わが国における認知症の経済的影響に関する研究

文献情報

文献番号
201418007A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における認知症の経済的影響に関する研究
課題番号
H25-認知症-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
佐渡 充洋(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 三村 將 (慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,524,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速な高齢化に伴い、認知症患者の数も急激に増加している。それにともない、認知症の社会的な負担も増大しており、諸外国ではすでに、認知症の社会的コストを推計するために、疾病費用研究がいくつも実施されている。このように、医療の枠をこえ、社会全体の大きな問題になりつつある認知症に対して、ヨーロッパ諸国やアメリカなどでは、医療や健康の問題といった個別の問題ではなく、社会全体が取り組むべき国家的な問題としてこの問題を捉え、国家戦略を策定したうえで、その対応、解決に取り組んでいる。日本では、認知症の有病率、有病者数の推計が発表されたが、社会的なコストについての研究は筆者が知る限りこれまでにほとんど実施されていない。そこで、本研究では、我が国における認知症の社会的コストを明らかにすることとした。
研究方法
(研究1)では、2011年10月分の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースを用いて、患者の性別・年齢・疾患・治療日数から保険点数を予測するモデル式を作成し、認知症に関する2011年の年間医療費を推計した。データベースは、DPC(Diagnosis Procedure Combination)以外の入院レセプト、DPCの入院レセプト、及び外来レセプトに分かれているため、個別に推計した医療費を最後に合計した。また、2011年における1人あたり医療費と性年齢階級別の認知症患者の割合を、2014年の人口構成にあてはめ、2014年の年間医療費を推計した。(研究2)では、某自治体における介護レセプトデータを重回帰分析等の手法を用いて解析し、認知症の有無による介護費の比の推計を行い、その結果を全国の介護サービス受給者の要介護度ごとの費用、人数等に外挿し、日本における認知症の介護費の推計を行った。介護費は在宅介護費と施設介護費に分けて推計を行った。(研究3)では、認知症介護者を対象とした調査研究を行い、インフォーマルケア時間として日常生活動作と手段的日常生活動作を設定した場合の、要介護度別平均インフォーマルケア時間を算出した(実測値)。また、調査票のサンプルから、重回帰モデルを用いてインフォーマルケア時間を推計するためのモデル式を作成し、そのモデルを用いて、実測値同様に要介護度別のインフォーマルケア時間の予測値を推計した。(研究4)では、(研究3)で明らかになった、調査票に基づくインフォーマルケア時間の重回帰モデルに、全国の要介護者の人口統計データを外挿し、日本における2014年の認知症のインフォーマルケアコストを推計した。(研究5)では、(研究1)から(研究4)で計算した認知症に関する2014年の医療費、介護費およびインフォーマルケアコストを国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によって変化させるモデルにより2060年までの将来推計を行った。
結果と考察
(研究1)では、全国の認知症に関する2014年の医療費は、入院医療費は9,703億円、外来医療費は9,412億円、合計1兆9,114億円と推計した。(研究2)では、日本における2014年の介護費は6兆4,441億500万円と推計された。介護費の内訳として在宅介護費3兆5,281億2,200万円、施設介護費2兆9,159億8,300万円であった。(研究3)からは、調査票サンプルにおける認知症要介護者1人あたりの平均インフォーマルケア時間は、実測値による平均で25.71時間/週(標準偏差 20.47)と推計された。重回帰分析による予測値は、強制投入法で25.71時間/週(標準偏差 9.09)であることが明らかとなった。(研究4)では、日本における認知症要介護者1人あたりのインフォーマルケア時間(時間/週)は、24.97(標準偏差 5.68)であることが明らかとなった。また、インフォーマルケアコストは総計で年間6兆1,584億円 (95%信頼区間:6兆1,250億円-6兆1,918億円)と推計された。また要介護者1人あたりの年間インフォーマルケアコスト(万円/年)は、382.1 (95%信頼区間380.0 -384.2)と推計された。 本推計は、介護サービス受給者のみが推計の対象になっている。介護サービスを利用していない患者も推計に含めるとその額はさらに増大すると考えられた。 (研究1)から(研究4)の結果より、2014年における認知症の社会的コストは14兆5,140億と推計された。(研究5)では、認知症の総疾病費用(上記3費用の合計)は 2060年に24兆2,630億円となると推計された。
結論
認知症の社会的コストは甚大であることが明らかになった。今後は、コストの多寡の議論に留まることなく、この限られた財源をいかに活用すれば患者や家族の生活の質を向上させることができるかを検討することが重要である。

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

文献情報

文献番号
201418007B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国における認知症の経済的影響に関する研究
課題番号
H25-認知症-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
佐渡 充洋(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 三村 將(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速な高齢化に伴い、認知症患者の数も急激に増加している。それにともない、認知症の社会的な負担も増大しており、諸外国ではすでに、認知症の社会的コストを推計するために、疾病費用研究がいくつも実施されている。このように、医療の枠をこえ、社会全体の大きな問題になりつつある認知症に対して、ヨーロッパ諸国やアメリカなどでは、医療や健康の問題といった個別の問題ではなく、社会全体が取り組むべき国家的な問題としてこの問題を捉え、国家戦略を策定したうえで、その対応、解決に取り組んでいる。日本では、認知症の有病率、有病者数の推計が発表されたが、社会的なコストについての研究は筆者が知る限りこれまでにほとんど実施されていない。そこで、本研究では、我が国における認知症の社会的コストを明らかにすることとした。
研究方法
(研究1)では、2011年10月分の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースを用いて、患者の性別・年齢・疾患・治療日数から保険点数を予測するモデル式を作成し、認知症に関する2011年の年間医療費を推計した。データベースは、DPC(Diagnosis Procedure Combination)以外の入院レセプト、DPCの入院レセプト、及び外来レセプトに分かれているため、個別に推計した医療費を最後に合計した。また、2011年における1人あたり医療費と性年齢階級別の認知症患者の割合を、2014年の人口構成にあてはめ、2014年の年間医療費を推計した。(研究2)では、某自治体における介護レセプトデータを重回帰分析等の手法を用いて解析し、認知症の有無による介護費の比の推計を行い、その結果を全国の介護サービス受給者の要介護度ごとの費用、人数等に外挿し、日本における認知症の介護費の推計を行った。介護費は在宅介護費と施設介護費に分けて推計を行った。(研究3)では、認知症介護者を対象とした調査研究を行い、インフォーマルケア時間として日常生活動作と手段的日常生活動作を設定した場合の、要介護度別平均インフォーマルケア時間を算出した(実測値)。また、調査票のサンプルから、重回帰モデルを用いてインフォーマルケア時間を推計するためのモデル式を作成し、そのモデルを用いて、実測値同様に要介護度別のインフォーマルケア時間の予測値を推計した。(研究4)では、(研究3)で明らかになった、調査票に基づくインフォーマルケア時間の重回帰モデルに、全国の要介護者の人口統計データを外挿し、日本における2014年の認知症のインフォーマルケアコストを推計した。(研究5)では、(研究1)から(研究4)で計算した認知症に関する2014年の医療費、介護費およびインフォーマルケアコストを国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によって変化させるモデルにより2060年までの将来推計を行った。
結果と考察
(研究1)では、全国の認知症に関する2014年の医療費は、入院医療費は9,703億円、外来医療費は9,412億円、合計1兆9,114億円と推計した。(研究2)では、日本における2014年の介護費は6兆4,441億500万円と推計された。介護費の内訳として在宅介護費3兆5,281億2,200万円、施設介護費2兆9,159億8,300万円であった。(研究3)からは、調査票サンプルにおける認知症要介護者1人あたりの平均インフォーマルケア時間は、実測値による平均で25.71時間/週(標準偏差 20.47)と推計された。重回帰分析による予測値は、強制投入法で25.71時間/週(標準偏差 9.09)であることが明らかとなった。(研究4)では、日本における認知症要介護者1人あたりのインフォーマルケア時間(時間/週)は、24.97(標準偏差 5.68)であることが明らかとなった。また、インフォーマルケアコストは総計で年間6兆1,584億円 (95%信頼区間:6兆1,250億円-6兆1,918億円)と推計された。また要介護者1人あたりの年間インフォーマルケアコスト(万円/年)は、382.1 (95%信頼区間380.0 -384.2)と推計された。 本推計は、介護サービス受給者のみが推計の対象になっている。介護サービスを利用していない患者も推計に含めるとその額はさらに増大すると考えられた。 (研究1)から(研究4)の結果より、2014年における認知症の社会的コストは14兆5,140億と推計された。(研究5)では、認知症の総疾病費用(上記3費用の合計)は 2060年に24兆2,630億円となると推計された。
結論
認知症の社会的コストは甚大であることが明らかになった。今後は、コストの多寡の議論に留まることなく、この限られた財源をいかに活用すれば患者や家族の生活の質を向上させることができるかを検討することが重要である。

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201418007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本における認知症の社会的コストの全体像を明らかにしたことは大きな成果であると考えられる。その中でもとくに、これまで推計がされてこなかったインフォーマルケア時間およびコストを、約1500名の介護者にアンケート調査を実施することで明らかにした点は学術的にも大きな意義があると考える。さらに2060年までの将来推計値を明らかに出来た点も、本研究の大きな成果であると考える。
臨床的観点からの成果
本研究の結果は臨床に直結するものではないが、認知症の社会的負担が明らかになったことで、今後認知症施策が推進される可能性がある。その結果、認知症本人はもちろん、それを支える家族等に対する施策の進展に寄与する可能性が考えられる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
認知症施策を立案する際の基礎データとして、これまで明らかになっていなかった認知症の社会的コストおよびその構成比を提供できたことは行政的観点からの成果であると考えられる。特にこれまで明らかでなかったインフォーマルケアの負担が定量化されたことで、家族支援施策を立案する際の重要な参考データとなりうる。
その他のインパクト
プレスリリースを行い、全国紙、地方紙各紙で結果が報道された。またテレビ各局でもその成果が報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
Shikimoto, et al. The 10th Annual Meeting of Taiwanese Society of Geriatric Psychiatry.
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201418007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,280,000円
(2)補助金確定額
3,280,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 508,655円
人件費・謝金 194,090円
旅費 482,510円
その他 1,338,745円
間接経費 756,000円
合計 3,280,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-