い重症例が長期化していたことを考えると、不眠の重症化がもっとも睡眠薬単剤による治療を困難にしているものと考えられた。
また、本研究におけるもっとも特筆すべき点は、PSQIの下位項目と治療長期化の関係である。この中でC6得点(睡眠薬の服用)が有意な治療抵抗性の関連要因となった点は、治療開始時点ですでに過去から同系の薬剤を服用していたために耐性が形成されて効果が得られなかったことを示している可能性がある。また、不眠の症状構造に関する項目群の中で、睡眠維持障害に関連する項目(C1,C3,C4)が治療反応性と有意に関連し、入眠障害に関連するC2(文献18)ならびに睡眠薬の血中濃度半減期分類は関連していなかった。このことは、睡眠薬は半減期によらず入眠障害には有効性が高いが、睡眠維持障害への効果は全般的に入眠障害に比べて劣るという一般的な特性と関連しているものと推測された。
結論
不眠患者における睡眠薬治療への抵抗性は、重症度と関連しており、そのカットオフとしてPSQI 13.5点が抽出された。また、睡眠維持障害の水準も治療反応と関連することがわかった。先に述べた認知行動療法が、睡眠薬耐性形成例にも有効であること、薬剤減量の補助としても重要であることを考えると、本研究で明らかになった睡眠薬治療抵抗性の予測される慢性不眠症例には、積極的に本治療を導入することを検討すべきであろう。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201419040Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,495,000円
(2)補助金確定額
16,495,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,971,730円
人件費・謝金 1,468,113円
旅費 1,159,198円
その他 4,089,959円
間接経費 3,806,000円
合計 16,495,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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