文献情報
文献番号
199800364A
報告書区分
総括
研究課題名
ミトコンドリア機能障害によるアルツハイマー病の発症機序と予測に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
太田 成男(日本医科大学老人病研究所)
研究分担者(所属機関)
- 松田貞幸(鹿屋体育大学)
- 三木哲郎(愛媛大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
大多数を占める孤発性アルツハイマー病の発症機序を明らかにするには新たな危険因子あるいは引き金となる遺伝子変異を同定し、発症の機序を明らかにすることは社会的な要請に対し急務である。危険因子を明確にすることによって早期診断法を確立することも可能になる。私たちはDLST遺伝子の多型解析からアルツハイマー病の危険因子であると推定した。dihydrolipoamide succinyltransferase(DLST)の異常がアルツハイマー病の新しい危険因子であることを確定することが本研究の第一の目的である。そしてDLST遺伝子変異によって生じる神経細胞死のメカニズムを解明してアルツハイマー病の発症過程を明らかにする。さらにそれらの遺伝子変異を持つ人の特徴を明らかにし、アルツハイマー病の発症と生活習慣病の関連を明らかにする。
研究方法
1。各々の遺伝子型のDLST遺伝子の全塩基配列決定
DLST遺伝子型(ac/ac)をもつアルツハイマー病患者から全長DLST遺伝子をクローニングし、全塩基配列を決定した。別の遺伝子型の塩基配列と比較し、遺伝子型(ac)に特異的な塩基置換をみいだした。DLST(ac)型に特異的な塩基は5つで、アルツハイマー病危険因子の原因塩基候補は5つにしぼりこまれた。これらの遺伝子多型にはいづれもアミノ酸変化を伴う変化は全くなかった。
2。small DLST mRNAの検出
つぎに、DLSTがアルツハイマー病危険因子として働く分子機構の解明を試みた。DLSTは15のエクソンから成り立つが、イントロン7から転写されるmRNAがあり、エクソン8から読み取られる小さなDLST、 small DLST, sDLSTが生じることがわかった。これは、蛋白の検出精製、アミノ酸配列の決定、mRNAの転写開始点の同定、cap構造の付加の確認等によって確定した。DLSTの各々の遺伝子型の遺伝子をラットPC12細胞に導入し、sDLST mRNAの定量を行った。
3。分子疫学的検討
分子疫学的研究よりアルツハイマー病と相関する遺伝子型(ac/ac)をもつ健常人と特徴も調べた。600人を対照とし、DLST(ac)をホモおあるいはヘテロに持つ人の特徴を検索した。(中部病院長寿医療研究センターの下方部長らとの共同研究)。
4。アルツハイマー病新規危険因子の検討
DLST以外のミトコンドリア蛋白遺伝子とアルツハイマー病との相関関係をさらに調べるため、ミトコンドリア蛋白遺伝子の多型解析を行った。アルツハイマー病患者と健常人の多型の頻度を統計的に比較した。
5。危険因子候補の検討
α2-マクログロブリンとα-synuclein遺伝子の多型の頻度を健常人とアルツハイマー病患者で比較して、統計処理を行った。
DLST遺伝子型(ac/ac)をもつアルツハイマー病患者から全長DLST遺伝子をクローニングし、全塩基配列を決定した。別の遺伝子型の塩基配列と比較し、遺伝子型(ac)に特異的な塩基置換をみいだした。DLST(ac)型に特異的な塩基は5つで、アルツハイマー病危険因子の原因塩基候補は5つにしぼりこまれた。これらの遺伝子多型にはいづれもアミノ酸変化を伴う変化は全くなかった。
2。small DLST mRNAの検出
つぎに、DLSTがアルツハイマー病危険因子として働く分子機構の解明を試みた。DLSTは15のエクソンから成り立つが、イントロン7から転写されるmRNAがあり、エクソン8から読み取られる小さなDLST、 small DLST, sDLSTが生じることがわかった。これは、蛋白の検出精製、アミノ酸配列の決定、mRNAの転写開始点の同定、cap構造の付加の確認等によって確定した。DLSTの各々の遺伝子型の遺伝子をラットPC12細胞に導入し、sDLST mRNAの定量を行った。
3。分子疫学的検討
分子疫学的研究よりアルツハイマー病と相関する遺伝子型(ac/ac)をもつ健常人と特徴も調べた。600人を対照とし、DLST(ac)をホモおあるいはヘテロに持つ人の特徴を検索した。(中部病院長寿医療研究センターの下方部長らとの共同研究)。
4。アルツハイマー病新規危険因子の検討
DLST以外のミトコンドリア蛋白遺伝子とアルツハイマー病との相関関係をさらに調べるため、ミトコンドリア蛋白遺伝子の多型解析を行った。アルツハイマー病患者と健常人の多型の頻度を統計的に比較した。
5。危険因子候補の検討
α2-マクログロブリンとα-synuclein遺伝子の多型の頻度を健常人とアルツハイマー病患者で比較して、統計処理を行った。
結果と考察
1。 DLST遺伝子の多型解析によりDLST遺伝子型(ac/ac)とアルツハイマー病には有意に相関関連があることを先に報告した。その遺伝子多型はアミノ酸変化を伴わない塩基置換であったので、何故DLST遺伝子多型がアルツハイマー病と相関関係があるのかを検討した。まず、DLSTを各々の遺伝子型の人からDLSTをコスミドベクターからクローニングした。さらに、全遺伝子配列を決定し、DLST(ac)に特異的な塩基置換を見い出した。
2。イントロン7から転写を開始する短いmRNAが存在することを発見し、ヒト脳から短いDLST遺伝子由来mRNAを検出した。また、その定量法を確立した。この短いDLSTをsmallDLST(sDLST)と呼ぶことにし、sDLST mRNAはDLSTの遺伝子型によって転写効率が違うことをラット培養細胞PC12に遺伝子を導入することによって明らかにした。
3。アルツハイマー病と相関関係の高いDLST(ac/ac)遺伝子型をもつ健常人の特徴を分子疫学的手法を用いて明らかにした。健常人600人を解析するとDLST(ac)を持つ人は持たない人に比べ、肝障害が大きいこと、心拍排出量が少ないこと、血糖値が高いことなど、DLSTの遺伝子型(ac)によって正常範囲ないでも全身の機能低下が認められた。
4。さらに、ミトコンドリアに局在するアルデヒド脱水素酵素2の遺伝子多型とアルツハイマー病に相関関係があることを明らかにした。α2ーマクログロブリン遺伝子とアルツハイマー病に相関関係があることを確認し、α-synucleinの遺伝子に欠失変異と女性のアルツハイマー病患者に相関があることを見い出した。
遺伝子型と疾患の相関関係を調べる結果(association study)はしばしば、地域差であったり、統計的誤差範囲であったり、その結果が信頼できない場合がしばしば指摘されている。本年度の検索で、アルツハイマー病と相関関係が認められたDLST遺伝子型をもつ健常人にも肝障害が認められたり、血糖値が高いなど遺伝子型に特有の性質が認められたので、DLSTの遺伝子型がアルツハイマー病にも関与していることがより確実になった。また、海外でもDLST遺伝子型とアルツハイマー病が相関関係にあることを示す結果が報告されている。 DLST遺伝子の遺伝子型とアルツハイマー病が相関関係があることがより明らかになってきたが、遺伝子型を分類する遺伝子の塩基置換によってアミノ酸変化は生じない。昨年、それを説明する作業仮説として、イントロンから転写されるmRNAを想定し、そのmRNAにより合成される小さな蛋白がアルツハイマー病の発症にかかわっているという作業仮説を提出したが、そのmRNAの存在が実証された。さらにこの小さな蛋白の果たす役割を明らかにする必要がある。
2。イントロン7から転写を開始する短いmRNAが存在することを発見し、ヒト脳から短いDLST遺伝子由来mRNAを検出した。また、その定量法を確立した。この短いDLSTをsmallDLST(sDLST)と呼ぶことにし、sDLST mRNAはDLSTの遺伝子型によって転写効率が違うことをラット培養細胞PC12に遺伝子を導入することによって明らかにした。
3。アルツハイマー病と相関関係の高いDLST(ac/ac)遺伝子型をもつ健常人の特徴を分子疫学的手法を用いて明らかにした。健常人600人を解析するとDLST(ac)を持つ人は持たない人に比べ、肝障害が大きいこと、心拍排出量が少ないこと、血糖値が高いことなど、DLSTの遺伝子型(ac)によって正常範囲ないでも全身の機能低下が認められた。
4。さらに、ミトコンドリアに局在するアルデヒド脱水素酵素2の遺伝子多型とアルツハイマー病に相関関係があることを明らかにした。α2ーマクログロブリン遺伝子とアルツハイマー病に相関関係があることを確認し、α-synucleinの遺伝子に欠失変異と女性のアルツハイマー病患者に相関があることを見い出した。
遺伝子型と疾患の相関関係を調べる結果(association study)はしばしば、地域差であったり、統計的誤差範囲であったり、その結果が信頼できない場合がしばしば指摘されている。本年度の検索で、アルツハイマー病と相関関係が認められたDLST遺伝子型をもつ健常人にも肝障害が認められたり、血糖値が高いなど遺伝子型に特有の性質が認められたので、DLSTの遺伝子型がアルツハイマー病にも関与していることがより確実になった。また、海外でもDLST遺伝子型とアルツハイマー病が相関関係にあることを示す結果が報告されている。 DLST遺伝子の遺伝子型とアルツハイマー病が相関関係があることがより明らかになってきたが、遺伝子型を分類する遺伝子の塩基置換によってアミノ酸変化は生じない。昨年、それを説明する作業仮説として、イントロンから転写されるmRNAを想定し、そのmRNAにより合成される小さな蛋白がアルツハイマー病の発症にかかわっているという作業仮説を提出したが、そのmRNAの存在が実証された。さらにこの小さな蛋白の果たす役割を明らかにする必要がある。
結論
ミトコンドリア酵素のジヒドロリポアミドサクシニル転移酵素(DLST)遺伝子の多型に基づく遺伝子型とアルツハイマー病の相関関係を生じさせる原因を解明するために、DLST遺伝子解析を詳細におこない、イントロンから転写開始するmRNAをつきとめた。また、アルツハイマー病と相関関係のあるDLST遺伝子型をもつ人はアルツハイマー病患者ではなくても肝障害や血糖値異常があることがわかった。さらに、アルツハイマー病の新規危険因子を検索した。DLSTがアルツハイマー病の危険因子である可能性が一段と高まり、その分子機構も解明しつつある。
公開日・更新日
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