向精神薬の処方や対策に関する実態調査と外部評価システム(臨床評価)に関する研究

文献情報

文献番号
201419020A
報告書区分
総括
研究課題名
向精神薬の処方や対策に関する実態調査と外部評価システム(臨床評価)に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
清水 栄司(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊豫雅臣(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 金原信久(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症は思春期後半から青年期に発病し、長期に渡る薬物療法を要する。抗精神病薬による治療は、錐体外路症状を初めとする様々な副作用が生じ、同時に疾患の長期経過にも影響を与えることが知られている。ドパミン過感受性精神病(DSP: dopamine supersensitivity psychosis)は1970年代後半に提唱された概念であり、遅発性ジスキネジアや薬剤の減薬・中断後の離脱精神病などを特徴とされる。また抗精神病薬が疾患の症候や経過に大きな影響を与えるものとして知られている。近年では治療抵抗性統合失調症(TRS: treatment-resistant schizophrenia)においてクロザピンでの治療が可能となったが、このDSPは治療抵抗化に関与している可能性もある。
DSPの背景には抗精神病薬によって惹起されるドパミンD2受容体の密度増加が過感受性獲得の関与が推測されている。すなわち同受容体に対する抗精神病薬の「至適な占拠率」が、標準状態よりも上昇かつ狭小化していると考えられる。このことから我々は「適切な同受容体占拠の安定維持」がDSPの予防・治療には重要と考え、その一つの治療法として非定型抗精神病薬の持効性注射剤(LAI: long-acting injectable)が有効であるとの仮説を立てた。また日常臨床におけるDSPの実態を明らかにする目的で、DSPの頻度に関する疫学的調査を実施した。
研究方法
(1) 治療抵抗性患者に対するリスぺリドン持効性注射剤(RLAI)を用いた観察研究
本試験は9施設の多施設共同研究で、前向き・観察研究である。2010年5月~2013年5月にTRSの基準を満たす患者で、RLAIを導入する予定の計128名に対して、口頭・文書による同意のもと、計2年間に渡り、RLAI上乗せ治療の効果を観察評価した。ChouinardのDSPの基準(1990)をもとに、DSPの既往を認める者をDSP群、認めない者をNonDSP群とし、群間比較を行った。
(2) 統合失調症患者におけるDSP頻度の疫学調査
本試験は3施設の共同研究で、計611名を対象に、口頭・文書による同意のもと、面接と後方視調査を通じて、過去の全治療経過からDSPエピソードの発生率を抽出した。解析対象となったTRS患者(80名)とNon-TRS患者(185名)を群間比較した。
尚、いずれもTRSの診断にはBroad Eligibility Criteria (Juarez-Reyesら, 1996)による。
結果と考察
(1) 解析対象となったのはDSP群72名とNonDSP群36名である。両群共にRLAI上乗せ療法はベースラインよりも改善が認められたが、BPRS変化率で見た主要評価項目において前者は30.3%改善しており、後者(24.4%)よりも大きかった。錐体外路症状及び遅発性ジスキネジアは、DSP群のみで改善が観察された。抗精神病薬の総量は試験期間を通じて、両群共に変化はなく、850~1050㎎で推移していた。
(2) TRS患者においてDSPエピソードは60名(75%)の患者に認めた。一方Non-TRS患者では40名(21.6%)であった。他の臨床的指標も含めてのロジスティック回帰分析ではDSPの存在はTRS化に高いオッズ比(14.9)であった。
結論
疫学調査ではDSPが疾患の難治化に関与している可能性が改めて明らかとなった。またこのようなDSP状態を有する治療抵抗性患者において、LAI製剤による治療が極めて有効であることが示唆された。追跡期間中に抗精神病薬の総量に変化が無く、しかし錐体外路症状が軽減したことは、同群においてLAI製剤の安定した動態が有効に作用した可能性が推測された。LAI製剤は例え経口抗精神病薬との組み合わせでも、DSP症状には有用である可能性があり、LAI製剤を初めとする長半減期型抗精神病薬による治療が、DSPの改善に寄与することが示唆される結果となった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

文献情報

文献番号
201419020B
報告書区分
総合
研究課題名
向精神薬の処方や対策に関する実態調査と外部評価システム(臨床評価)に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
清水 栄司(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊豫雅臣(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 金原信久(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗精神病薬は統合失調症患者の治療において中心に位置する。この抗精神病薬による治療は、幻覚や妄想症状などの精神病症状が著しい急性期においては比較的大きな効果が得られることが多いとされる。しかしその後の経過において錐体外路症状等の副作用の出現やその他様々な社会的要因等の影響によって、多くの患者で再発・再燃を繰り返すことが多い。再発エピソードに対する治療に要する薬剤の用量は初発エピソードよりも増大することが多い。様々な副作用・治療の中断・精神病症状の再発・再燃が複雑に絡んで、病状そのものが不安定化することがしばしば観察される。この現象にはドパミン過感受性状態あるいはドパミン過感受性精神病(DSP: dopamine supersensitivity psychosis)が関与するものと推定されている。DSPは離脱精神病、抗精神病薬の薬効への耐性、遅発性ジスキネジアなどが典型的な症候とされる。本課題では実臨床においてDSPの実態を把握し、それを評価・モニタリングする手法の開発を最大の目的としている。統合失調症患者の治療において抗精神病薬は必須であるが、その治療に当たり既存の副作用のみならず、抗精神病薬がDSPの形成・発現に関与することへの認識が重要である。疾患の病態や経過へのDSPの関与の解明は、薬物治療のモニタリングにとって必要な視点である。そこで本課題において幾つかの研究テーマが実施された。1)疫学的調査を行い、統合失調症患者の経過から、DSPエピソードの出現頻度を調査した。2)薬物療法に関する後方視調査を実施し、ドパミン部分作動薬(アリピプラゾール)への切り替えの際の病状悪化とDSPの関係の検証を行った。3)抗精神病薬による脳内ドパミンD2受容体(DRD2)占拠率に関するモデルからDSP状態をシミュレートした。4)実際にDSPの状態にある患者に対する治療として非定型抗精神病薬の持効性注射剤による治療の有効性を検証する臨床試験を実施した
研究方法
1) DSPの疫学調査:国内3施設の医療機関で治療を受けている統合失調症患者611名を対象に、発病時から現在までの診療録の内容が確認可能で、かつ同意の得られた者を調査対象とした。面接を実施し、治療抵抗性統合失調症(TRS: treatment-resistant schizophrenia)に該当する者を抽出した。次にこれらの患者の診療録を後方視的に調査し、全治療期間において何れかのDSPエピソードを同定した。
2) ドパミン部分作動薬への切り替え後の病状悪化に関する調査:千葉大学医学部附属病院で治療中の統合失調症患者のうち、何等かの抗精神病薬からドパミン部分作動薬(アリピプラゾール)への切り替えを行った264名を対象とした。この中で切り替え後の転帰を後方視的に評価し、同薬の開始から増量過程で精神病症状の悪化が観察された者を同定した。
3) DSP状態における抗精神病薬濃度とDRD2占拠率のシミュレーション:標準的な状態における抗精神病薬によるDRD2の占拠率は薬剤の血中濃度とED50によって決定される。ここに受容体密度を定義することで、薬剤血中濃度とDRD2の空き受容体の関係を求めた。
4) 持効性注射剤を用いた臨床試験:内容は総括研究報告書Web版(平成26年度)に記載した。
結果と考察
1)202名のTRS患者のうち最終解析の対象となった者は147名であった。この中で治療期間の何れかの時期において、DSPエピソード(離脱精神病、抗精神病薬の薬効への耐性、遅発性ジスキネジアで判定)を有すると評価された者は106名(72.1%)に認めた。
2)264名のうち70名がDSPエピソードの既往があると判定された。同患者の23%はアリピプラゾール導入後に精神病症状の悪化が生じており、これはDSPエピソードの既往が無いと判定された者で同薬導入後の悪化(8%)よりも高率であった。
3)DRD2が増加したDSP状態における至適な血中薬剤濃度は、受容体密度に拠ることが数式的に導き出された。
これらの結果は臨床的にDSPが重要な位置づけを占めていることを示し、その背景として後シナプスのDRD2の増加がその病態に関与していることを強く示唆するものであった。持効性注射剤による臨床試験においても特にDSP状態にある患者において持効性注射剤の上乗せ療法は有効であることを示した。増大したDRD2を安定的に占拠する薬剤がDSP患者における病状の安定化に寄与することが示された。
結論
統合失調症の治療において抗精神病薬が有効である一方で、過剰なDRD2遮断はDSP状態の形成・DSPエピソードの顕在化に繋がり得る。よって患者の症候と薬物の特性を考慮に入れたモニタリングと治療戦略が求められる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419020C

収支報告書

文献番号
201419020Z