乳児劇症肝不全の新しい重症度分類の確立

文献情報

文献番号
201415057A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児劇症肝不全の新しい重症度分類の確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-022
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小林 健一郎(独立行政法人国立成育医療研究センター 小児血液・腫瘍研究部造血腫瘍発生研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 笠原 群生(国立成育医療研究センター 臓器移植センタ-)
  • 中澤 温子(中川 温子)(独立行政法人国立成育医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の乳児劇症肝不全の治療成績は集学的治療の導入でも救命率は54%と予後不良である。その理由として、乳児劇症肝不全の実態が明らかでないこと、客観的な指標に基づく重症度分類が確立されていないことが挙げられる。国立成育医療研究センターでは、平成25年1月から小児肝移植のオンライン登録と追跡調査システムとを整備した。本研究の目的は、このシステムに基づくわが国の本症の実態解明にある。同時に、申請者らが新規に同定した本症のバイオマーカーであるサイトカインXとその組織障害性を制御する分子群に着目した病態研究に基づく本症の新しい重症度分類の確立を目指す。
研究方法
小児肝移植オンラインシステムに基づき本邦における実態調査を行う。国立成育医療センターで施行された小児肝移植症例の臨床病理学的データを集計・分析する。小児肝移植オンライン登録システムには、現在、九州大学、京都大学、熊本大学、慶應義塾大学、自治医科大学、福島県立医科大学、藤田保健衛生大学、国立成育医療研究センターの計8施設が登録されている。データ管理は、国立成育医療センター登録事務局で個人情報保護に係る体制の整備、資料の保存および利用等に関する措置が行われ、連結可能匿名化されている。本研究結果の公表は、集団の解析結果のみとし、個人が特定される情報は一切公表されない。また、臨床研究データに関するネットワークおよびシステムセキュリティは確保済である。ヒト試料を使用する研究については、成育医療研究センターで「生体肝移植時に生じる余剰肝等からのヒト肝細胞の分離・保存:受付番号385」および小児劇症肝不全の病態解明に関する研究(課題番号466)の倫理承認を経て、臨床研究の倫理指針と個人情報保護法を遵守し研究を実施した。
結果と考察
①小児肝移植のデータベース:平成27年3月27日の時点で登録例数は305例である。このうち転帰が判明している253 例の累積生存率は90.1 ± 2.1%(胆汁うっ滞性疾患では93.3 ± 2.2%、代謝性疾患では93.4 ± 3.7%、急性肝不全では 79.9 ± 7.2%)であった。追跡調査では身長が-2SD 以下の例が17.6%、体重が+2SDを超える例が11.8%にみられた。長期予後では76.6%で通常の就労・就学(学齢期以前では正常な成長)と判定されており、難病を克服したあとのQOLの実態を明らかにすることができた。

②劇症肝不全の新しい重症度分類の確立:本研究では、新しいバイオマーカーであるサイトカインXの臨床的意義を検証した。その結果、本症の急性度と肝組織中のサイトカインX濃度とに強い相関を認めた。肝組織中の炎症性サイトカインXとそれを分解する肝酵素Yの発現度に基づく新しい診断基準(組織診断)では、本症の臨床病型(超急性型、急性型、亜急性型)の層別化が可能である。サイトカインXは、肝中心静脈の血管壁と周囲の結合組織に強発現し、その発現度は血管傷害の重症度と相関していた。サイトカインXの分解酵素である肝酵素Yは、慢性肝不全では健常者と比較して高値であるが、劇症肝不全では極低値であった。このことが、劇症肝不全ではサイトカインXが分解されず異常高値が遷延する原因の一つと考えた。肝酵素Yは炎症性サイトカインXのN末端アミノ酸を切断することで、その肝傷害性をリセットできるため、酵素Y補充療法が本症に対する分子標的治療になる可能性が示唆された。
結論
①小児肝移植のオンライン登録と追跡調査システムではQOL関連の項目を充実させており、患者家族への情報発信及び患者支援に資する精度の高いデータベースとして利活用できる。
②本研究体制の特徴は臨床情報と病理情報とが一元管理されていることである。本研究を通じて病態研究に基づく“新しい重症度分類”を構築することができた。客観的な指標に基づく病勢評価で、患者および家族への病状説明ならびに肝移植のドナー確保等の救命の連鎖(chain of survival)を円滑に進めることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201415057Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,600,000円
(2)補助金確定額
1,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,224,180円
人件費・謝金 0円
旅費 4,820円
その他 2,000円
間接経費 369,000円
合計 1,600,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-