パーキンソン病モデル動物の作成と脳内細胞移植による治療法の確立

文献情報

文献番号
199800370A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキンソン病モデル動物の作成と脳内細胞移植による治療法の確立
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
服部 成介(国立精神・神経センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊達勲(岡山大学医学部)
  • 松田潤一郎(国立感染症研究所)
  • 中福雅人(東京大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
パーキンソン病の特徴は神経細胞変性が長期にわたり緩やかに進行することであるが、その特徴を再現するモデル動物系の開発は治療法の確立に必須である。パーキンソン病の素因は多因子であるとされるがその原因は明らかではなく、従来の神経毒性薬物とは異なる機構で発症を誘起することは発症機構の理解の上で大きな意義を持つ。さらにこのモデル動物を利用して神経栄養因子産生細胞の移植による残存神経細胞の維持方法の検討、細胞移植による組織修復、および治療のタイミングに関して重要な知見を得ることができる。ヒトの高度に進行した症例に対しては、自家副腎髄質と末梢神経の同時移植が試みられている。この際に移植組織の生着の程度と治療効果が密接に関連することが示されており、移植組織の生着の至適条件を研究し、その成果を臨床応用することが緊急の課題である。
研究方法
パーキンソン病はドーパミン産生細胞である黒質神経細胞が進行性の変性により細胞死を起こすことにより発症する。進行性の神経変性を再現するため、黒質ドーパミン産生細胞において細胞障害性因子を発現し、動物モデルを作成する。このため、ドーパミン産生細胞特異的な転写開始プロモーター(tyrosine hydroxylase promoter)にテトラサイクリン制御プロモーター活性化因子を連結したもの、およびテトラサイクリン制御プロモーターに細胞障害性因子として細胞内シグナル伝達因子であるRasの抑制性因子Gap1m遺伝子を連結したものを有するマウスを作成した。これらのマウスの掛け合わせにおいて、Gap1m遺伝子の発現パターンを調べた。昨年度の研究から、実験動物モデルにおいて副腎髄質細胞およびポリマーカプセルに封入したNGF産生細胞の脳内同時移植が、移植組織の生着を促しパーキンンソニズムの改善に効果があることを示した。今年度はさらにGDNF神経栄養因子産生細胞を作成し、脳内細胞移植の効果を検討するため、ラット片側パーキンソンモデルに対しポリマーカプセルに封入したGDNF産生細胞脳内に移植を行ない、ドーパミン神経細胞の生存維持と行動学的評価を行う。また変性が進行した組織の修復を図るため、ラットおよびマウスの胎児および成体脳より神経幹細胞を単離し、安定に培養する条件を検討する。さらに遺伝子を効率よく導入する条件を検討する。
結果と考察
ドーパミン産生神経胞の生存維持因子としてGDNF、BDNF、EGF、FGF、PDGF等が知られているが、これらの因子からのシグナルはいずれも低分子量GTP結合タンパク質Rasを経由する。したがって細胞障害性因子として、Rasの活性抑制因子Gap1mを用いることにより、細胞変性を進行させ得ると考えられる。今年度においてはtyrosine hydroxylaseプロモーターにテトラサイクリン制御プロモーター活性化因子を連結した遺伝子、およびテトラサイクリン制御プロモーターにGap1mを連結した遺伝子を作成し、それぞれ1801個および955個の受精卵に導入して偽妊娠マウスに戻した。正常に発生したマウスから前者については5匹の、後者は3匹のラインを得た。これらのマウスを掛け合わせて、その遺伝子発現を調べたところ、神経細胞においてテトラサイクリン制御プロモーター活性化因子およびGap1m遺伝子の発現を認めたが、発現のレベルは比較的低く今後改善していく必要がある。パーキンソン病などの神経変性疾患に対する神経移植療法はもっとも新しい治療法の一つである。本研究では、ドナーとして用いる細胞の供給源をより広げるため、細胞を免疫学的に租界としての高分子半透膜性カプセルに封入して移植する方法を検討した。ラット線条体内に移植したカプセ
ル化GDNF産生細胞は、6-OHDAによるパーキンソンモデルに対して、顕著な行動学的改善と、ドーパミン神経細胞の生存維持効果を示した。組織学的にもカプセル内に多数の細胞が生着していた。この結果はラットのパーキンソン病モデルに対してカプセル化細胞の脳内移植効果を証明し、本法の臨床応用の期待が持たれる。また本研究のように、遺伝子操作によって神経栄養因子産生能を持たせた細胞株をカプセル化して脳内に移植する方法は、パーキンソン病だけでなく、他の神経変性疾患の治療にも応用可能である。さらに移植神経細胞の供給源として神経幹細胞の使用を視野に入れ、神経幹細胞の樹立と遺伝子導入法の検討を行なった。脳内細胞移植による神経変性疾患の治療法の新たな展開として多分化能を保持した神経幹細胞を応用する試みは、欧米で特に最近注目を集めている。しかしながら、未だ神経幹細胞の基礎的な培養技術の確立に至っているとはいえず、その遺伝子操作法の確立にむけた研究報告もほとんどない。そこでラットの胎児および成体脳より神経幹細胞を単離し、試験管内でその増殖、分化を操作し得る培養技術の開発に取り組んだ。その結果、幹細胞を未分化な状態を維持しつつ長期にわたって試験管内で増殖させる条件を確立した。また、増殖させた幹細胞を条件的に分化誘導し、再現的にニューロン、グリアを生み出すことが可能となった。また種々の方法で幹細胞に遺伝子導入を試み、リポソーム法あるいはレトロウイルス感染法により一定の率で遺伝子導入細胞を得ることが出来た。
結論
平成10年度の研究において、1.新たな原理に基づくパーキンソンモデル動物作成のための遺伝子発現系を作成し、マウス受精卵に導入することによりトランスジェニックマウスを作成し、目的遺伝子の発現を認めた。2.ラットパーキンソン病動物モデルに対して、カプセル化GDNF産生細胞の脳内移植が著効を示すことを明らかにした。3.神経幹細胞樹立の条件を確立し、さらに遺伝子導入が可能なことを示した。

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