医療観察法の向上と関係機関の連携に関する研究

文献情報

文献番号
201419027A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法の向上と関係機関の連携に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中島 豊爾(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 管理部・医療部)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(国立病院機構琉球病院)
  • 平林 直次(国立精神・神経センター病院)
  • 藤井 康男(山梨県立北病院)
  • 兼行 浩史(山口県立こころの医療センター)
  • 宮本 真巳(亀田医療大学)
  • 五十嵐 禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療観察法における医療の実態の継続的把握を行い、入院医療の質の均霑化及び通院医療の質的向上を目指す。さらに、倫理的視点及び転帰・予後の観点やチーム医療の立場からも検討を加え、研究で明らかになった課題の解決策を検討し、政策提言を行うことを目的とする。
研究方法
指定入院医療機関相互のピアレビュー及びアンケート調査等により入院・通院医療の実態を把握し、検討を加えた。
結果と考察
1.ピアレビューを行い、病棟運営、プログラム運営、地域調整、入院期間などを相互点検した。レビュアーから指摘された事項について医療機関が具体的改善に取り組み、3ヶ月後に改善点の報告を徹底することにより、ピアレビューが医療の質の改善を確実なものとし、均霑化に資することとなった。新規長期入院例142例を集積し、①退院の見通しが具体化している、②条件が整えば退院可能となる、③退院の見通しが立っていない、の3群に分類した結果、③に分類されるものが62/142例あり、事例検討により長期入院がやむを得ないとされたものは4/62例、処遇終了の検討は1/62例であった。なお、自殺未遂は10例、既遂は2例報告された。
2.指定入院医療機関30施設32病棟においてKaplan-Meyer法により入院日数を推計した結果、推計入院日数の中央値は772日(95%信頼区間751-792日)、平均値は989日(95%信頼区間946-1,032日)であった。平均入院期間の伸びは和らいだものの依然として延長していた。中央値はほぼ変化はなかった。病床あたりの年間隔離実施件数はほぼ変化はなく、身体拘束は若干の増加傾向を認めた。修正型電気けいれん療法(m-ECT)は、法施行から平成25年度までで47名であったが、26年度は1年間で20名に実施された。また今年度の調査期間中にクロザピン投与を受けていた対象者は85名であった。m-ECT及びクロザピン投与ともに増加傾向であった。
3.通院対象者の治療不遵守時の強制通院制度に対する意識調査の結果、司法が権限を持つ強制通院制度の必要性を検討する必要があるとするものが9割を占めた。通院対象者の治療不遵守について、現行の法や救急医療システムの整備で対応を行うか、強制通院制度の整備が必要かに分けて論点を整理した。
4.医療観察法医療対象者の転帰について法務省保護統計をもとに平成25年末まで9年間の推移を報告した。しかし平成26年度にはデータが開示されず推移を追うことができなかった。医療観察法医療の効果を検証するには転帰・予後をモニタリングするシステムの構築が不可欠であり、次の2点が必要と考えられた。①個別事例にID番号を割り付けることが必要。これにより転院や再入院、入院と通院を連続して検証できる。②入院・通院医学管理料請求時に退院報告書、処遇終了報告書の提出を義務づけることにより転帰が確認できる。また法務省事件管理システムでは処遇を終了するまでの転帰が把握でき、情報開示が定期的に行われる体制整備が望ましい。
5.スタッフ教育のために専門・認定看護師、大学教員看護師が指定入院医療機関のチーム会議等に参加した。また司法精神看護ワークショップを開催し、アンケート調査を実施した。そして司法精神看護認定看護師を対象に半構造化面接調査を実施した。その結果、指定入院医療機関での多職種連携を活性化させるには、感情活用に根差す包括的アセスメント、スタッフのエンパワメントに重点をおいた事例検討の普及、認定看護師の活用を通じた看護スタッフの資質向上等が重要であることが示唆された。
6.医療観察法病棟倫理会議の運用状況を中心とした対象者の人権擁護に関する法的・倫理的な問題に関して検討を行った。倫理会議は、全ての病棟で月1回以上開催されていた。審査結果についても、事前審査で不承認となった事例や事後審査で意見のついた事例が存在しており、倫理会議のセカンド・オピニオンとしての機能はおおむね順調に機能していることが示唆された。
結論
医療観察法医療の効果を検証するためには、対象者の転帰・予後についての把握が必要であるが、現在は対象者の全数調査を行うことが不可能である。法務省、厚生労働省が連携し、全対象者にID番号を付与し、退院報告書、処遇終了報告書の提出を義務付けるなどの対策が必要である。また、入院期間の長期化は依然として存続しており、指定入院医療機関の機能分化も含め、妥当な入院日数についての再検討を行う必要がある。指定入院医療機関においては、m-ECT及びクロザピンの使用は増加傾向にあるが、各帰住地の指定通院医療機関においてもクロザピン投与が可能とならなければならない。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201419027B
報告書区分
総合
研究課題名
医療観察法の向上と関係機関の連携に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中島 豊爾(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 管理部・医療部)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(国立病院機構琉球病院)
  • 平林 直次(国立精神・神経センター病院)
  • 藤井 康男(山梨県立北病院)
  • 兼行 浩史(山口県立こころの医療センター)
  • 宮本 真巳(亀田医療大学)
  • 五十嵐 禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療観察法における医療の実態の継続的把握を行い、入院医療の質の均霑化及び通院医療の質的向上を目指す。さらに、倫理的視点及び転帰・予後の観点やチーム医療の立場からも検討を加え、研究で明らかになった課題の解決策を検討し、政策提言を行うことを目的とする。
研究方法
指定入院医療機関相互のピアレビュー及びアンケート調査等により入院・通院医療の実態を把握し、検討を加えた。
結果と考察
1.平成25年度からピアレビューが事業化された。ピアレビューにより、医療観察法入院医療の質の均霑化が実際に促進された。平成26年からは、レビュアーから指摘された事項について、具体的改善に取り組んだ結果を3ヶ月後に報告することを徹底し、医療の質改善を確実なものとした。また、3年間で、入院後18ヶ月以上の対象者370例を集積し、長期化要因について検討した。なお、自殺未遂は10例、既遂は2例の報告があった。
2.指定入院医療機関の基礎的データを収集し分析するため、平成24~26年度の3年間において、①指定入院医療機関における入院期間調査、②入院医療機関の医療の実態調査、③Fidelity check sheetを用いた指定入院医療機関の機能調査を実施した。推計入院日数は、平成21年度の中央値603日(95%信頼区間:577-629)、平均値620日(95%信頼区間:591-650)から平成26年度の中央値772日(95%信頼区間:750-791)、平均値989日(95%信頼区間:946-1,032)まで毎年延長していたが、推計入院日数の伸びは鈍化しつつあった。
3.指定通院医療機関におけるCPMS(Clozaril Patient Monitoring System)登録状況を確認したところ、平成25年12月末時点で、回答を得た243施設中登録施設は79施設であり、3分の1程度にとどまっていた。また、地域差が大きく、クロザピンが処方できる指定通院医療機関を増やすことが喫緊の課題と考えられた。
4.先行研究で作成した転帰フローチャートを改訂し、平成23年度に当初審判を受けた対象者群に対して、全国52ヶ所の保護観察所(支部2ヶ所を含む)に協力を要請して予備的調査を行った。また、医療観察法医療の転帰・予後を調査・研究するためには、新たなモニタリングシステムの構築が不可欠であるとの結論に至った。
5.アンケート調査により、医療観察法病棟倫理会議の運用状況を中心とした対象者の人権擁護に関する法的・倫理的な問題に関して検討を行った。指定入院医療機関の倫理会議の開催頻度や内容について、毎年1回のモニタリングを行った結果、倫理会議は、全ての病棟で月1回以上開催されていた。また審査結果は、事前審査で不承認となった事例や事後審査で意見のついた事例が存在するなど、セカンド・オピニオンとしての機能はおおむね順調に機能していることが示唆された。
結論
結論 1.指定入院医療機関の推計入院日数を見る限り、法施行前に想定された入院期間18ヶ月を大幅に超過している。引き続き集中的な長期入院化対策とともに、指定入院医療機関の地域偏在の解消や必要最低限の増床の検討に入るべき時期にある。
2.ピアレビューにより、医療観察法医療の担い手が相互点検を行うことで、新たな治療プログラムの導入や、初期治療の充実などの行程管理など現実的で具体的な均霑化がなされた。また、ピアレビュアーから指摘された事項に対して、レビューを受けた側の医療機関が具体的に改善に取り組み、改善結果の報告を徹底することで効果が具体化した。ピアレビューが継続性のある事業として実施される必要がある。
3.指定入院医療機関でのクロザピン使用は、治療反応性の評価、漫然とした長期入院を予防するために、全ての入院施設で適応がある対象者には積極的に用いるべきであり、体制整備とモニタリングが必要である。また、指定通院医療機関でのCPMS登録を推進し、帰住地がどこであってもクロザピン治療環境を整備することが急務であることが確認された。また強制通院制度の必要性について継続して議論していく必要があると考えられた。
4.医療観察法医療の効果を検証するためには、全ての対象者の転帰・予後を把握できるモニタリングシステムの構築が不可欠である。医療情報を集約するために、①当初審判の時点で地方厚生局等がID番号を割り振ること、②厚生労働省と法務省の連携により、情報を補完して共有がなされ、転帰にかかわる統計情報が公開されることが必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419027C

収支報告書

文献番号
201419027Z