中隔視神経異形成症の実態調査と診断基準・重症度分類の作成に関する研究

文献情報

文献番号
201415038A
報告書区分
総括
研究課題名
中隔視神経異形成症の実態調査と診断基準・重症度分類の作成に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 光広(山形大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 美保(浜松医科大学)
  • 田島 敏広(北海道大学大学院医学研究科)
  • 川村 孝(京都大学環境安全保健機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,308,000円
研究者交替、所属機関変更
平成27年4月1日から研究代表者の所属機関が学校法人昭和大学医学部小児科学講座に変更になった。

研究報告書(概要版)

研究目的
中隔視神経異形成症Septo-optic dysplasia (SOD)は、透明中隔欠損と視神経低形成に、下垂体機能低下症を伴う先天異常である。英国の調査では年間発生率は1/1万出生以下と推測されるまれな疾患である。脳と眼と下垂体の3症状をきたす典型例は30%のみで、国内・海外ともに統一された診断基準はなく、視覚障害、てんかん発作や脳性麻痺など難治性疾患である一方、知能障害は正常から重度まで重症度に差がみられ、客観的な指標に基づく疾患概念が確立していない。近年HESX1などの遺伝子変異が報告され、我々もSOX2変異によるSOD症例を報告したが,多くは原因不明で、若年出産,薬物中毒との関連も推測されており、疫学調査が必要である。下垂体症状については治療可能であり、早期診断による発達、発育と生命予後改善が期待されることから、実態調査が急務である。本研究では患者の実数調査と重症度分類を含む診断基準の作成を行なう。
研究方法
 当初の計画では、国内の全病院から層化無作為抽出によって選定された小児科(約1000施設)と日本眼科学会専門医制度研修施設(1151病院)に疫学調査を行う予定であったが、予算の関係上、実施困難になり、計画を変更し、今年度は文献調査を主とするケースシリーズによる予備調査を行ない、次年度以降に層化無作為抽出による疫学調査につなげられるようにした。
文献調査 使用データベースシステム:医中誌
 検索用語:septo-optic dysplasia or septooptic dysplasia or中隔視神経形成異常症 or 中隔視神経異形成 or de Morsier
 検索対象年月日:2014年8月2日までの報告例。絞り込み条件:なし
 EndNoteTMで文献整理後に、excelTMファイルにデータを移行し、文献資料(pdf)はDropboxTMのファイル共有機能を用いて研究分担者と研究協力者のみがアクセスできるようにした。
研究分担者と研究協力者が協議の上、各科共通する基本事項の他に、神経徴候、神経画像所見、内分泌徴候、眼症状について複数の項目を設定し、眼・内分泌・神経以外の症状については、自由記載として中隔視神経異形成症の辺縁群も広く拾えるようにした。調査項目の入力は、班員に担当文献を割り振り、FileMaker ProTMを用いた調査項目の入力フォーマットを作成し、Web上のサーバー(Fmhost.jp)と契約して各班員が自施設から担当項目を直接入力した。
結果と考察
 文献調査検索結果:該当件数160件を①総説や基礎実験で症例なし、②筆頭演者が次の③④⑤のいずれかの報告と重複し、演題名が類似する会議録、③症例報告の会議録、④症例報告の論文、⑤原著に分類した。①33件、②18件を除き、③70件、④31件、⑤8件の合計109件を調査対象とし、会議録同士で重複、他疾患、外国症例等をさらに除外し、最終的に93文献の135症例が国内症例として確認された。 性差は認められず、全例孤発例であり、遺伝性は低く、遺伝の場合の遺伝形式としては常染色体優性遺伝のde novo変異と考えられる。母の若年出産が発症要因として報告されているが、今回の調査では対照群の設定が困難であり明らかではなかった。
 神経徴候の初発症状は視覚症状がもっとも多く、眼科との連携が重要である。知能は正常から最重度知的障害まで幅が広いが、境界もしくは軽度知的障害の症例が比較的少なく、正常もしくは中等度以上の知的障害に二極化している傾向が認められた。運動機能も正常から常時臥床まで幅広く、眼以外の神経症状を伴わない1歳以上の症例が8例報告されており、診断基準の作成に際して、必ずしも神経症状を伴う必要はないと考えられた。神経の重症度は正常から重症心身障害まで幅広く、眼症状以外の神経症状は非特異的なものが多く、知能障害や運動障害、てんかん発作などの神経症状は重症度の判定には使用可能であっても、診断基準とすることは困難である。その一方、画像所見は透明中隔欠損が比較的特異的な所見で専門家以外にもわかりやすいため、「透明中隔欠損を認める」ことを神経学的な診断基準の項目とした。画像所見では、透明中隔など脳正中構造異常を認めない症例が12例報告されており、病名との不一致が認められた。その多くは眼症状と内分泌症状の二徴候から診断されている。透明中隔欠損を認めない場合でも、原因や病態が明らかにされていない現状では、三徴候のうち二徴候を診断基準とするのもやむを得ないと考えられた。
結論
文献調査を主とするケースシリーズによる予備調査を行い、中隔視神経異形成症の診断基準と重症度分類を作成した。文献は会議録が多く、不明項目が多いため、今後疫学調査によって診断基準と重症度分類の妥当性を検証する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201415038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内で報告された中隔視神経異形成症の全症例を、文献調査(医中誌)を主とするケースシリーズによる予備調査を行い、2014年8月2日までの報告例として重複例を除外し、93文献135症例を確認した。性差は認められず、全例孤発例であり、遺伝性は低く、遺伝の場合の遺伝形式としては常染色体優性遺伝のde novo変異と考えられた。
臨床的観点からの成果
初発は視覚症状がもっとも多いが、知能および運動機能は正常から重症例まで幅広く、診断基準には必ずしも神経症状を伴う必要はないことが明らかにされた。画像所見として透明中隔など脳正中構造異常を認めない症例が12例報告されており、病名との不一致が認められた。その多くは眼症状と内分泌症状の二徴候から診断されている。透明中隔欠損を認めない場合でも、原因や病態が明らかにされていない現状では、三徴候のうち二徴候を診断基準とするのもやむを得ないと考えられた。
ガイドライン等の開発
中隔視神経異形成症の診断基準と重症度分類を作成し、2015年2月18日付けで日本小児神経学会ホームページの会員限定サイトに掲載された。日本小児内分泌学会においては、評議員に対しパブリックコメントを求め、原案で承認予定になっている。日本小児眼科学会および日本眼科学会にも承認申請を行っている。
その他行政的観点からの成果
小児慢性特定疾患の対象として新たに認定され、本研究班での研究成果を基にして診断の手引きと診断概要を作成し、小児慢性特定疾病情報センターホームページ上に公開された。
その他のインパクト
患者、家族、患者会や一般市民への情報提供として、当班の研究内容を、中隔視神経異形成症を含む脳形成障害の患者団体である滑脳症親の会の定例会との合同シンポジウムにおいて報告し、患者相談会(集団と個別)を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
小児慢性特定疾病認定
その他成果(普及・啓発活動)
2件
親の会と合同シンポジウム、学会ホームページに診断基準と重症度分類を公開

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamura K, Kato M, Tohyama J,et al.
AKT3 and PIK3R2 mutations in two patients with megalencephaly-related syndromes: MCAP and MPPH.
Clin Genet , 85 , 396-398  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-05-07
更新日
2016-05-26

収支報告書

文献番号
201415038Z