麻酔方法が術後認知機能に与える影響についての研究

文献情報

文献番号
201418013A
報告書区分
総括
研究課題名
麻酔方法が術後認知機能に与える影響についての研究
課題番号
H26-認知症-若手-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
安村 里絵(独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 麻酔科)
研究分担者(所属機関)
  • 落合 亮一(東邦大学医学部 麻酔科学講座)
  • 小林 佳郎(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科 )
  • 山崎 治幸(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科 )
  • 吉岡 宏恵(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,480,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者では術後認知機能の回復が大きな問題となるが,麻酔法の選択と術後認知機能障害(Postoperative Cognitive Dysfunction:POCD)の関係については明らかではない事も多い.
高齢者の麻酔法として選択される事の多い脊髄くも膜下麻酔単独でのPOCDについては研究が少ない.また脊髄くも膜下麻酔単独で管理した場合と脊髄くも膜下麻酔後に鎮静を行い管理した場合,全身麻酔のみで管理した場合で,POCDの発生率に差があるかについて本邦での大規模研究は未だ行われていない.そこで脊髄くも膜下麻酔がPOCDに与える影響に加え,鎮静や全身麻酔がPOCDに与える影響についても検討する.
POCDの診断には統一された評価法が存在しないが,術後回復の質を評価するスケール (postoperative quality of recovery scale:PQRS)が発表された.PQRSには認知についての評価も含まれており,本研究ではPQRSを用いてPOCDを評価する.加えて近年HMGB1とPOCDの関連性が示唆されたため,ヒトにおけるHMGB1とPOCD発生の関連性についても検討する.
研究方法
平成26年度は脊髄くも膜下麻酔がPOCDにどのような影響を与えるかについて検討する.
対象は米国麻酔学会術前状態分類1,2および3に該当する65歳以上の患者で,脊髄くも膜下麻酔を行うICが得られている患者とする.
麻酔施行前の基準として,麻酔前患者質問表に則りPQRSの評価を行う.麻酔前評価の施行時期は手術前14日から手術前までとし,身体的要因については手術前日もしくは手術当日に評価を行う.麻酔は等比重もしくは高比重のブピバカインを用いて脊髄くも膜下麻酔を施行する.手術麻酔中は経皮的動脈血酸素飽和度が95%以上になるように酸素投与を行い,血圧変動は麻酔導入前の15%以内となるよう昇圧薬を適宜調節する.術中鎮痛不十分と判定された場合は非オピオド鎮痛薬を使用し,オピオイド鎮痛薬の使用や全身麻酔に移行した症例は除外症例とする.
術後の評価として術後1日目および術後3日目にPQRSの評価を行う. 術後のPQRSが基準のPQRSに比してC1項目:0以上,C2項目:-2以上,C3項目:-1以上,C4項目:-3以上,C5項目:-3以上であった場合に認知機能は回復していると定義する.
平成27年度以降は,対象を全身麻酔および脊髄くも膜下麻酔後の鎮静を行うICが得られている患者にも拡大する. またPQRS評価日に血中HMGB1の測定を行い,HMGB1値とPOCD発生の関連を調べる.
統計学的検定はPQRSの各項目について平均値と標準偏差を求め,単変量解析にはFisher正確確率検定を用い,麻酔方法別のPOCD発生率の検定にはone way ANOVAを用いる.先行研究がないため効果量0.25,検定力0.8でサンプルサイズを計算し,必要サンプル数は各麻酔方法群53例となる.
結果と考察
国立病院機構東京医療センター倫理委員会にて審査終了後,研究を開始した.
平成27年2月末日までに26名が研究に参加したが,うち1名が全身麻酔となり評価から除外された.対象患者の年齢は75.6±6.75歳で男性22人女性3人であった.麻酔前の基準となるPQRSの各項目の結果(平均±標準偏差)はC1項目(見当識):3±0,C2項目(数字順唱):4.32±0.84,C3項目(数字逆唱):2.48±0.85,C4項目(単語記銘):3.80±1.74,C5項目(語想起):6.28±2.25であった.術後1日目のPQRS各項目は基準と比較して,C1項目:0±0,C2項目:0.17±0.69,C3項目:0.0±0.75,C4項目:0.78±1.93,C5項目:-1.22±1.93であった.また術後3日目のPQRSの各項目は基準と比較して,C1項目:0±0,C2項目:0.43±1.10,C3項目:0.31±0.85,C4項目:0.50±1.46,C5項目:-0.94±2.05であった. 
術後のPQRSが基準のPQRSに比してC1項目:0以上,C2項目:-2以上,C3項目:-1以上,C4項目:-3以上,C5項目:-3以上であった場合に認知機能は回復していると定義すると,術後1日目は11.1%,術後3日目は18.8%の患者がPOCDと診断された.
POCDに関わる患者背景やリスク因子についての解析は,対象が50名を超えた時点で検討予定である.
結論
平成26年度は65歳以上を対象とし,脊髄くも膜下麻酔がPOCDに与える影響について検討した. 25名の患者が解析対称となり,脊髄くも膜下麻酔単独で麻酔管理を行った手術において,手術後3日目では18.8%の患者で術後認知機能障害を認めた.

公開日・更新日

公開日
2015-11-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2017-07-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201418013Z