遺伝性ポルフィリン症:新しいガイドラインの確立

文献情報

文献番号
201415068A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性ポルフィリン症:新しいガイドラインの確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-033
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中野 創(弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 川田 暁(近畿大学医学部)
  • 網中 雅仁(聖マリアンナ医科大学)
  • 前田 直人(山陰労災病院)
  • 大門 真(弘前大学大学院医学研究科)
  • 竹谷 茂(関西医科大学)
  • 古山 和道(岩手医科大学)
  • 堀江 裕(済生会江津総合病院)
  • 諏佐 真治(山形大学医学部)
  • 川原 繁(金沢大学赤十字病院)
  • 高橋 一平(弘前大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難病としての要件を満たすべく、客観的な指標を盛り込んだ遺伝性ポルフィリン症の診療ガイドライン/重症度分類を策定する。新規症例に対して遺伝子診断を施行し変異を同定する。診断補助のために分子生物学的検討も行う。光線過敏症を予防するためにサンスクリーン剤のさらなる有効性の検討を行う。診断・治療を平易に解説した既刊のポルフィリン症相談ガイドブックを改訂する。
研究方法
1.診療ガイドライン・重症度分類
過去に報告された遺伝性ポルフィリン症の本邦症例および2009年度に実施した疫学二次調査で回答が得られた症例を解析し診断基準・重症度分類案を作成した。
2.遺伝性ポルフィリン症の遺伝子診断
臨床的に遺伝性ポルフィリン症が疑われる症例16家系について、遺伝子変異の同定を試みた。
3.分子生物学的診断法の検討
新しい病型X連鎖優性プロトポルフィリン症の疾患モデル細胞を樹立するために、ゲノム編集システムを用いた変異導入を行なった。遺伝性ポルフィリン症の肝機能および鉄代謝との関連性を調べるために、既報のポルフィリン症250症例の肝機能マーカーおよび造血機能を検討した。
4.新規サンスクリーン剤の効果的使用法の検討
2種のサンスクリーン剤(リキッド、パウダー)と使用感を改善したBBクリームを単独、または組み合わせて、光線過敏を有するポルフィリン症患者に使用し、光線防御の有効性を検討した。
5.ポルフィリン症相談ガイドブックの改訂
平成24年度に作成されたポルフィリン症相談ガイドブック初版に最近の知見を盛り込み、改訂版を作成した。
結果と考察
C. 研究結果
1.診断基準は疫学調査で用いた基準に加えて、遺伝子検査を加えることが適当と判断された。重症度については、以下の臨床症状のいずれか1 項目以上を有するものを重症とすることが適切と考えられた。    
①患者の手掌大以上の大きさの水疱・びらんを伴う日光皮膚炎がある場合
②手指の機能全廃またはそれに準じる障害
③直近1 年間で2 回以上入院加療を要する程度の腹部疝痛発作がある場合
④直近1 年間で2 回以上入院加療を要する程度の脱水症状を伴う下痢を認める場合
⑤直近1 年間で2 回以上入院加療を要する程度の腸閉塞症状を呈する便秘を認める場合
⑥CHILD 分類でClassB 以上の肝機能障害を認める場合
⑦血中ヘモグロビン濃度が10.0g/dL 未満となる溶血性貧血
2.遺伝性ポルフィリン症が疑われた新規16家系を遺伝子変異検索し、11家系について原因遺伝子に変異を同定した。
3.過半数の変異導入クローンで両方のアレルに異なる変異が導入されており、高い変異導入効率が得られた。これらのクローンの中から両アレルに変異が導入されたクローンを選択し、ALAS2メッセンジャーRNA量を定量した所、変異K562細胞で発現量が低下していた。
また、ポルフィリン症250症例の肝機能マーカーおよび造血機能を検討した結果、解析された5病型間で、識別可能な特徴的パターンを示していた。
4.サンスクリーン剤を6か月以上使用した、ポルフィリン症患者27例について光線防御の有効性を検討した(内訳:男性15例, 女性12例)。副作用は全例で認めなかった。最長3.5年の使用でも副作用は認めなかった。リキッド+パウダー、リキッド単独、リキッド+リキッド、BBクリームの4者間では有効性に差はなかった。しかし塗布方法、塗り心地、外観には個々で差があった。
5.新たに寄せられた医療関係者、患者からのポルフィリン症に対する質問や、医学的新知見を盛り込んで,改訂第1版を発行した。

D. 考察
1.近年新しく記載された病型を新たに加え、遺伝子診断を確定診断に必須の項目として記載し、より客観的な診断基準となった。具体的な基準値を盛り込んだ重症度分類が作成され、患者の重症度に応じたきめ細かい病状管理が可能になると思われる。
2.11家系で確定診断が得られた一方、5家系では遺伝子変異が同定されなかったが、これらの家系では新規原因遺伝子が存在する可能性等が考えられた。
3.疾患モデル細胞の樹立可能性が高まり、今後の診断・治療に応用出来ると期待される。病型により、肝機能マーカーや造血機能検査データのプロファイルに特徴が見られ、診断に有用である。
4.使用感に満足が得られる使用方法を選択するのが良い。
5.本ガイドブックを普及させ、本疾患の啓蒙をはかる必要がある。
結論
遺伝性ポルフィリン症の研究グループは我々の研究班が国内唯一のグループであるため、国内の遺伝子診断例のほぼ全例を担っていると思われる。引き続き症例を集積し、今回策定した診断基準・重症度分類の妥当性を検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2018-06-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201415068C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝性ポルフィリン症が疑われた新規16家系を遺伝子変異検索し11家系について原因遺伝子に変異を同定し確定診断を得た。11家系の内訳は骨髄性プロトポルフィリン症6家系、X連鎖優性プロトポルフィリン症1家系、先天性ポルフィリン症2家系、急性間欠性ポルフィリン症2家系である。X連鎖優性プロトポルフィリン症の疾患モデル細胞を樹立するためゲノム編集システムを用いALAS2遺伝子変異導入を行ない、両アレルに変異が導入された変異クローンを選択しALAS2メッセンジャーRNA量を定量した所発現量が低下していた
臨床的観点からの成果
ポルフィリン症の5つの病型、急性間欠性ポルフィリン症、異型ポルフィリン症、遺伝性コプロポルフィリン症、晩発性皮膚ポルフィリン症、骨髄性プロトポルフィリン症、計250症例の肝機能マーカーおよび造血機能を検討した結果、肝機能に関連するAST、ALT、γ-GTPおよび造血機能に関連する血清鉄(Fe)、鉄飽和率(TSAT)の値は病型に特徴が認められた。3剤形のサンスクリーンをポルフィリン症27例に6か月以上の長期間使用したところ、全例に有効性が認められ、副作用はなかった。
ガイドライン等の開発
すでに作成されていた診断基準案に、新しい病型であるX連鎖優性プロトポルフィリン症の診断基準項目を追加し、確定診断に必要な検査項目として遺伝子診断を記載した。手掌大の水疱びらん形成、手指機能の全廃または準全廃、入院を要する腹部疝痛、入院を要する脱水症状を伴う下痢、入院を要する腸閉塞を伴う便秘、CHILD Class B以上の肝機能障害、血中ヘモグロビン濃度が10.0g/dL 未満の溶血性貧血のいずれか1つが該当する場合に重症とする新たな重症度分類を作成した。
その他行政的観点からの成果
2015年3月9日、厚生労働省指定難病研究委員会(第10回)において、ポルフィリン症が指定難病として検討する疾患にリストされた。同年4月28日、同委員会(第12回)において、ポルフィリン症が指定難病とすべき疾病として認められた。
その他のインパクト
ポルフィリン症が指定難病に認められたことが2015年5月12日に日本経済新聞等Web版に掲載。第113回日本皮膚科学会総会 教育講演9-1診断に必要な検査 遺伝性皮膚疾患の遺伝子診断(平成26年5月30日)、第78回日本皮膚科学会東部支部学術大会ランチョンセミナー5 遺伝子で“わかる”!皮膚疾患(平成26年10月5日)、第86回金沢皮膚研究会学術講演会 皮膚科領域の遺伝子診断:現状と展望 (平成26年11月6日)の3つの学会、研究会において遺伝性ポルフィリン症の臨床的重要性について講演した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ポルフィリン症診断基準・重症度分類
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
中野創
【なじみのない皮膚疾患を見逃さないコツ】 なじみのない小児の光線過敏症
デルマ Monthly book derma ,  (228) , 29-37  (2015)
1343-0831
原著論文2
中野創
2014225024 【初歩から学べる皮膚科検査の実際】 皮膚疾患の遺伝子診断
デルマ Monthly book derma ,  (216) , 43-50  (2014)
1343-0831

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201415068Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,204,770円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 103,230円
間接経費 692,000円
合計 3,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
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