先天性GPI欠損症の疾患概念の確立と診断基準の制定:発達障害・てんかんを主症状とする新しい疾患

文献情報

文献番号
201415059A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性GPI欠損症の疾患概念の確立と診断基準の制定:発達障害・てんかんを主症状とする新しい疾患
課題番号
H26-難治等(難)-一般-024
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
村上 良子(大阪大学 微生物病研究所 )
研究分担者(所属機関)
  • 井上 徳光(大阪府立成人病セ ンター 研究所)
  • 高橋 幸利(独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
GPI(Glycosylphosphatidylinositol)アンカーは150種以上の蛋白質を細胞膜に繋ぐ糖脂質でその生合成と修飾に27個の遺伝子が必要である。これらの遺伝子に変異があると重要な機能を担う種々のGPIアンカー型蛋白質(GPI-AP)の細胞膜上の発現が低下、あるいはアンカーの構造が異常となり、精神発達障害やてんかん、時に高アルカリホスファターゼ(ALP)血症を来す。また重症例では脳の形成異常、聴覚障害等の神経症状、顔貌異常、四肢、心臓、腎・尿路系の奇形、鎖肛・ヒルシュスプルング病等の腸管奇形、魚鱗癬等広範な症状を示す。本研究班ではまず、このように新しい疾患である先天性GPI欠損症(IGD)の疾患概念を確立し診断基準を作成する。末梢血のフローサイトメトリー解析 (FACS)でスクリーニングを行い原因不明の精神発達障害や難治性てんかん患者から多くのIGD患者を診断し、患者情報を集積し鋭敏な疾患マーカーを検索する。ビタミンB6(ピリドキシン)の投与が難治性てんかんに著効する症例があるので早期の的確な診断が重要である.
研究方法
(1) 患者の診断と患者情報の収集
精神発達障害、てんかんと特徴的な奇形や高ALP血症を伴う患者の末梢血のフローサイトメトリー検査で顆粒球におけるGPIアンカー型タンパク質の発現を確認する。CD16の発現低下が見られれば、IGDの診断は確定する。責任遺伝子同定の為に末梢血から抽出したゲノムを用いてGPI関連遺伝子のターゲットエクソームシークエンス、あるいは横浜市立大学の遺伝子解析拠点班と連携して全エクソームシークエンスを行った。さらに患者情報の集積の為に現在大阪大学未来医療開発センターと共同して、米国Vanderbilt大学が開発したデータ集積管理システムREDCapを使ったデータベースの構築を開始した。
(2) 診療ガイドライン、疾患ホームページの作成 
国内患者の詳細な観察をもとに診療ガイドラインの草稿を作成し、完成した疾患ホームページに掲載している。ホームページには今までに明らかになったことを一般向けと医療関係者向けに分けてわかりやすく紹介し、新しい疾患であるIGDを特に一般臨床医に広く周知するため正確な情報を発信している。
結果と考察
(1) 患者の診断と患者情報の集積
今年度は国内症例のフローサイトメトリー解析と遺伝子解析によりPIGO, PIGN, PIGT, PIGA, PIGL欠損症が新たに見つかった。また海外との共同研究により世界で初めてPIGQ欠損症、PGAP1欠損症を報告した。PIGQ欠損症は早期発症型てんかん性脳症である大田原症候群の症例から見つかっている。PGAP1欠損症では細胞表面のGPI-APの発現量は低下しないが、イノシトールにアシル基が付いた異常な構造で発現するので正常では切断される細菌由来のPIPLC (Phosphatidylinositol-specific phospholipase C) 処理に抵抗性になることで血球のFACS解析による確認が可能である。重度の精神運動発達障害を呈し、てんかんを認めたが活性がほとんどなくても生存可能で多発奇形はみとめられなかった。このようにIGDはどのpathwayのどのステップの遺伝子変異か、また活性低下の程度によっても非常にブロードな症状を呈する。最近ではGPI pathway以外の遺伝子変異によるIGDも見つかっており、他の疾患とオーバーラップする症例も今後見つかってくると考えられる。多くの症例を集積してその特徴を詳細に観察することが重要である。患者情報の集積については大阪大学未来医療開発センターと共同して、米国Vanderbilt大学が開発したデータ集積管理システムREDCapを使ったデータベースの構築を開始し、まずエクセルベースで患者情報を収集する準備をしている。
(2) 診療ガイドライン、疾患ホームページの作成
11月の本研究班の会議で、日本小児神経学会の会員と交流を持ち、学会と交流を持って進める事等を議論した。国内患者の詳細な観察をもとに診療ガイドラインの草稿を作成し、完成した疾患ホームページに掲載している。(http://igd.biken.osaka-u.ac.jp/)
結論
先天性GPI欠損症(IGD)は新しい疾患であるが最近原因不明の運動発達障害や難治性てんかんの症例の中から次々と見つかっている。末梢血のフローサイトメトリーでスクリーニングが可能であり、遺伝子解析で変異遺伝子を同定し、機能解析で確認できる系がある。またビタミンB6(ピリドキシン)の投与がけいれん発作に著効する症例がある。早期診断・早期治療を実現する為にベッドサイドでの鋭敏な疾患マーカーの検索と、新たな治療法の開発が重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201415059Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,000,000円
(2)補助金確定額
2,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 598,108円
人件費・謝金 170,980円
旅費 133,960円
その他 635,974円
間接経費 461,000円
合計 2,000,022円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-08-30
更新日
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