HSD10病の発症形態と患者数の把握、診断基準の作成に関する研究

文献情報

文献番号
201415056A
報告書区分
総括
研究課題名
HSD10病の発症形態と患者数の把握、診断基準の作成に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-021
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
深尾 敏幸(岐阜大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 長谷川 行洋(都立小児総合医療センター)
  • 堀 友博(岐阜大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
β-ケトチオラーゼ欠損症と同様の尿有機酸所見を示すが臨床像が異なる疾患として、2001年に世界ではじめての症例が同定されてたが、2012年にアジアではじめてのHSD10病の症例を同定することが出来た。この酵素が多機能蛋白であり、ミトコンドリア内のステロイド代謝、ミトコンドリアRNasePのコンポーネントとしても働くことから、重症例では神経退行を示し予後の悪い疾患である。しかし世界でも報告例は20家系程度であり、まだ十分に臨床像が明らかになっていない疾患でもある.本年度は
1)本疾患の診断法の確立
2)アンケート調査による候補症例の集積
3)β-ケトチオラーゼ(T2)欠損症疑いで否定された症例の後方視的解析
4)以上をもとに新規患者の診断
上記から抽出された症例について、患者家族の同意を得て酵素診断および遺伝子診断により本症の可能性を検討することを目的とした.
研究方法
1)診断法の確立
A) 遺伝子診断法の確立:これは通常のゲノムレベルの解析で有り、比較的容易に確立でき、まずはこれが診断法としてすぐに用いられるよう準備する.
B) 2M3HBDH活性測定法、17beta hydroxysteroid dehydrogenase活性測定法の検討
C) 有機酸分析による2-methylacetoacetateの検出:島根大学の有機酸分析において、本症とT2欠損症の鑑別に重要な2-metylacetoacetateの検出についての検討を行う.
2)アンケートによる候補症例の集積
腫瘍小児科施設へのアンケート調査よりもむしろ本症やT2欠損症を疑えば必ず行われる尿有機酸分析を行っている施設へのアンケートが効率的かつ確実であると考えて9施設へのアンケート調査を行った.
3) 過去のT2欠損症が疑われ、否定された症例の後方視的解析
本症はT2欠損症と類似した有機酸分析、アシルカルニチン分析結果を示す.島根大学の過去5年のファイルから候補症例の抽出を行う.また。過去にT2欠損を疑われ、岐阜大学で否定した症例の過去5年のファイルから抽出を行う.
4)全国からのケトン体代謝異常症、T2欠損症の疑い症例の相談
相談を継続して受け、その中でHSD10病の可能性のある症例については、本症の遺伝子検査についても家族の承諾のもとで行う.
結果と考察
1)診断法の確立
A)遺伝子診断法の確立:
遺伝子解析は常法に従い、本症の責任遺伝子HSD17B10のエクソンゲノムPCR, ダイレクトシークエンスを行った以下のそのプライマー配列で解析した.可能性のある症例について解析を行い、日本で3例のHSD10病を診断することが出来た。
B) 2M3HBDH活性測定法、17beta hydroxysteroid dehydrogenase(17HSD)活性測定法の検討:
検討中であるが、まだ確立出来ていない.
C) 有機酸分析による2-methylacetoacetateの検出:
典型的T2欠損症症例において2-methylacetoacetateのピークを検出することが出来るシステムとなった.
2) アンケート調査
9施設より過去5年間にT2欠損症を疑う尿有機酸分析結果を示した症例のアンケートについて全施設から回答を得た。結果として既に岐阜大学でT2欠損症と診断した1家系2症例、HSD10病と診断した計3症例以外には、疑い症例はないことが明らかとなった。
3) 後方視的解析
軽症β-ケトチオラーゼ欠損症疑い症例のピックアップを行った.
4) HSD10病と同定できた3例について
 アジアで最初の症例についてはJ. Hum. Genetに本年掲載された.本年度2名の新たな症例を、臨床像、有機酸分析結果等から疑い、遺伝子解析にて診断することが出来た.臨床的には典型的β-ケトチオラーゼ欠損症と検査所見、発症時期などで異なっていたので本症を疑うことが出来たが、アジア最初の症例は発症時期が遅いことを除けば、発作時の検査所見はむしろβ-ケトチオラーゼ欠損症を疑わせる所見であった.
結論
HSD10病はイソロイシン代謝系でβ-ケトチオラーゼ欠損症の1つ上流ステップがブロックされる代謝異常症である.本研究班の1年目の活動として、新たな症例の発見ということが1つの目標であったが、新たに2例(日本で3例目)を診断することができた.有機酸代謝スクリーニング施設へのアンケート調査、島根大学、岐阜大学にT2欠損症疑いで紹介された症例の後方視的検討、診断法の確立のための研究などを行った.来年度に診断基準を策定することになっている.2012年日本で最初の本症患者を同定したが、本年度J. Hum Genetに掲載された.今後もT2欠損症と本症を鑑別して診断していくことが重要である.

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201415056Z