Erdheim-Chester病に関する調査研究

文献情報

文献番号
201415060A
報告書区分
総括
研究課題名
Erdheim-Chester病に関する調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-025
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 片山  一朗(大阪大学 医学部附属病院)
  • 小倉  高志(神奈川県立循環器呼吸器病センター)
  • 齋藤 明子(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エルドハイム・チェスター病(Erdheim-Chester disease;ECD)は非ランゲルハンス細胞性組織球症の一型である。比較的稀な疾患であり2004年の時点で報告数は世界で100例にも満たなかったが、ここ10年ほどで認知度が上昇し、累積で500例程度の報告がなされている。ECDについてはその疫学や最適治療法など不明な点が多く残されているが、まとまった研究はほとんどなされていない。そこで、本研究では国内で初めて診療科横断的にECD症例を集積し、有病率や臨床症状、病変部位別の頻度等の基礎的なデータをまとめ、本邦におけるECD診療の実態を把握することを目的とした。
研究方法
本研究ではまず本疾患の頻度や臨床背景を調べるために症例登録システムを作成し、二段階に分けて調査を行うこととした。そこで本研究では、多施設共同後方視的調査研究として日本全国の主要な施設の血液内科、皮膚科、呼吸器内科、整形外科等ECDの診療に携わる頻度が比較的高い部局を中心として診療科横断的に幅広くECD診療経験の有無を問う一次調査を行った。また、各施設の病理部に対してもECD診断経験の有無を問う予備調査を行った。
結果と考察
一次調査2835部局、予備調査1015部局、合計3850部局に対して調査を行い、そのうちそれぞれ1568部局、437部局、合計2005部局(52%)より回答を得た。このうちECD症例の診療経験があると回答したのは33部局(1.6%)だった。また、国内で過去に報告されたECD症例の調査を行ったところ、英文報告15例、和文報告9例、学会発表のみの症例が18例、院内臨床病理検討会のみが2例の計44例であった。これらのうち重複した症例を除いて計71例のECD及びECD疑い症例を同定することができた。これら計71症例に対して症例毎の詳細な臨床情報と検体提供の可否について問う二次調査を行った。その結果、29症例(41%)の詳細な情報が得られた。初発症状としては発熱・全身倦怠感などの全身症状を呈した者が10例(34%)、骨痛・関節痛などの整形外科領域の骨症状を呈した者が7例(24%)、黄色腫、皮下腫瘤などの皮膚・軟部組織の症状を呈したものが3例(10%)、尿崩症・甲状腺機能低下症などの内分泌症状を呈した者が5例(17 %)、めまいや視力低下などの神経症状を呈した者が3 例(10%)、呼吸困難感などの呼吸器症状を呈した者が4例(14%)であった。29例中25例(86%)が複数の臓器に渡ってECDの病変を認めていた。ECDに対しての積極的治療は23例(79%)に対して行われており、その内容は副腎皮質ステロイド単剤が16例(55%)、IFNαが7例(24%)、放射線治療5例(17%)、シクロフォスファミドが4例(14%)、イマチニブが3例(10%)の他、エトポシド、クラドリビン、メトトレキサート、シクロスポリンなどの化学療法が1例ずつであった。また、副腎皮質ステロイドに対しては16例中11例(69%)が、IFNαに対しては7 例中6 例(86%)が、放射線治療に対しては5例中5例(100%)が、それぞれ病変の縮小や症状の改善など何らかの反応を示していた。二次調査症例の1年生存率、5年生存率はそれぞれ93%、75%だった。二次調査を行った症例では中枢神経病変を有する症例、循環器病変を有する症例、消化器病変を有する症例において有意に生命予後が悪かった。一方で、骨病変を有する症例は骨病変を有さない症例と比較して有意に生命予後が良かった。
結論
本調査ではlog-rank検定にて中枢神経病変を有する症例、循環器病変を有する症例及び消化器症状を有する症例において有意に生命予後が低下しており、本研究はこれらの病変の存在が予後に影響を与えることを初めて統計学的に明らかにした。興味深いことに骨病変を有する症例においては有意に予後が良好であった。今回の研究で得られたデータを踏まえ、病変や症状に合わせて以下のように治療方針を定めるのがより適切ではないかと考えた。すなわち、皮膚病変や骨病変など比較的低リスクと思われる臓器に留まるECDに対してはまず副腎皮質ステロイドや放射線療法、その他対症療法にて治療を行い、かつ定期的な画像検査による経過観察を行う。そして治療抵抗性を示す、もしくは画像検査によって中枢神経病変、循環器病変、呼吸器病変、腎・後腹膜病変など中~高リスクの臓器病変が検出された時点で、BRAF変異の検索やIFNα、ベムラフェニブなどの積極的な治療を検討する。これによって過剰な治療による副作用の出現や医療費の負担を避けることができ、かつより適切なタイミングで積極的治療へと移行することができるのではないかと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201415060Z