文献情報
文献番号
201419011A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者への虐待と差別を解決する社会体制の構築に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
堀口 寿広(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
- 高梨 憲司(社会福祉法人愛光)
- 佐藤 彰一(國學院大学 大学院法務研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,717,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)の見直しに向けた議論に活用される資料の作成を目指して、地方公共団体の相談窓口の活動の状況として、法以外の事案の発生件数と当該事案への対応における機関連携の実施状況について、また、医療機関等および保育所等における間接的防止措置の実施状況について、現況を把握することを目的とした。さらに、地方公共団体が備えるべき予算や人員を推測できるようにすることを目標として、障害者虐待事案の対応に要する投入された時間と人的資源を測定し、虐待事案の特徴と関連性を検証することを目的とした。
研究方法
全国の都道府県権利擁護センターおよび市町村障害者虐待防止センターを対象として、センターの構成、法以外の事案の発生状況、当該事案への対応における機関連携の実施状況についてアンケート調査を実施した。また、障害者虐待について法施行前より取り組みのある地域を対象として、個人情報を含まない形で記録の提供を依頼した。医療機関については、全国の大学病院や自治体病院合計1,186施設、および、公益社団法人日本精神科病院協会の会員病院1,208施設を対象として、間接的防止措置と合理的配慮の実施状況等についてアンケート調査を実施した。保育所等については、.全国の市町村の保育担当課を対象として、管内の保育施設における間接的防止措置の実施状況に加えて、障害のある児童に対して職員からの虐待があったと保護者に訴えられた事案を収集するアンケート調査を実施した。各調査の実施にあたり倫理審査を受け承認を得た。
結果と考察
地方公共団体のセンターにおける平成25年度中の活動状況については、都道府県15団体、市町村456団体から回答を得た。虐待事案の発生率として、地域に暮らす障害者のうち虐待と認定された者の比率0.2%未満で地域差のないことを確認した。市町村虐待防止センターの担当職員は平均4.9人で、204団体(44.7%)がセンターの予算を組んでいないことが明らかになった。法の対象外となる事案件数は、「養護者虐待の判断に至らなかった事例」が合計509件と、昨年度同様に経験した団体が最も多かった。件数の多さは障害者虐待の種類のうち養護者虐待が最も多いことに関連した結果と考えられ、対象外であると判断した基準について、また、対象と判断した事案では一時保護など判断の内容について更なる調査が必要と考えた。法以外の事案に対し、他機関と連携して解決したか相談者に確認する手続きまでを実施した市町村は、「養護者虐待の判断に至らなかった事例」に関しては9団体のみであり、充実した連携の取り方を周知する必要があると考えた。つぎに、障害者虐待の41事案について、対応に要した時間数と関与した専門職の人件費を測定したところ、介入した日数と費用(中央値)は、それぞれ養護者虐待が17.5日で138,701円、施設従事者虐待が10日で52,814円、使用者虐待が11日で36,925円であった。被虐待者の障害種別や虐待の類型に関連した特徴は認めなかったが、施設従事者虐待について、虐待の類型により対応に要する時間数を予測する式を得た。性的虐待のあることと時間の長さの間に有意な相関を認めた。養護者虐待では事案ごとに様々な要因が関与し、人件費の範囲が広かったため相関を認められなかったと考えた。医療機関における間接的防止措置の実施状況については、大学病院等221施設、精神科病院290施設から回答があり、院内に対策委員会を設置している施設は大学病院等は27施設(12.2%)、精神科病院は44施設(15.2%)あり、精神科病院における取り組みが進んでいることがわかった。また、保育施設における間接的防止措置の実施状況、および、当該施設における障害者虐待の発生については、全国の市町村の担当課を対象として調査を開始した。
結論
障害者への虐待と差別を解決する社会体制を構築するために、地方公共団体に求められることは、地域住民からの通報や相談の内容が障害者虐待防止法の対象範囲外であると判断しても、通報・相談者に適切な相談窓口を案内するのみでなく地域住民としての困りごとが解決されたかどうか責任を以て経過を把握する連携である。機関連携を確立することは、障害者虐待事案の見逃しを防ぐとともに、さまざまな形態で表れる障害者差別を解消することにもつながる。また、多くの団体が予算措置を講じずに虐待対応に当たっている現状を踏まえ、費用対効果を意識して最適な対応を実施する必要がある。一方で、各種専門職に求められることは、障害者虐待の早期発見に向けた意識向上を図ることである。具体的には、医療機関において、地域ネットワークへの参加や一時保護への協力に加えて、普段から合理的配慮を充実させることが必要である。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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