我が国におけるIdiopathic Slow Transit Constipation の疫学・診断・治療の実態調査

文献情報

文献番号
201415044A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国におけるIdiopathic Slow Transit Constipation の疫学・診断・治療の実態調査
課題番号
H26-難治等(難)-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中島 淳(横浜市立大学 大学院医学研究科肝胆膵消化器病学)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田 洋(横浜市立大学医学部医学教育学)
  • 稲森 正彦(横浜市立大学附属病院臨床研修センター)
  • 正木 忠彦(杏林大学消化器一般外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Idiopathic slow transit constipation (ISTC)は難治性希少便秘症の一つで、著明な腹部症状と、就学・勤労の不能に陥り、下剤の乱用から精神異常を呈することもまれではない。薬物療法は現時点では無効であり、我々の施設では経口摂取が困難になると数年間在宅中心静脈栄養などを経て大腸全摘出術を行う。長期にわたる重症便秘のため浣腸の乱用などから直腸肛門機能が廃絶している場合、患者は大腸全摘をしてもその後長期に排便障害に苦しむことになる。治療満足度が非常に低く、疾患概念の整理や統一された診断基準の確立が切に求められているにも関わらず、本疾患の我が国における疫学は不詳である。また国外でも疾患概念の混乱があり実態は不詳である。本研究では、本邦における実態を明らかにし、病態整理、定義、診断基準の策定を行うことを目的とする。
研究方法
今回の研究では日本消化器病学会の附置研究会として「慢性便秘の診断・治療研究会」と連携し、そのメンバーおよび大腸肛門学会なども含めて関連学会との連携を密にはかりながら実態に関して全国調査を行い、合わせて当該疾患の研究者を集めて診断基準と重症度基準の策定を来ない国内のみならず国外の批判(パブリックコメント)を仰ぎ関連学会を通して確立することを目的とする。
我々が検索する限り、これまでISTCの明確な定義や疾患概念の報告はなく、より確実で臨床診療に還元できる研究成果を生み出すため、当初予定していた全国規模の疫学調査に先立ち、平成26年6月
日本消化器病学会および大腸肛門機能障害研究会登録医師296名を対象に、ISTCに関する認知調査を郵送によるアンケート方式で施行した。アンケートは4つの質問項目で構成される。1)ISTCを知っているか、2)ISTCをどのような疾患と捉えているか、3)ISTCの診療経験があるか、4)巨大結腸症や結腸無力症との関連性をどのようにとらえているか
結果と考察
調査対象者296名のうち130名から回答を得た。回答率は44%である。ISTCを認知していたのは、そのうち55%の72名であった。ISTCをどのような疾患と捉えているか、という質問に対しては、「結腸通過時間の遅延」「蠕動運動障害」の回答が過半数を占めたが、漠然とした回答も多く、一定の見解は得られなかった。ISTCの診療経験に関しては、ISTCを認識している専門医のうち48名(67%)が診療経験を有し、21人(29%)が診療経験を有さないと回答した。診療経験人数は、0〜100名以上と幅があったが、それぞれの症例がどのようにISTCと診断されているかが一定でないため、あくまで参考値である。その他の疾患概念との関連性については有効回答が非常に少なく、また一定の見解は得られなかった。本調査の結果、専門医の間でもISTCの認知が非常に低く、特に内科医での認知率の低さが浮き彫りとなった。本疾患を認知している専門医の間でも概念に関する一定の認識はなく、混乱が伺われたが、唯一の共通見解をあえて決めるのであれば、「結腸通過時間の遅延」といえた。
これは疾患名からも想像に難くない概念である。結腸通過時間の測定方法は、国内外の論文で
いくつか報告されているが、本邦でも施行可能な方法は、X線不透過マーカーを用いるものである。
マーカーの内服とレントゲンの撮影で施行できる簡便な方法で有用性が複数の論文で報告されてい
る。またプロトコールは複数存在するが、もっとも報告が多い方法は、「X線不透過マーカーを
複数(20あるいは24個の規格が最も多い)含有されたカプセルを1つ内服し、5日後に撮影した腹部
レントゲン写真で結腸内に20%以上のマーカーが残存していると結腸通過時間が遅延していると判断する」というものである。

結論
アンケート調査結果と論文報告をもとに、ISTCの定義暫定案を「結腸通過時間が遅延しているもの。結腸通過時間の遅延は、X線不透過マーカー(ジッツマーク)を内服後、5日目のレントゲンで結腸内に20%以上のマーカーが散在して残存することで証明する。」と設定した。X線不透過マーカーは本邦では保険収載となっていないが、結腸通過時間を測定する方法でその他に実施可能な検査が存在しないこと、また結腸通過時間遅延以外でコンセンサスを得られる可能性のある概念は存在しないこと、また特徴的な臨床症状の報告がないことから、X線不透過を用いた定義案の設定とした。今後は、この定義案を満たす症例を集積し、特徴的な臨床症状の抽出を試みる。定義案の改訂を行い、交付申請時に予定していた全国疫学調査で本邦における実態を調査する。最終的には多くの施設で実施可能な診断基準の策定が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201415044Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
15,000,000円
(2)補助金確定額
15,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 713,224円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 440,776円
間接経費 346,000円
合計 1,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
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