新生児・小児における特発性血栓症の診断、予防および治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201415048A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児・小児における特発性血栓症の診断、予防および治療法の確立に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大賀 正一(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新生児と小児の血栓症は近年世界的にも、またわが国でも増加している多元病である。とくに血栓発症リスクの最も高い遺伝性素因である プロテイン(PC)、 プロテインS(PS)およびアンチトロンビン(AT)欠損症の早期診断法が注目されている。これら遺伝性血栓症の頻度などに関する分子疫学についての報告が、欧米でも小児に対するコホート研究としてようやく2014年からみられるようになった。小児では血栓止血機構の成熟要因および感染などの誘因(後天的要因)が成人と異なり、画像診断も困難なため血栓症の診断と素因解析は難しい。またその治療管理法と予防法も確立していない。日本における周産期に特徴的な遺伝性血栓症の発症様式を明らかにして、早期診断と治療の指針を作成するために本研究を開始した。
研究方法
新生児および小児期に発症する特発性血栓症に対して、①血栓性素因スクリーニングと遺伝子解析を継続して行い症例を集積する。②全国規模で診療ネットワークを確立し、国内登録データベースを作成する。③診療情報をもとに、3大抗凝固因子欠損症を中心とした診断と治療の指針(案)を作成する。新生児領域は総合周産期母子医療センターを中心に、日本産婦人科新生児血液学会を基盤に、小児領域は大学病院と小児病院を中心に、日本小児血液がん学会を基盤として活動する。具体的には、症例集積と血栓性素因の臨床的評価(遺伝子解析とカウンセリング)、血栓性素因スクリーニング、遺伝子解析、治療薬の適応と有効な適正使用に関する検討、新生児と小児における診断と治療指針の作成などに役割を分担して研究を進めた。
結果と考察
1)新規発症例の集積
2014年は新規28家系から21検体を解析し、 PC遺伝子変異3名(複合へテロ1、ヘテロ2)の児、PS複合へテロ変異1名の母を同定した。3年間に集積したPC欠乏児37名から13名(44%)の変異保有者を確定した。小児は成人よりも活性値と臨床像からその診断が難しいが、成人との違いをおよそ明らかにすることができた。新規診断例の年次推移からヘテロ変異の小児発症例がかなり見逃されていると推定される。
2)小児期発症者における血栓性素因の効果的診断法
年齢別に設定した各因子活性下限値の有用性を20歳までの血栓症例の解析から検討した。2歳未満と中学生では低PC活性児が約45%と他2因子活性低下児の割合より高いこと、小学生では低PC活性児と低PS活性児の割合(各19%)も高いこと、が明らかになった。PC欠損症による特発性血栓症は2歳未満が最多(44%)でこの年齢群にPROC変異を6名同定した。PS欠損症は小学生に多く(33%)この年齢群にPROS1変異を4名同定した。この年齢別下限値の成人の基準値に相当する有用性が示された。一方、2歳未満とくに新生児におけるPC異常症診断のための活性下限値の設定の難しさが明らかとなった。早期産児は凝固検査の評価が難しく、多施設共同で基準値設定の標準化を行った。新規活性測定法、新生児の基準値と過凝固の評価について検討を継続している。
3)診療ガイドラインの作成
年齢別抗凝固因子活性下限値と発症様式を考慮した成人と異なる「新生児・小児における遺伝性栓友病の診断基準案」および「重症度分類案」を作成した。また治療に関しては新生児DICの新しい診療ガイドラインと組み合わせて早期の効率的な遺伝子診断につなげる方法を提案した。新生児領域を中心に全国ネットを確立してこの案の有用性を継続して検討中である。本研究班での確定診断例に根治療法としての生体肝ドミノ移植が成功した。予後不良な新生児発症例の保存的治療と予防法の確立することが重要である。
結論
本研究班の症例集積から成人とは明らかに異なる小児血栓症の遺伝的背景と臨床像を明らかにすることができた。これにより、今回新生児と小児例の早期診断案と重症度分類案を作成した。この臨床的有用性を全国規模で評価することが重要である。重篤な後遺症を残すこの稀少疾患を見逃さないよう小児期から早期に効率的に診断する体制を全国の小児・周産期の基幹病院を中心に整えて、重症例の根治療法までを含む治療管理と予防の指針を提言することができるよう研究を継続する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201415048Z