医療観察法対象者の円滑な社会復帰促進に関する研究

文献情報

文献番号
201419035A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法対象者の円滑な社会復帰促進に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 病院精神リハビリテーション部、第二精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(独立行政法人国立病院機構 琉球病院)
  • 永田 貴子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 田口 寿子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 村田 昌彦(独立行政法人国立病院機構 北陸病院)
  • 吉住 昭(独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター)
  • 大橋 秀行(埼玉県立大学)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
14,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の主たる目的は、司法精神医療に関する基礎的データを収集・分析する欧米並みのシステムを構築すること、および医療観察法対象者の質の高い社会復帰を促進することである。
研究方法
結果と考察に示した7つの分担研究班を組織し、各班の研究成果をもとに医療観察法および精神保健福祉法による医療の現状を把握するとともに課題を整理した。
結果と考察
1. 医療観察法による医療情報等のデータベース構築に関する研究(村上優)
指定入院医療機関で使用されている診療支援システムからデータを集め、研究目的で使用する場合について、技術的、実務的、倫理的課題を整理した。
2. 指定入院医療機関退院後の予後調査(永田貴子)
平成17年7月15日から平成26年7月15日の間に、指定入院医療機関に入院し、予後調査に同意した計402名の転帰及び予後を調査した。観察期間は計794人・年であった。医療観察法の要件となるような重大な他害行為の累積発生率は、3年目で2.4%であった。また、標準化死亡比(SMR) は3.84であった。以上の結果より、入院処遇対象者は退院後概ね良好な経過を辿っていることが明らかとなった。
3. 再び重大な他害行為を行った対象者及び再入院者に関する調査(田口寿子)
処遇終了群と再入院群では、対象者特性に大きなちがいはなく、医療観察法処遇の成否は精神症状や併存障害に対する医療的介入、服薬アドヒアランスの確立、通院処遇における有効な地域支援体制の構築などによることが明らかとなった。
4. 入院処遇から通院処遇を経ないで処遇終了となる事例の予後調査(村田昌彦)
医療観察法施行から平成25年度末までに240名が処遇終了退院となっており、そのうち208名(86.7%)を捕捉した。処遇終了退院者は年20名から30名で推移していること、処遇終了に至るまでの入院期間は長期化していること(976日)が明らかとなった。
5. 「医療観察法による医療と精神保健福祉法による医療との役割分担及び連携に関する研究」(吉住 昭)
その1 措置入院となった精神障害者の治療転帰に関する後ろ向きコホート研究
平成22年4月1日~平成23年3月1日において措置解除となった者1,421名を対象として、後ろ向きコホート調査を実施した。
その1-1 警察官通報調査との対比ならびに治療継続状況等に関する検討」(執筆者 瀬戸秀文)
措置解除時点での転帰から、入院継続、通院医療、転医、死亡、その他に分類してみると、入院継続では、入院期間を差し引いても通院、その他に比して治療継続期間が長く、入院中に治療継続の下地となる関係構築や環境調整等がなされた可能性が示唆された。
その1-2 措置解除・退院後の生命転帰に関する検討(執筆者 稲垣 中)
措置入院より退院した患者の死亡リスクは一般人口の9.61倍で、このうち統合失調症患者は6.55倍、気分障害患者は16.35倍であることが明らかとなった。
その1-3 措置入院となった統合失調症圏患者の退院時処方(執筆者 稲垣 中)
措置入院より退院となった統合失調症患者における抗精神病薬の単剤投与率は55.1%で、わが国で一般に認識されているよりも単剤投与率が高いことが明らかとなった。
その2 措置入院治療ガイドライン研究(執筆者 小口芳世)
医療観察法による入院処遇ガイドラインに沿って、措置入院ガイドラインの検討に着手した。同ガイドライン作成に当たっての課題を整理し、医療面、措置解除時の問題、行政との連携の3点を十分に考慮することの重要性が指摘された。
6. 社会復帰の質の向上を目的とした就労支援プログラムの導入と普及に関する研究(大橋秀行)
指定通院医療機関において通院版就労準備プログラムを実施することにより、同プログラムを実践する際の臨床応用方法が明らかとなった。
7.入院期間の短縮と治療プログラムの効果的実施に関する研究(村杉謙次)
入院期間に関する精神保健福祉士の意識調査を実施し、精神保健福祉士は入院期間短縮化に向けた具体的な方策を持ち得ていないことが明らかとなった。初年度の研究結果も踏まえ、統合失調症事例に対するクリティカルパス(案)を作成した。
結論
医療観察法医療の転帰や予後は医療観察法施行前と比較すると良好であり、医療観察法により、対象者の社会復帰は概ね適切に促進されている。措置入院解除後の転帰及び長期予後に関するコホート調査の結果、我が国で初めて明らかとなった再入院率、通院継続率、退院時処方内容、疾病別標準化死亡比等の結果を踏まえ、措置入院制度の検討が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201419035B
報告書区分
総合
研究課題名
医療観察法対象者の円滑な社会復帰促進に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 病院精神リハビリテーション部、第二精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(独立行政法人国立病院機構 琉球病院)
  • 永田 貴子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 田口 寿子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 村田 昌彦(独立行政法人国立病院機構 北陸病院)
  • 吉住 昭(独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター)
  • 大橋 秀行(埼玉県立大学)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の主たる目的は、司法精神医療に関する基礎的データを収集・分析する欧米並みのシステムを構築すること、および質の高い社会復帰を促進することである。
研究方法
結果と考察に示した7つの分担研究班を組織し、各班の研究成果をもとに医療観察法および精神保健福祉法による医療の現状を整理するとともに、今後の課題を考察した。
結果と考察
1. 医療観察法による医療情報等のデータベース構築に関する研究
平成25年度より、診療目的(診療録のバックアップ等)として、全指定入院医療機関の病床791床のうち421床(53.2%)でデータベース化が可能なネットワークシステム構築を完了した。また、研究目的のデータベース構築の技術的、実務的、倫理的側面についての検討を終えた。
2. 指定入院医療機関退院後の予後調査
指定入院医療機関退院後、通院処遇に移行した対象者累積402例の予後調査を実施した。Kaplan-Meier法により推定された重大な再他害行為の発生率は1,095日目で2.9%、同自殺率は2.4%、精神保健福祉法による1年入院率は32.1%であった。我が国の一般人口と比較した標準化死亡比は、3.84であった。本研究では、再他害行為、自殺率とも低い水準で推移していることが明らかとなった。
3. 再び重大な他害行為を行った対象者及び再入院者に関する調査
処遇終了群40例と再入院群39例を比較し、医療観察法処遇の成否にとって、精神症状や併存障害に対する医療的介入、服薬アドヒアランスの確立、通院処遇における有効な地域支援体制の構築が重要であることが示唆された。
4. 入院処遇から通院処遇を経ないで処遇終了となる事例の予後調査
平成25年度末までに、入院処遇となった対象者のうち、通院処遇に移行せず処遇終了した対象者(法施行後通算) 240例のうち208例(86.7%)を把握し分析した。処遇終了退院者数は概ね年間20~30名で推移し、また、直近一年間の処遇終了退院者の入院期間は976日と延長傾向にあることが明らかとなった。
5. 医療観察法による医療と精神保健福祉法による医療との役割分担及び連携に関する研究
研究1: 措置入院に関する診断書各項目の措置要否判断にかかるOdds比ならびに各項目の組み合わせと措置要否判断の割合(執筆者 瀬戸秀文)
全国すべての都道府県・政令指定都市を対象に、平成22年5月1日から同月31日までに警察官通報がなされたすべての事例(警察官通報群)を調査した。措置要否判断の割合は、暴行のおそれと妄想の有無でまず分岐しており、問題行動と精神症状の両方が精神保健指定医の判断に影響することが明らかとなった。
研究2: 措置入院となった精神障害者の治療転帰に関する後ろ向きコホート研究
平成22年4月1日~平成23年3月1日において措置解除となった者1,421名を対象として、後ろ向きコホート調査を実施した(措置解除コホート群)。
その1 警察官通報調査との対比ならびに治療継続状況等に関する検討
措置解除後、他の入院形態に移行し入院を継続した場合、入院期間を差し引いても、解除直後より通院等になった者より、退院後の治療継続期間が長いことが明らかとなった。
その2 措置解除・退院後の生命転帰に関する検討
措置入院より退院した患者の死亡リスクは一般人口の9.61倍で、このうち統合失調症患者は6.55倍、気分障害患者は16.35倍であることが明らかとなった。
その3 措置入院となった統合失調症圏患者の退院時処方
措置入院より退院となった統合失調症患者における抗精神病薬の単剤投与率は55.1%で、我が国で一般に認識されているよりも単剤投与率が高いことが明らかとなった。
研究3 措置入院治療ガイドライン研究
措置入院ガイドライン作成に当たっての課題として、医療面、措置解除時の問題、行政との連携の重要性が指摘された。
6. 社会復帰の質の向上を目的とした就労支援プログラムの導入と普及に関する研究
指定通院医療機関において通院版就労準備プログラムを実施することにより、同プログラムを実践する際の臨床応用方法が明らかとなった。
7.入院期間の短縮と治療プログラムの効果的実施に関する研究
研究1:入院期間に影響を与える要因の実践には施設間差があり、入院期間に影響を与えていることが明らかとなった。また、研究2:精神保健福祉士の意識調査では、入院期間短縮化に向けた具体的な方策を持ち得ていないことが明らかとなった。以上2つの研究結果を踏まえ、研究3:統合失調症事例に対するクリティカルパス(案)を作成した。
結論
本研究により、医療観察制度及び措置入院制度の実態が明らかとなり、医療観察制度は概ね良好に運営されていると結論づけられた。一方、両制度に対する継続的かつ安定的な調査体制の確立が不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
学術関係としては、平成27年6月5日、6日に行われる日本精神神経学会、平成27年6月19日、20日に行われる日本司法精神医学会で研究成果を報告する予定である。全国の指定医療機関から約400名程度の従事者が集まり、平成27年6月26日、27日に開催される医療観察法関連職種研修会において本研究班の研究分担者が研究成果を報告する予定である。なお、本研究の結果を基にして、論文発表7件、学会発表17件が行われた。
臨床的観点からの成果
医療観察法医療の転帰や予後は比較的良好であり、医療観察法により、対象者の社会復帰は概ね適切に促進されていることが明らかとなった。措置入院解除後の転帰及び長期予後に関するコホート調査の結果、我が国で初めて明らかとなった再入院率、通院継続率、退院時処方内容、疾病別標準化死亡比等の結果を踏まえ、措置入院制度の改善が期待される。また、統合失調症を対象としたクリティカルパスを臨床診療に用いることや、措置入院ガイドラインを作成することによって、司法精神医療の標準化を図ることができるであろう。
ガイドライン等の開発
医療観察法入院処遇については、統合失調症を対象としてクリティカルパスを作成した。通院処遇については、通院版就労準備プログラムを作成した。また、医療観察法入院処遇ガイドラインに沿って、措置入院ガイドライン作成に当たっての課題を抽出し、同ガイドライン作成にかかる今後の方向性を示した。平成29年度にまとめられた措置入院ガイドラインの基礎資料として利用された。
その他行政的観点からの成果
本研究は医療観察法に関する行政的研究であり、今後の施策の基礎的資料として、厚生労働省、社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課医療観察法医療体制整備推進室、及び法務省、保護局総務課精神保健観察企画官室に研究報告書を提出する。また、厚労省で実施されている重度精神疾患標準的治療法確立事業に当班の成果が活用されることとなった。
 また、東京地方裁判所の開催する心神喪失者等医療観察法関係研究協議会、保護観察所の開催する東京都心神喪失者等医療観察制度運営連絡協議会などにおいて研究成果を提供した。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaoru Arai, Ayumi Takano, Takako Nagata et al.
Predictive accuracy of the Historical- Clinical-Risk Management-20 for violence in forensic psychiatric wards in Japan
Criminal Behaviour and Mental Health  (2016)
10.1002/cbm.2007
原著論文2
Ryoko Tomizawa, Mayumi Yamano, Mitue Osako et al.
Validation of a global scale to assess the quality of interprofessional teamwork in mental health settings
Journal of Mental Health  (2016)
10.1080/09638237.2016.1207232
原著論文3
Noriomi Kuroki, Hiroko Kashiwagi, Miho Ota et al.
Brain structure differences among male schizophrenic patients with history of serious violent acts: an MRI voxel-based morphometric study
BMC Psychiatry  (2016)
10.1186/s12888-017-1263-9
原著論文4
Hiroko Kashiwagi, Naotsugu Hirabayashi
Death Penalty and Psychiatric Evaluation in Japan
Frontiers in Psychiatry , 9 , 1-5  (2018)
10.3389/fpsyt.2018.00550
原著論文5
Hiroko Kashiwagi, Akiko Kikuchi, Mayuko Koyama, Daisuke Saito, Naotsugu Hirabayashi
Strength-based assessment for future violence risk: a retrospective validation study of the Structured Assessment of PROtective Factors for violence risk (SAPROF) Japanese version in forensic psychiatric inpatients
Annals of General Psychiatry , 17 , 1-8  (2018)
doi: 10.1186/s12991-018-0175-5

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
2019-08-07

収支報告書

文献番号
201419035Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,900,000円
(2)補助金確定額
18,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,311,835円
人件費・謝金 3,338,580円
旅費 2,876,059円
その他 3,012,526円
間接経費 4,361,000円
合計 18,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-