炎症性動脈瘤形成症候群の病態診断および治療法選択に関する研究

文献情報

文献番号
201415052A
報告書区分
総括
研究課題名
炎症性動脈瘤形成症候群の病態診断および治療法選択に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-017
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 恭子 (今中 恭子)(三重大学 大学院医学系研究科(基礎医学系講座修復再生病理学分野))
研究分担者(所属機関)
  • 阿部 淳(国立成育医療研究センター・免疫アレルギー研究部)
  • 佐地 勉(東邦大学 医療センター大森病院)
  • 白石 公(国立循環器病センター 小児科学)
  • 松下 竹次(国立国際医療研究センター 小児科学)
  • 廣江 道昭 (国立国際医療研究センター 循環器内科学)
  • 武田 充人(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 市田 蕗子(富山大学 医学薬学研究部)
  • 須田 憲治(久留米大学 医学部)
  • 吉兼 由佳子(福岡大学 医学部)
  • 青木 浩樹(久留米大学 循環器病研究所)
  • 吉村 耕一(山口大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炎症性動脈瘤形成症候群は全身性急性汎血管炎に続発し、大動脈や、冠動脈など血管壁の 破壊、不可逆的な著しい拡張をおこす。ほとんどが小児期に発症し、川崎病に合併することが多い。ガンマグロブリン治療の普及により川崎病に合併する冠動脈瘤発症数は減少したが、ガンマグロブリン不応例、免疫グロブリンに反応しても冠動脈瘤を合併する症例も存在する。しかし、現在、冠動脈瘤形成を予知する診断指標はなく、一度動脈瘤が形成されると根治療法はない。本研究班では,動脈瘤形成の病態を正確に診断し、それに基づいた最適な動脈瘤形成予防法選択の指針策定を最終目的として、冠動脈病変の病勢を評価し動脈瘤形成を予知するバイオマーカーの探索、特に,細胞外マトリックスタンパクのひとつ、テネイシンCの有用性を評価することを目的とする。
研究方法
日本小児循環器学会と連携し、関連疾患である川崎病等小児有熱疾患患者を症例登録し、106例の後ろ向き研究および265例の前向き研究を行い、経時的に採血して血清テネイシンCをELISA法で測定し、血中濃度の経時的変化、投薬歴、治療反応性、冠動脈瘤形成との相関の解析および、他の臨床指標と対比した。
結果と考察
後ろ向き研究で、川崎病症例106例のうち,治療前後のテネイシンC値を測定した106例(男:54例,女:52例)を対象とした。冠動脈瘤形成は8例に認めた。急性期の血清テネイシンC値はCRPと弱い相関がみられ、治療後有意に低下した。冠動脈瘤形成群(n=8)では瘤を形成しなかった群(n=98)に比べて治療前の血清が有意に高く、初回ガンマグロブリン治療不応例が多かった。治療前テネイシンC値をカットオフ値112.3ng/mlとして冠動脈瘤形成をROC解析で予測すると, Sensitivity 83%,Specificity86%, AUC 0.903で、CRPより優れていた。またガンマグロブリン不応群(n=20)は,反応群(n=86)に比べて,治療前のテネイシンC値、ASTが有意に高く、白血球血小板値が低かった。治療前の血清テネイシンC値をカットオフ値95ng/mlとして追加治療の必要性をROC解析で予測すると,sensitivity70%, specificity77%、AUC0.784に対し、CRPではカットオフ値6.9mg/dlでsensitivity79%、specificity52%、AUC0.663であった。
2. 川崎病265例のうち,治療前後のテネイシンC値を測定した183例を対象とし,初回ガンマグロブリン治療で解熱を得た群(n=134)と追加治療を必要とした群(n=40)を比較すると、追加治療群では、初回治療前の%Neut, CRP, 血清テネイシンC がR群より有意に高かった。
今回の結果では、治療前の血中テネイシンC値が高い群はガンマグロブリン療法不応性の可能性が高く、血中テネイシンCが強化治療必要性の指標となる事が示唆された。現在、初期強化治療の統一プロトコールはなく、ステロイドをはじめいくつかの薬剤の組み合わせが試みられているため、本研究で対象とした症例も様々な治療を受けていた。しかしながら、各治療群ごとの症例数の不足により、他の候補となる指標に対するテネイシンCの優位性や、さらに、治療法の違いに基づく差、最適な治療法の選択に関して統計学的に証明するには至らなかった。血中テネイシンCは有用ではあるが、絶対唯一の炎症性動脈瘤診断バイオマーカーではないことは、生物学的に明らかであり、2つないし3つのバイオマーカーを組み合わせて病態を正確に把握して治療法を選択する事が現実的と考えらえる。そこで、本研究班は、小児循環器病学会、日本川崎病学会内と連携し、さらに規模を拡大し、統一治療プロトコール下での全国規模の調査研究を行う計画である。すでに2014年4月から連携している小児循環器病学会の学術委員会申請研究班とあわせて合同研究班を組織し、これまでに本邦で発表された結果をもとに、各種バイオマーカーのエビデンス分類を行うとともに、登録症例1000例を目標に前向き調査を開始した。炎症性動脈瘤形成症候群は、1967年に川崎富作博士によって日本で初めて報告され、日本をはじめ先進国における小児の後天性循環器疾患として最も多い川崎病ときわめて関連の強い疾患であり、冠動脈瘤予知診断法の確立の社会的意義は非常に大きいと思われる。
結論
細胞外マトリックステネイシンCの血中濃度は冠動脈瘤形成病勢を評価して動脈瘤形成を予知し、適切な治療法選択のためのバイオマーカーとして有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201415052C

成果

専門的・学術的観点からの成果
細胞外マトリックス分子テネイシンCは,血管炎から動脈瘤形成にいたる過程で、炎症、組織修復に伴って発現上昇し、炎症や組織修復制御など多様な生物作用を有し、瘤形成の病態指標となりうる ことが明らかになった。
臨床的観点からの成果
治療前の血中テネイシンC値が高い川崎病症例はガンマグロブリン療法不応性及び冠動脈瘤形成のリスクが高く、テネイシンCは、強化治療必要性の指標並びに、治療効果判定指標として有用であることが明らかになった。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
2016年11月10日に三重大学からプレスリリースを行い,テネイシンCが川崎病の治療法を決定するための新しい診断マーカーになることが新聞,テレビで報道された。2018年7月Biotech2018で発表を行って企業との連携をすすめ、迅速測定キットの開発を開始した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
炎症性動脈瘤の診断方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-168018
発明者名: 今中恭子、三谷義英、吉田利通、清藤勉、松下竹次、大熊喜彰、吉兼由佳子、須田憲治、市田蕗子
国内外の別: 国内
特許の名称
炎症性動脈瘤の診断方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第6023496号
発明者名: 今中恭子、三谷義英、吉田利通、清藤勉、松下竹次、大熊喜彰、吉兼由佳子、須田憲治、市田蕗子
権利者名: 国立大学法人三重大学、大学法人福岡大学
出願年月日: 20120730
取得年月日: 20161014
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshikane Y, Koga M, Imanaka-Yoshida K et al
JNK is critical for the development of Candida albicans-induced vascular lesions in a mouse model of Kawasaki disease.
Cardiovasc Pathol , 24 , 33-40  (2015)
原著論文2
Okuma Y,Suda K, Imanaka-Yoshida K. et al.
Serum Tenascin-C as a Novel Predictor for Risk of Coronary Artery Lesion and Resistance to Intravenous Immunoglobulin in Kawasaki Disease- A Multicenter Retrospective Study.
Circ J , 80 , 2376-2381  (2016)
10.1253/circj.CJ-16-0563
原著論文3
Yokouchi Y, Oharaseki T, Takahashi K, Imanaka-Yoshida K et al.
Expression of tenascin C in cardiovascular lesions of Kawasaki disease
Cardiovasc Pathol , 38 , 25-30  (2018)
10.1016/j.carpath.2018.10.005.

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2019-06-04

収支報告書

文献番号
201415052Z