認知症一次予防のための多角的データ利用による縦断研究

文献情報

文献番号
201418014A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症一次予防のための多角的データ利用による縦断研究
課題番号
H24-認知症-若手-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山岸 良匡(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,287,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、従来の基本健康診査・特定健康診査の検査項目に加えて、食事調査等の付加的な検査・調査項目を実施してきた地域において、認知症の予防に役立つ生活習慣指導項目や、健診に追加することが有用な新しい検査項目を本格的な疫学研究として明らかにすることを目的としている。本年度は、特に過去の食事調査データの整備を行い、認知症発症との関連を分析するためのデータベースを構築し、基本集計を行った。
研究方法
対象は、茨城県及び秋田県の農村地区の、1981年から1994年までの循環器健診・基本健診の受診者(年間約5,000人)のうち、健診と同時に24時間思い出し法による食事調査を行ったのべ5737人である。そのうち、2000年4月から2014年3月までに介護保険認定を受けた要介護認知症の症例と、その時点において認知症を発症していない生存者を対照として、食事調査実施者の中から、性、年齢、健診受診年、地域を1:2でマッチさせて無作為に選び出し、症例245人、対照490人の合計735人を分析対象とした。
結果と考察
食品群別にみた要介護認知症との関連は、きのこ類、乳類、および菓子類が要介護認知症と負の関連、調味料及び香辛料類が負の傾向を示した。総摂取エネルギーや三大栄養素、ミネラル、ビタミン、食塩については、要介護認知症との関連はなかったが、食物繊維が負の関連を示した。個々のアミノ酸成分については、要介護認知症と関連するものはなかった。脂肪酸組成については、総量、飽和、一価不飽和、多価不飽和として見た場合は有意な関連はみられなかったが、一価不飽和脂肪酸とn-6系多価不飽和脂肪酸は、有意ではないが負の傾向が認められた。
結論
過去の食事調査データと認知症発症との関連を分析するためのデータベースを構築し、基本集計を行った。きのこ類や乳類、栄養素では食物繊維や一部の脂肪酸が要介護認知症と関連を示す可能性が示された。今後、本データベースをさらに詳細に検討することにより、認知症予防に役立つ食習慣に関する日本人独自のエビデンスの構築が期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201418014B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症一次予防のための多角的データ利用による縦断研究
課題番号
H24-認知症-若手-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山岸 良匡(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、従来の基本健康診査・特定健康診査の検査項目に加えて、食事調査等の付加的な検査・調査項目を実施してきた地域において、認知症の予防に役立つ生活習慣指導項目や、健診に追加することが有用な新しい検査項目を本格的な疫学研究として明らかにすることを目的とした。認知症の一次予防に関する情報が得られれば、保健指導や健康診査の内容をさらに充実させ、また臨床現場においても早期の治療や対策につなげることが可能となる。加えて、特定健康診査や介護保険などのデータの多角的な利用のモデルケースとして提示でき、認知症の一次予防に資するわが国独自のエビデンスの蓄積に貢献できるものと期待される。さらに、本研究から認知症予防のための疫学研究手法を確立し、新しい分析手法などを開発することなどにより、他のコホート研究への応用に繋げることも目的とした。
研究方法
対象は、茨城県及び秋田県の農村地区の、1981年から1994年までの循環器健診・基本健診の受診者(年間約5,000人)のうち、2000年4月から2014年3月までに介護保険認定を受けた要介護認知症の症例591人と、その対照1182人の合計1773人である。過去の健診所見(血圧、糖尿病、脂質、喫煙等)、血清測定項目(炎症マーカー、抗酸化物質、脂肪酸分画等)、心電図所見、眼底所見、栄養調査等のデータと、介護保険データなど既存のデータを多角的に利用したデータベースを構築し、介護認定された認知症をエンドポイントとし、その時点において認知症を発症していない生存者を対照として、健診受診者の中から、性、年齢、健診受診年、地域を1:2でマッチさせて無作為に選び出した。各リスクファクターと要介護認知症発症との関連を、条件付多重ロジスティックモデルを用いて分析した。さらに、本研究の繰り返し測定データの特長を活用した統計分析モデルの開発を行い、そのモデルを適用した。本研究の実施にあたっては、筑波大学、大阪大学及び大阪がん循環器病予防センターの倫理委員会の承認を得た。
結果と考察
炎症マーカーである血清高感度CRPと脳卒中を伴う要介護認知症との正の関連が認められた。また、抗酸化物質である血清コエンザイムQ10の高値と要介護認知症との間に有意な負の関連が認められた。眼底変化に関しては、高血圧性眼底変化又は動脈硬化性眼底変化を有する者のオッズ比は、有しない者に比べ有意に高かった。脂肪酸については、多価不飽和脂肪酸であるαリノレン酸が血清、食事とも比較的強い負の関連を有した。また血清エイコサペンタエン酸の低値が要介護認知症のリスクを高める可能性が示された。そのほか、中間解析の段階において、主なリスクファクターとして、喫煙、高血圧、尿蛋白、高コレステロール血症、糖尿病及び女性のBody mass indexの低値が要介護認知症と関連する可能性が認められた。このうち高血圧については、長期追跡データの特性を活かし、若手統計学者の参画を得て、繰り返し測定データを活用した統計モデルを新たに開発し、血圧変動についてこのモデルへの適用を試みた。その結果、特に降圧剤服薬者において拡張期血圧値の経年的な上昇が要介護認知症リスクに促進的に作用することが認められた。本研究は血圧以外のリスクファクターについても繰り返し測定がなされているものがあり、新たな統計モデルへの適用が可能となった。
結論
本研究は、従来の基本健診・特定健診検査項目に加えて、食事調査等の付加的な検査・調査項目を実施してきた地域の健診データを用いることにより、認知症の予防に役立つ生活習慣指導項目や、健診に追加することが有用な新しい検査項目を本格的な疫学研究から明らかにするものと位置づけられる。その結果、従来のリスクファクターに加えて、血清炎症マーカーや抗酸化物質、脂肪酸分画、眼底所見などの新しいリスクファクターの検出が可能となり、若手研究者を中心に論文化を進めることができた。さらに本研究の特性を活かした統計モデルの開発に成功し、これを用いて実際に血圧変動と要介護認知症の関連を実証した。本研究データベースや新しい統計手法をさらに活用して認知症の一次予防に関する情報を蓄積することにより、保健指導や健康診査の内容をさらに充実させ、また臨床現場においても早期の治療や対策につなげることが可能となる。さらに、特定健康診査・介護保険データベースの多角的な有効活用のモデルケースとして、この研究フレームをより大規模なコホート研究に応用することにより、認知症の一次予防に資するわが国独自のエビデンスの蓄積に貢献できるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201418014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、地域の健康診査や栄養調査等の過去の調査・検査データと、介護保険データを一体化させたデータベースを構築し、要介護認知症の予防に役立つ要因を明らかにすることを目的とした。その結果、血清炎症マーカーや抗酸化物質、血清脂肪酸分画、眼底所見、食事中の食物繊維や一部の脂肪酸などの新しい認知症の危険・抑制因子を検出し、若手研究者を中心に論文化を進め、学会賞の受賞につなげた。さらにダイナミック・コホート研究の特性を活かした統計モデルの開発を行い、これを用いて血圧変動と要介護認知症の関連を実証した。
臨床的観点からの成果
上記の新しい危険・抑制因子と、これまで指摘されている循環器危険因子とを総合的に分析することにより、古典的循環器危険因子の多くが認知症とも関連して いることを確認した。したがって、外来等で行う従来の動脈硬化予防に関する保健指導を強化することで、認知症の予防にもつながる可能性が示された。また、本研究で明らかになった危険・抑制因子に関する知見をさらに蓄積することにより、認知症予防のための保健指導や健康診査の内容のさらなる充実や、臨床現場における認知症の早期治療や対策につながる可能性がある。
ガイドライン等の開発
直接的にガイドライン等の開発につながる知見は、現時点ではないが、将来的にガイドライン開発に貢献できる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
本研究成果から、将来的に認知症の一次予防につながる危険因子、抑制因子が確立される可能性が高く、さらに大規模なコホート研究等によって確認・検証することにより、健康づくり運動や特定健診制度への有効な検査項目等の提言が可能となり、国や自治体の認知症予防対策への貢献につながる。
その他のインパクト
血清コエンザイムQ10と要介護認知症発症に関する研究論文について、米国の健康情報誌「LifeExtension」やデンマークのニュースサイト記事で紹介があった。第17回日本抗加齢医学会総会及び第55回日本循環器病予防学会学術総会・第8回臨床高血圧フォーラムにおいてシンポジウム講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Chei CL, Yamagishi K, Ikeda A, et al.
C-reactive protein levels and risk of disabling dementia with and without stroke in Japanese: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS)
Atherosclerosis , 236 (2) , 438-443  (2014)
doi: 10.1016/j.atherosclerosis.2014.07.036
原著論文2
Yamagishi K, Ikeda A, Moriyama Y, et al.
Serum coenzyme Q10 and risk of disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS)
Atherosclerosis , 237 (2) , 400-403  (2014)
doi: 10.1016/j.atherosclerosis.2014.09.017
原著論文3
Yamagishi K, Ikeda A, Chei CL, et al.
Serum alpha-linolenic and other omega-3 fatty acids, and risk of disabling dementia: Community-based nested case-control study
Clinical Nutrition , 36 (3) , 793-797  (2017)
doi: 10.1016/j.clnu.2016.05.011
原著論文4
Yamagishi K, Iso H.
Reply to the letter "alpha-linolenic acid levels and risk of dementia; but which type of dementia"
Clinical Nutrition , 36 (2) , 612-612  (2017)
doi: 10.1016/j.clnu.2017.01.015
原著論文5
Jinnouchi H, Kitamura A, Yamagishi K, et al.
Retinal vascular changes and prospective risk of disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS)
Journal of Athersclerosis and Thrombosis , 24 (7) , 687-695  (2017)
doi: 10.5551/jat.37291
原著論文6
Noda H, Yamagishi K, Ikeda A, et al.
Identification of dementia using standard clinical assessments by primary care physicians in Japan
Geriatrics & Gerontology International , 18 (5) , 738-744  (2018)
doi: 10.1111/ggi.13243

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2021-06-01

収支報告書

文献番号
201418014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,672,000円
(2)補助金確定額
1,672,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 56,629円
人件費・謝金 1,169,311円
旅費 51,060円
その他 10,000円
間接経費 385,000円
合計 1,672,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
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