疫学調査による新しい疾患概念に基づく乾癬性関節炎の診断基準と重症度分類の確立

文献情報

文献番号
201415039A
報告書区分
総括
研究課題名
疫学調査による新しい疾患概念に基づく乾癬性関節炎の診断基準と重症度分類の確立
課題番号
H26-難治等(難)-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中川 秀己(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 照井 正(日本大学 医学部)
  • 大槻 マミ太郎(自治医科大学 医学部)
  • 佐野 栄紀(高知大学 医学部)
  • 衛藤 光(聖路加国際病院 )
  • 加藤 則人(京都府立医科大学 医学部)
  • 森田 明理(名古屋市立大学 医学部)
  • 奥山 隆平(信州大学 医学部)
  • 亀田 秀人(東邦大学 医療センター 大橋病院)
  • 岸本 暢将(聖路加国際病院)
  • 金子 敦史(名古屋医療センター)
  • 福田 国彦(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 長谷川 友紀(東邦大学 医学部)
  • 梅澤 慶紀(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乾癬性関節炎(PsA)では、関節障害をきたす前に足底腱膜炎、アキレス腱炎、指炎など様々な炎症を生じており、従来の疾患概念では本態を捉えきれていない。PsAは関節リウマチより急速に不可逆的な関節破壊を生じ、関節障害は日常生活や就労の支障となり、労働生産性、QOLの著しい低下を引き起こすため、発症早期に診断し適切な治療を行う必要がある。現状では、関節障害が進行しないと診断がつかないため、新たな疾患概念の確立と早期のPsA診断基準を作成する必要がある。
本邦でのPsA患者数は2万人程度と推定されるが、正確な疫学調査は行われていない。医師や患者にも十分認知されておらず、客観的な指標に基づく診断基準による調査が行われていないことから、患者数は十分把握されていない。PsAの多くは、皮膚症状が先行するため、皮膚科医や総合診療医が簡便に利用できる精度の高い診断基準が望まれている。そこで診療環境の充実が急務であると考え、皮膚科、リウマチ科、整形外科等の領域が中心になり、①PsAの疫学調査と診断基準案の作成、②PsAのスコアリングツールと重症度分類の確立、③医師ならびに国民への知識の普及を達成することにより、PsAの疫学調査に加え早期診断と重症度判定基準などを確立し、それらの基準に基づき特に重症のPsA患者の難病指定を目指すことにある。
研究方法
従来の疾患概念ではPsAの本態を完全には捉えきれておらず、現状では関節障害がかなり進行しないと診断がつかないため、まず関節症状のある患者を班員施設で調査した。そのデータを基に班員を中心に研究協力者も含め、乾癬患者数の多い全国30-40施設(ほぼ選定済み)で、1000例以上を目標に、関節症状の有無や日常生活動作への影響など早期の関節症状も検出できるように、50項目程度の質問票調査を行い、あわせて理学所見を得る。その結果、関節症状がある(または過去にあった)患者を対象に、疾患活動性を示す指標(DAS28に加え、AMDF,CPDAI,PASDAS等)やBASDAI、寛解基準であるMDAを満たす割合、X線検査、血液検査などの既存の方法によって関節症の評価を行う。次に、関節症状があるにもかかわらず、既存の方法では関節変化が検出されなかった患者を対象に、関節や腱などの周囲組織の変化をより鋭敏に検出できるとされる超音波検査を行うことにより、早期の病変を捉える。さらに可能な患者には造影MRI、CT検査を行い、関節症状の評価を行う。これらを統計学的に解析し、簡便でかつ、検出力の高い診断基準案を作成する。PsAの多くは皮膚症状が先行するため、皮膚科医が簡便に利用できるスコアリングツールと重症度分類の確立が必要であり、その素案を作成しPsAと診断された患者の腫脹関節数、疼痛関節数、変形関節数、罹患部位、CRPなどの他覚所見や、疼痛VASなどの自覚症状、QOL調査から重症度分類を策定し、それを用いて重症度と50項目に及ぶ質問票調査の結果の関連を解析し、重症度を評価できる質問表調査によるスコアリングシステム案を確立する。
また、超音波検査やMRI、CT検査のような非侵襲的な画像検査と重症度の関係を解析する。あわせて、メタボリック症候群や心血管障害や脳血管障害や腎障害などの併存の有無が、重症度やスコアリングと相関するのか検討する。
結果と考察
欠損データが無い疫学調査を目指すため、PsAの早期関節症状を検出できる簡便でかつ、検出力の高い診断基準案を作成した。
重症のPsA患者を選定するための重症度分類案を作成し、重症度を評価できる質問表調査によるスコアリングシステム案を作成した。既にこれらを用いて早期のPsAを適切に診断することの妥当性を検討している。更に、重症度分類・スコアリングシステムを用いることで最重症患者とその割合を特定できると考えている。
結論
PsAの疫学調査と診断基準とPsAのスコアリングツールと重症度分類を作成し、班員施設で検討中である。上記研究を通じ本邦でのPsAの疫学的な実態が把握でき、本症に関する施策を計画する上で重要な情報を提供できる。
簡便で実用的な診断基準を策定することで、全国の医療施設で早期のPsAを適切に診断することが可能になり、重症度分類・スコアリングシステムを用いることで効果的に医療資源を提供する施策が可能となる。最重症患者を特定し、難病指定につなげることができる。
確立した情報を国民に広報し啓発をはかることで、未受診患者を減少させ早期治療の開始が可能となることで関節破壊を防止できる。
これらの結果として、不可逆的な関節変形により生涯にわたり日常生活や就労に支障をきたし、労働生産性やQOLが著しく低下していた患者の数が劇的に減少することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201415039Z