認知症のための縦断型連携パスを用いた医療と介護の連携に関する研究

文献情報

文献番号
201418001A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症のための縦断型連携パスを用いた医療と介護の連携に関する研究
課題番号
H24-認知症-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(熊本大学 生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 衛(熊本大学 生命科学研究部)
  • 石川 智久(熊本大学 生命科学研究部)
  • 矢田部 裕介(熊本大学 生命科学研究部)
  • 上村 直人(高知大学 教育研究部 医療学系)
  • 福原 竜治(熊本大学 生命科学研究部)
  • 谷向 知(愛媛大学大学院 医学系研究科)
  • 釜江 和恵(繁信 和恵)(浅香山病院 精神科)
  • 品川 俊一郎(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症ケアに関するこれまでの医療と介護の連携は、かかりつけ医のケア会議への参加、連携パスなど横断的な連携である。本研究では横断的だけでなく縦断的連携を重視することにより、医療と介護のさらなる有機的な連携を行うために有用なシステムの構築を確立することを目的とする。昨年度のアンケート集計結果から、患者と介護者における連携パス(手帳)の携行率を上げることが課題であると考えられた。そのため今年度は携行率を上げるための取り組みを行い検証した。また最終年度であることから、入所例について、入所時の手帳の有用性について検証した。
研究方法
1.携行率向上の試み
対象は、熊本県内の認知症疾患医療センター10ヵ所において、「火の国あんしん受診手帳」を配付した認知症患者とその家族とした。携行率を上げるための取り組みを以下の別々の方法で行い検証した。平成26年5月から、手帳配付者の中で現在も継続して通院している患者388名に対して各センター2か所ずつで以下の5種類の方法で行った。①担当者が通院継続者すべてに受診時に声をかけ確認。携行している場合は、血圧測定、血圧表を追加し記載する。携行していない場合は次回から血圧測定を行い手帳に記録することを伝える(32名)②担当者が患者、家族に受診予約前日に電話で携帯を依頼する(58名)③次回の受診日記録(診察券の裏など)に手帳持参を記載する(79名)④受付や診察室に手帳携帯お願いのポスターを掲示する。持参された手帳のポケットに「診察券入れ」「お薬手帳入れ」とテプラを張る(75名)⑤何もしない(コントロール群)持ってきているかどうかの確認は、受診時でも電話をかけてでも可。すでに把握している場合は不要(107名)
2.入所時における手帳の有用性検証
今年度後半には、手帳携帯者が施設入所となる際に手帳の情報が活用されたかどうかを検証するため入所施設に対してアンケートを行った。アンケートは郵送で行い、「誰があんしん受診手帳を持ち込まれましたか」、「入所時の情報として役に立ちましたか」、「どの項目が役に立ちましたか」、「どのようなケアに役立ちましたか」、「今後すべての患者に必要だと思いますか」などの質問項目を設けた。
結果と考察
1.携行率向上の試み
それぞれの群の手帳持参率は、①61.5%、②78.3%、③93.8%、④59.7%、⑤8.6%であり、具体的な働きかけを行った4群では、全く何もしなかった群と比べ持参率が明らかに上がった。
2.入所時における手帳の有用性検証
手帳を配付してからの期間が短いため、入所した対象者は14名と少数であるが、以下のような結果であった。「誰があんしん受診手帳を持ち込まれましたか」という質問では、「子」が最も多く72%で、「配偶者」は7%にとどまった。「入所時の情報として役に立ちましたか」という質問には77%が「役に立った」と答えた。「どの項目が役に立ちましたか」という質問には、ほぼすべての項目にチェックが付いており、具体的に「どのようなケアに役立ちましたか」という質問には「ノート記載で診断がついてから入所までの経過が分かった」「かかりつけ医や介護事業所担当者、家族情報といったこれまでの社会資源との関わりや家族とのやり取りなどが役に立った」といった回答が得られた。受診手帳について「今後すべての患者に必要だと思いますか」という質問では「すべてに必要」もしくは「すべてではないが必要」という回答が合わせて92%であった。手帳をただ配付するだけでは携行率が低いが、何らかの方法により携行率が比較的簡単に上がることが明らかになった。今後携行率を上げるために何らかの具体的な方法が必要であると考えられる。今年度後半に行ったアンケートでは、受診手帳について肯定的に捉える回答が多くを占めた。初診からその後の通院期間だけでなく、最終的な受け入れ施設における有用な情報ツールとしての手帳の存在意義を確認することができた。入所時に施設へ手帳を持ち込み情報を活用したのは子供が圧倒的に多かった。理由として、対象者が高齢になっているため既に配偶者が存在しない場合や、配偶者も高齢のため対応できない状況になっていることなどが考えられる。今後もデータの収集を進め、より詳細な検討を加え、必要に応じて手帳の内容・運用等を修正し、より洗練されたものにしていくことが重要である。
結論
本研究において、「火の国あんしん受診手帳」の内容・運用等について様々なノウハウを蓄積するとともに、「医療と介護の縦断型連携パス」として、初診時から施設入所に至るまで手帳が有用なツールであることが確認できた。ただし何らかの働きかけをしなければ携帯率が低下することは明らかで、今回試みた方法のみでなく、今後より実際の現場に則した方法を模索していくことが必要である。更に検討を進めたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

文献情報

文献番号
201418001B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症のための縦断型連携パスを用いた医療と介護の連携に関する研究
課題番号
H24-認知症-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(熊本大学 生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 衛(熊本大学 生命科学研究部)
  • 石川 智久(熊本大学 生命科学研究部)
  • 矢田部 裕介(熊本大学 生命科学研究部)
  • 上村 直人(高知大学 教育研究部 医療学系)
  • 福原 竜治(熊本大学 生命科学研究部)
  • 谷向 知(愛媛大学大学院 医学系研究科)
  • 釜江 和恵(繁信 和恵)(浅香山病院 精神科)
  • 品川 俊一郎(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症ケアに関するこれまでの医療と介護の連携は、かかりつけ医のケア会議への参加、連携パスなど、横断的な連携が中心である。一方で、認知症は進行性で長期の経過をたどることが多く、認知症関連施設の介護担当者や嘱託医が、個々の認知症患者がそれまでに受けてきた医療情報を入所時に得て、疾患の特徴に基づくケアの実践や、漫然とした薬物投与の防止につながるような縦断的な連携が求められている。本研究では横断的だけでなく縦断的連携を重視することにより、医療と介護のさらなる有機的な連携を行うために有用なシステムの構築を確立することを目的とした。
研究方法
初年度は、縦断研究用連携パスの試作版を用いて、100名の対象を用いて予備的研究を実施し、介護者、ケアマネージャー、かかりつけ医、専門医の意見を集約して、予定通り本調査用のパスを完成させた。そして、熊本県内の認知症疾患医療センター10ヵ所(計1000名)、都市型サイト2ヵ所(各150名)、地方都市・中山間地域サイト2ヵ所(各150名)にて、半年間の間に受診した在宅認知症患者の介護者に、縦断研究用連携パス(火の国 あんしん受信手帳)を手渡し、同時にかかりつけ医とケアマネージャーに登録と研究の趣旨を連絡して協力を求めた。
 次年度は、配付した連携パスについて、配布6か月後にアンケート調査を実施し、その使用状況を明らかにした。
 最終年度は4種類の別々の方法で持参率を上げるために具体的な取り組みを行い検証した。①手帳持参者の血圧を測定し手帳に記載、非持参者には次回通院時に血圧測定・記載することを伝える、②受診予約の前日に電話で手帳の持参を依頼する、③次回受診日記録部分(診察券の裏など)に持参するように記載する、④診察室などに持参を啓発するポスターを掲示し、持参した手帳のポケットに「診察券入れ」「お薬手帳入れ」の文字を表示したテープを張る、の何らかの働きかけを行った4群、そして全く何もしなかった群(コントロール群)の計5群で比較をした。
結果と考察
 都市部の一部で研究同意率が低かったものの、初年度はほぼ予定通り約1600名の対象に手帳を配布できた。次年度の家族へのアンケート結果からは、あまり使用していない、使用していない、という意見が過半数をしめた。配付前に、手帳の目的や意義を十分に説明し、かかりつけ医やスタッフには医師会を通じて、あるいは手紙で協力を要請したが、不十分であったと考えられる。一方で、かかりつけ医、介護事業所からは「使いやすい」という回答が多く寄せられており、連携パスの利用を促すために、患者と介護者への携帯の促し、関係機関への周知の工夫がさらに必要であることが明らかになった。
 最終年度のそれぞれの群の手帳持参率は、①61.5%、②78.3%、③93.8%、④59.7%、⑤8.6%であり、具体的な働きかけを行った4群では、全く何もしなかった群と比べ持参率が明らかに上がった。また、手帳持参者が施設入所となった際に手帳に記載された情報が活用されたかどうかを検証するためのアンケートを行った。対象者は少ないものの手帳について肯定的に捉える回答が多くを占め、手帳の存在意義を確認する結果であった。
 我々の作成した縦断研究用連携パス(火の国 あんしん受診手帳)は、初診からその後の通院期間において、家族介護者だけでなく、かかりつけ医や看護職にも高い評価を受け、入所施設における有用な情報ツールとして機能することを確認できた。しかし、今回の取り組みは限られた対象・期間であったため、今後すべての認知症患者を対象とした場合、IT化など他の方法も模索しつつ、高い携行率を維持することが今後の課題である。
 熊本県内の地域拠点型認知症疾患医療センターではこの手帳を医科、歯科連携に用いるなど、独自に取り組みが行われ活用の幅が広がった。今後の展望については、地域医師会のみならず歯科医師会をも巻き込んだ、認知症を中心とした高齢者特有の疾患を網羅した連携パスを普及させ、いずれはIT化するための準備を始めている。
結論
 本研究において、「火の国あんしん受診手帳」の内容・運用等について様々なノウハウを蓄積するとともに、「医療と介護の縦断型連携パス」として、初診時から施設入所に至るまで手帳が有用なツールであることが確認できた。今後必要に応じて手帳の内容・運用等を修正し、さらに検討を進めたい。

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201418001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症は進行性で長期の経過をたどることが多く、初診から通院期間を経て最終的に入所に至るまで多施設間における縦断的な連携が求められている。本研究では医療と介護の有機的な連携を行うために有用なシステムの構築を確立するために「医療と介護の縦断型連携パス」として「火の国あんしん受診手帳」を独自に開発し、その内容・運用等について様々なノウハウを蓄積し、実際に有用なツールとして機能することを確認した。
臨床的観点からの成果
パイロット研究の段階から、実臨床において運用可能な内容と方法を追究した結果、研究期間中に20カ所以上の行政や診療施設から実物の送付依頼があり、われわれの知るかぎりでも、そのうち6カ所が「火の国あんしん受診手帳」と同様のバインダー形式の連携手帳を作成している。熊本県では、脳卒中連携手帳にも「火の国あんしん受診手帳」と同様の形式が採用された。
ガイドライン等の開発
今年度より、熊本県では医療・介護連携の2次医療圏におけるモデル地区にて、1カ所では本手帳を在宅の認知症者全員に配付し、もう1カ所では認知症の情報も含めて医療情報をIT化して関係者で情報を共有する試みに着手している。
その他行政的観点からの成果
国立精神神経センター伊藤弘人により認知症の地域包括ケアにおける連携ツールとして紹介(Open J psychiatry, 2015)された。研究期間中に作成した連携パスに、歯科医、薬剤師の記入ページを増設して、改訂版を作成した。そして、熊本県荒尾市をモデル地区に指定し、2016度中に認知症患者全員に配布して有効性の検証を実施する予定である。
その他のインパクト
池田 学「NHKクローズアップ現代 薬がのみきれない!~知られざる残薬のリスク~」(NHK、2015.5.19)、シンポジウム:認知症と高次脳機能障害、池田 学「認知症の医療連携 -熊本モデルの概要と今後の課題」(第64回日本病院学会、2014.7.3-4)、シンポジウム:精神疾患の医療計画への追加の意義と効果-地域医療連携の必要性と可能性と効果の観点から考察する、池田 学「認知症と地域連携」(第110回日本精神神経学会学術総会-2014.6.26-28)、等

発表件数

原著論文(和文)
36件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
43件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
83件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Honda K, Hashimoto M, Ikeda M, et al.
The usefulness of monitoring sleep talking for the diagnosis of dementia with Lewy bodies
Int Psychogeriatr , 25 , 851-858  (2013)
原著論文2
Ogawa Y, Hashimoto M, Ikeda M, et al.
Association of cerebral small vessel disease with delusions in patients with Alzheimer’s disease
Int J Geriatr Psychiatry , 28 (1) , 18-25  (2013)
原著論文3
Shinagawa S, Yatabe Y, Ikeda M, et al.
A comparison of family care infrastructure for demented elderly in inner cities and regional areas in Japan
Psychogeriatrics , 12 , 159-164  (2012)
原著論文4
Hasegawa N, Hashimoto M, Ikeda M, et al.
Prevalence of delirium among outpatients with dementia.
Int Psychoteriatr , 25 (11) , 1877-1883  (2013)
原著論文5
Ikejima C, Ikeda M, Asada T, et al.
Multicenter populatiom-based study on the prevalence of early onset dementia in Japan: Vascular dementia as its prominent cause
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 68 , 216-224  (2014)
原著論文6
Matsushita M, Ishikawa T, Ikeda M, et al.
Is sense of coherence helpful in coping with caregiver burden for dementia?
Psychogeriatrics , 14 (2) , 87-92  (2014)
原著論文7
Ito H, Hattori H, Ikeda M, et al.
Integrating psychiatric services into comprehensive dementia care in the community
Open Journal of Psychiatry  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201418001Z