統合失調症に対する認知リハビリテーションの開発と効果検証に関する研究

文献情報

文献番号
201419019A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症に対する認知リハビリテーションの開発と効果検証に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中込 和幸(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 花川 隆(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター 先進脳画像研究部)
  • 菊池 安希子(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 池淵 恵美(帝京大学 医学部 精神神経科学教室)
  • 兼子 幸一(鳥取大学 医学部 脳神経医科学講座)
  • 根本 隆洋(東邦大学 医学部 精神神経医学講座)
  • 住吉 太幹(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 臨床研究推進部)
  • 松元 健二(玉川大学 脳科学研究所)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学・親と子どもの心療学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,584,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、第一にわが国における神経認知および社会認知リハビリテーション(以下、リハ)が社会機能、社会的転帰に対する効果の検証を目的とする。第二に、その検証を可能なものとするために生物学的マーカーを含む評価ツールの開発に取り組む。最後に認知リハの効果予測因子として注目されている内発的動機づけの神経基盤を明らかにし、動機づけを向上させる治療戦略を探索する。
研究方法
1.認知リハビリテーションによる介入研究
社会認知リハプログラム(SCIT:Social Cognition and Interaction Training)およびメタ認知トレーニングについてパイロット無作為化比較試験を実施する。また、神経認知リハ(NEAR)の神経可塑性への影響を検証するため、2-back課題遂行中の近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)で測定した前頭部での脳血液量変化について検証する。
2.評価ツールの開発
言語記憶機能評価尺度(California Verbal Learning Test-Ⅱ, CVLT-Ⅱ)の日本語版を作成し、双極性障害患者を対象に、その妥当性、信頼性を検証する。社会機能的能力の評価ツールとして、ロールプレイを用いた対人スキル評価尺度の開発を行い、パイロットデータを収集する。またBCL9におけるSNPと認知機能的側面(ヴィジランス)との関係を探索した。
3.内発的動機づけに関する研究
内発的動機づけに関連する神経活動について、統合失調症患者、健常者を対象に、内発的動機づけを伴うSW/WS課題(Murayamaら、2010)施行中のfMRIを用いて観察し、内発的動機づけに関する神経バイオマーカーを同定し、統合失調症患者における妥当性の検証を行う。また、同じSW/WS課題を用いて、健常者を対象に成功接近ブロックと失敗回避ブロックの間で課題遂行中の脳活動を比較する。統合失調症群と健常対照群を対象に、GCOS(General Causality Orientation Scale)を用いて、両群間の動機付けの強さを比較する。
結果と考察
・統合失調症患者の内発的動機づけの変容に前頭前野-線条体-前帯状回神経回路の異常が関わっていることが示唆された。また、健常者において失敗回避ブロックと比較して、成功接近ブロックで成功時の脳内報酬系の活動が高かった。一方、内発的動機づけを表す「自立志向性」スコアは統合失調症群では健常群に比して低下しており、外発的動機づけを表す「コントロール志向性」については、両群間で差を認めなかった。・社会認知リハプログラム(SCIT:Social Cognition and Interaction Training)を用いたRCTは、目標症例数70例に対して、62例がエントリーし、49例が完了した(中断8例、完遂率83.7%)。メタ認知トレーニングを用いたRCTについては、19例がエントリーし、MCT群12例、TAU群7例からデータが得られている。神経認知リハプログラムを用いた介入の結果、介入群では通常治療群に比して、両側背外側前頭前野、左腹外側前頭前野、右前頭極部で有意な活動性の上昇が認められた。・ヴィジランス課題であるCPT-IPについては、BCL9遺伝子のコモンバリアントであるrs672607のA/A群とGキャリア群間にmean d’の有意差が認められ、この変異は認知機能に影響を及ぼす可能性が示唆された。・気分障害患者を対象とした言語記憶課題としてCVLT-Ⅱの日本語版を作成し、双極性障害患者を対象に妥当性の検証を試みている。また、社会認知に関する新たな評価尺度・ツールとして、ロールプレイを用いた対人スキルについてのパフォーマンステストの開発も現在進行中である。
結論
わが国では、統合失調症の社会認知や社会機能を評価するための評価尺度・ツールが不足している。本年度の研究成果の中で、内発的動機付けの臨床指標としてGCOS(General Causality Orientation Scale)の妥当性が示唆され、気分障害患者の言語記憶機能の評価尺度としてのCVLT-Ⅱ、社会機能の評価ツールとしてのパフォーマンステストの作成は、今後認知機能に対する治療法の開発の基礎をなすものである。一方、BCL9遺伝子のrs672607の変異はヴィジランス、fMRIを用いた検査では前頭前野-線条体-前帯状回神経回路における機能異常が内発的動機付け、両側背外側前頭前野、左腹外側前頭前野、右前頭極部での神経活動が神経認知リハビリの効果に関する、それぞれバイオマーカーとしての可能性が示唆された。社会認知リハビリ、メタ認知トレーニングともに、わが国でははじめてのRCTが進行中であり、この領域のリハビリテーションプログラムのレベルアップに大きく寄与するものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201419019B
報告書区分
総合
研究課題名
統合失調症に対する認知リハビリテーションの開発と効果検証に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中込 和幸(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 花川 隆(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター 先進脳画像研究部)
  • 菊池 安希子(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 池淵 恵美(帝京大学 医学部 精神神経科学教室)
  • 兼子 幸一(鳥取大学 医学部 脳神経医科学講座)
  • 根本 隆洋(東邦大学 医学部 精神神経医学講座)
  • 住吉 太幹(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 臨床研究推進部)
  • 松元 健二(玉川大学 脳科学研究所)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学・親と子どもの心療学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
研究代表者 中込和幸 職名変更 職名 トランスレーショナル・メディカルセンター 臨床研究支援部長 → 病院 臨床研究推進部長(平成25年10月1日~平成26年3月31日) → 病院 副院長(平成26年4月1日以降) 研究分担者 住吉太幹 所属機関異動・職名変更 所属機関 富山大学 神経精神医学講座 准教授 → 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 上級専門職(平成25年11月1日~平成26年3月31日) → 職名 臨床研究推進部長(平成26年4月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、第一にわが国における神経認知および社会認知リハビリテーション(以下、リハ)が社会機能、社会的転帰に対する効果の検証を目的とする。第二に、その検証を可能なものとするために生物学的マーカーを含む評価ツールの開発に取り組む。最後に認知リハの効果予測因子として注目されている内発的動機づけの神経基盤を明らかにし、動機づけを向上させる治療戦略を探索する。
研究方法
内発的動機づけに関連する神経活動について、統合失調症患者、健常者を対象に、SW/WS課題(Murayamaら、2010)施行中のfMRIを用いて観察し、内発的動機づけに関する神経バイオマーカーを同定し、統合失調症患者における妥当性の検証を行う。また、自己選択条件と強制選択条件、成功接近ブロックと失敗回避ブロック、の間で比較を行い、動機付けを高めるための心理的アプローチについて検証する。また、統合失調症群と健常対照群を対象に、一般的因果律志向性尺度(GCOS)を用いて、動機付けについて比較を行う。
社会認知リハ(SCIT)およびメタ認知トレーニングについてパイロット無作為化比較試験を実施する。また、神経認知リハ(NEAR)の神経可塑性への影響を検証するため、2-back課題遂行中の近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)で測定した前頭部での脳血液量変化について検証する。
総合的な社会認知機能評価尺度(SCSQ)の日本語版を作成し、その妥当性、信頼性の検証を行う。言語記憶機能評価尺度(CVLT-Ⅱ:California Verbal Learning Test-Ⅱ)の日本語版を作成し、その基準関連妥当性、生態学的妥当性の検証を行う。社会機能的能力の評価ツールとして、ロールプレイを用いた対人スキル評価尺度を新たに開発し、パイロットデータを収集する。
統合失調症の認知機能評価に汎用されるウィスコンシンカード分類テスト(WCST)、日本語版ロジカルメモリ(LM)、ヴィジランス課題(CPT-IP)に影響を与える因子について検証する。また、統合失調症との関連が示唆されているBCL9遺伝子多型と認知機能的側面との関係を探索する。
結果と考察
統合失調症患者の内発的動機づけの変容に前頭前野-線条体-前帯状回神経回路の異常が関わっていることが示唆された。内発的動機づけスコアは統合失調症群で健常群に比して低下しており、神経認知、社会機能と正の相関、精神症状とは負の相関を示した。また、fMRI研究から自己決定感、成功接近フレームの使用は内発的動機づけの強化に有用であることが示唆された。認知リハビリによる介入前後のNIRS(Near-infrared Spectroscopy)所見を通常治療群と比較したところ、介入群では通常治療群に比して、両側背外側前頭前野、左腹外側前頭前野、右前頭極部で有意な活動性の上昇が認められた。
評価ツールとしては、社会認知に関してSCSQ(Social Cognition Screening Questionnaire)の内的一貫性、基準関連・生態学的妥当性を実証した。また、WCST、LM、CPT-IPに関連する要因として、年齢、教育年数、陰性症状、罹病期間が挙げられた。CPT-IPについては、BCL9遺伝子多型が認知機能に影響を及ぼす可能性が示唆された。
結論
わが国では、認知機能(神経、社会)や社会機能を評価するための評価尺度・ツールが不足している。本研究成果の中で、成人の社会認知の総合評価を可能とするSCSQや内発的動機付けの臨床指標としてGCOSが開発されたことは、元来この領域における評価ツールがわが国には見当たらなかったことを考慮すると、貴重な成果と言える。一方、BCL9遺伝子のrs672607の変異はヴィジランス、fMRIを用いた検査では前頭前野-線条体-前帯状回神経回路における機能異常が内発的動機付け、両側背外側前頭前野、左腹外側前頭前野、右前頭極部での神経活動が神経認知リハビリの効果に関する、それぞれバイオマーカーとしての可能性が示唆された。今後、これらのバイオマーカーの妥当性を高めるために、さらなる研究データの蓄積が必要である。また、気分障害患者の言語記憶機能の評価尺度としてのCVLT-Ⅱ、社会機能の評価ツールとしてのロールプレイテストの作成は、今後認知機能に対する治療法の開発の基礎をなすものである。社会認知リハビリ、メタ認知トレーニングともに、わが国でははじめてのRCTが進行中であり、この領域のリハビリテーションのレベルアップに寄与するものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国では、統合失調症の認知機能や社会機能に関する評価・ツールが不足している。本研究で開発されたSCSQ、GCOS、また現在開発中のCVLT-Ⅱ、社会機能に関するパフォーマンステスト等は、今後認知機能治療法の開発の基礎をなす。rs672607の変異はヴィジランス、前頭前野-線条体-前帯状回における機能が内発的動機付け、両側背外側・左腹外側前頭前野、右前頭極部での神経活動は神経認知リハビリの効果に関する、それぞれバイオマーカーとしての可能性が示唆されており、客観的評価に寄与すると思われる。
臨床的観点からの成果
社会認知リハビリ、メタ認知トレーニングともに、わが国でははじめてのRCTが進行中であり、その結果が得られることによって、この領域のリハビリテーションプログラムの広がりとレベルアップに寄与するものと思われる。
ガイドライン等の開発
今後、認知機能、社会機能評価に関する標準化を進めることによって、評価法に関するガイドラインの作成につながる可能性をもつ。また、認知機能障害をターゲットとする心理社会的治療の個人化プログラム作成の基盤作りに寄与するものと思われる。
その他行政的観点からの成果
精神疾患における認知機能障害は、社会機能障害と密接に関わっており、認知機能障害による職場での作業効率の低下は大きな経済的損失を生み出している。統合失調症のみならず、気分障害における認知機能改善は、約7000億円(2008年)*にも達すると言われている職場における逸失利益の大幅な軽減につながることが予想される。認知機能改善を目指す治療法の開発は、患者のQOLや社会機能の回復に資するばかりでなく、わが国に対する経済効果もきわめて大きい。
*Okumura and Higuchi, 2011
その他のインパクト
なし。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
79件
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
14件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
2020-06-03

収支報告書

文献番号
201419019Z