遠位型ミオパチーにおけるN-アセチルノイラミン酸の薬物動態の検討及び第2/3相試験

文献情報

文献番号
201415034A
報告書区分
総括
研究課題名
遠位型ミオパチーにおけるN-アセチルノイラミン酸の薬物動態の検討及び第2/3相試験
課題番号
H25-難治等(難)-一般-026
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
青木 正志(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 割田 仁(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
  • 加藤 昌昭(国立大学法人東北大学 東北大学病院)
  • 西野 一三(国立精神・神経医療研究センター神経研究所)
  • 島崎 茂樹(ノーベルファーマ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
77,829,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、国立精神・神経医療研究センターの西野らの成果をもとに、我々が世界で初めて実施した第Ⅰ相試験等の成果を踏まえ実施された海外第Ⅰ相試験の最高用量で第Ⅰ相試験を平成25年度に実施する。さらに海外で実施中の第Ⅱ相試験の結果を検討し、平成27年度に第Ⅱ/Ⅲ相試験を開始することにより日本人患者でPOCを確認し、海外と同時期の承認取得を目指すものである。
我々の実施した第Ⅰ相試験では生理的に蛋白等と結合しているものを含めた総N-アセチルノイラミン酸濃度を測定し、尿中排泄量の増加は確認できたが血清濃度の上昇は確認できなかった。この結果を受けて、国内開発企業の米国の提携先は、生理的に僅かに存在する遊離N-アセチルノイラミン酸のみを測定する患者対象第Ⅰ相試験を実施し、用量依存の血清中濃度上昇を確認した。国内外の成績をもとに、米国では有効性、安全性を確認する第Ⅱ相試験が実施されることとなった。
縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーという筋疾患は、体幹から離れた部位から筋肉が萎縮・変性し次第に体の自由が奪われていく難病で、今のところ治療手段はない。本疾患の患者では、N-アセチルノイラミン酸の生合成経路の重要な酵素であるGNE/MNKをコードするGNE遺伝子に変異がある。西野らは、本疾患のモデルマウスをGNE‐KOマウスとヒトGNE遺伝子のD176V変異トランスジェニックマウスの掛け合わせにより作製したが、他の研究グループの疾患モデル動物と異なり、成長に伴いヒトの病態を忠実に再現する。西野らは、このマウスによりN-アセチルノイラミン酸の予防効果を示し、世界で初めて治療法の糸口を提示した。この成果はNature Medicine(15(6)690-5, 2009)に掲載され、特許も出願された。
研究方法
① 追加第Ⅰ相試験の実施
GNE遺伝子変異を確認できている縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの患者を対象に6000mg/日を7日間まで投与し、安全性と薬物動態を検討する。今回は海外試験と同じ徐放製剤を使用し、遊離N-アセチルノイラミン酸を測定する。薬物動態では、非投与時と比較した血清中遊離N-アセチルノイラミン酸濃度の変化、尿中総及び遊離N-アセチルノイラミン酸排泄量の変化から治験薬の吸収を確認する。
② 第Ⅱ/Ⅲ相試験の実施
プラセボ対照二重盲検、我が国の例数は20例以上、6カ月又は1年投与、評価指標は以下の第Ⅱ相試験と同様だが、その結果を踏まえ新たな項目を追加するなどして決定する。
③ 薬事戦略相談の指摘に従い生殖毒性試験(ICH-study1)を上記第Ⅱ/Ⅲ相試験開始前に実施する。
25-26年度に実施した医師主導第Ⅰ相試験は、研究代表者 青木正志が自ら治験を実施するものとして東北大学病院神経内科にて行った。研究協力者は同科 割田仁、加藤昌昭が治験分担医師として参画し、臨床研究推進センターの協力も得て、医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に準拠した治験を実施する。他に、本治療法の発見者である国立精神・神経医療研究センター 西野一三が医薬専門家として、国内開発企業から島崎茂樹が治験薬提供者、非臨床試験担当として参画する。
結果と考察
25-26年度に追加第Ⅰ相試験を実施した。GNE遺伝子変異を確認できている縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの患者を対象に、安全性と薬物動態を検討した。今回は海外試験と同じ徐放製剤を使用し、薬物動態では特に遊離N-アセチルノイラミン酸を測定した。特に問題なく終了し、結果を解析している段階である。
一方、国内開発企業の協業先が米国及びイスラエルで第Ⅱ相試験を実施している。低用量3000mg/日、高用量6000mg/日及びプラセボを各15例、24週投与のあと、実薬群は同用量で、プラセボ群は実薬2群に振り分け、更に24週継続投与する。本試験の解析では安全性に問題なく一部の筋肉群でプラセボと比較して用量依存の筋力の改善が認められ有効性が示唆された。現在、第Ⅱ/Ⅲ相試験に向け準備中である。
また薬事戦略相談に基づき、生殖毒性試験(ICH-study1)を実施中であり、平成26年度にかけて生殖毒性試験(ICH-study2)等必要な非臨床試験を行い、生殖発生毒性のリスクが少ないことを確認した。
結論
本研究は日本で見出されたシーズを採算の取りにくい希少疾病医薬品として開発することから、その実用化には官民学の協力関係が不可欠である。厚生労働省ではウルトラオーファンドラッグの開発支援を強化しているが、本研究はその好例となりうるものと考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

文献情報

文献番号
201415034B
報告書区分
総合
研究課題名
遠位型ミオパチーにおけるN-アセチルノイラミン酸の薬物動態の検討及び第2/3相試験
課題番号
H25-難治等(難)-一般-026
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
青木 正志(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 割田 仁(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
  • 加藤 昌昭(国立大学法人東北大学 東北大学病院)
  • 西野 一三(国立精神・神経医療研究センター神経研究所)
  • 島崎 茂樹(ノーベルファーマ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、国立精神・神経医療研究センターの西野らの成果をもとに、我々が世界で初めて実施した第Ⅰ相試験等の成果を踏まえ実施された海外第Ⅰ相試験の最高用量で第Ⅰ相試験を平成25年度に実施する。さらに海外で実施中の第Ⅱ相試験の結果を検討し、平成27年度に第Ⅱ/Ⅲ相試験を開始することにより日本人患者でPOCを確認し、海外と同時期の承認取得を目指すものである。
我々の実施した第Ⅰ相試験では生理的に蛋白等と結合しているものを含めた総N-アセチルノイラミン酸濃度を測定し、尿中排泄量の増加は確認できたが血清濃度の上昇は確認できなかった。この結果を受けて、国内開発企業の米国の提携先は、生理的に僅かに存在する遊離N-アセチルノイラミン酸のみを測定する患者対象第Ⅰ相試験を実施し、用量依存の血清中濃度上昇を確認した。国内外の成績をもとに、米国では有効性、安全性を確認する第Ⅱ相試験が実施されることとなった。
縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーという筋疾患は、体幹から離れた部位から筋肉が萎縮・変性し次第に体の自由が奪われていく難病で、今のところ治療手段はない。本疾患の患者では、N-アセチルノイラミン酸の生合成経路の重要な酵素であるGNE/MNKをコードするGNE遺伝子に変異がある。西野らは、本疾患のモデルマウスをGNE‐KOマウスとヒトGNE遺伝子のD176V変異トランスジェニックマウスの掛け合わせにより作製したが、他の研究グループの疾患モデル動物と異なり、成長に伴いヒトの病態を忠実に再現する。西野らは、このマウスによりN-アセチルノイラミン酸の予防効果を示し、世界で初めて治療法の糸口を提示した。この成果はNature Medicine(15(6)690-5, 2009)に掲載され、特許も出願された。
研究方法
① 追加第Ⅰ相試験の実施
GNE遺伝子変異を確認できている縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの患者を対象に6000mg/日を7日間まで投与し、安全性と薬物動態を検討する。今回は海外試験と同じ徐放製剤を使用し、遊離N-アセチルノイラミン酸を測定する。
② 第Ⅱ/Ⅲ相試験の実施
プラセボ対照二重盲検、例数は20例以上、6カ月又は1年投与、評価指標は国内開発企業の協業先による米国及びイスラエルでの第Ⅱ相試験と同様だが、その結果を踏まえ新たな項目を追加するなどして決定する。国内では事実上第Ⅲ相試験でなく第Ⅱ/Ⅲ相試験の位置づけになると考えている。
③ 薬事戦略相談の指摘に従い生殖毒性試験(ICH-study1)を上記第Ⅱ/Ⅲ相試験開始前に実施する。
結果と考察
25-26年度に追加第Ⅰ相試験を実施した。GNE遺伝子変異を確認できている縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの患者を対象に、安全性と薬物動態を検討した。今回は海外試験と同じ徐放製剤を使用し、薬物動態では特に遊離N-アセチルノイラミン酸を測定した。3例に1回2000mgを単回投与、別の3例に1日3回投与、次いで原則としてその中から3例に1日3回を7日間投与するが、特に問題なく終了し、結果を解析している段階である。
一方、国内開発企業の協業先が米国及びイスラエルで第Ⅱ相試験を実施している。低用量3000mg/日、高用量6000mg/日及びプラセボを各15例、24週投与のあと、実薬群は同用量で、プラセボ群は実薬2群に振り分け、更に24週継続投与する。評価指標は血清中遊離N-アセチルノイラミン酸濃度、投与前後の筋生検と筋組織のシアリル化の程度、6分間歩行、筋力計で測定した筋力、患者の自覚症状等であった。本試験の解析では安全性に問題なく一部の筋肉群でプラセボと比較して用量依存の筋力の改善が認められ有効性が示唆された。
また薬事戦略相談に基づき、生殖毒性試験(ICH-study1)を実施中であり、平成26年度にかけて生殖毒性試験(ICH-study2)等必要な非臨床試験を行い、生殖発生毒性のリスクが少ないことを確認した.
結論
追加第Ⅰ相試験では重篤な有害事象は認めらなかった。我が国ではPOC試験は未実施であり、今後実施する予定である。評価系は筋力計で測定した上下肢筋力の合計スコア、この縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーのために開発された患者報告アウトカム評価としてGNEミオパチー機能評価尺度、血清中遊離N-アセチルノイラミン酸濃度、6分間歩行、患者の自覚症状等である。
本研究は日本で見出されたシーズを採算の取りにくい希少疾病医薬品として開発することから、その実用化には官民学の協力関係が不可欠である。厚生労働省ではウルトラオーファンドラッグの開発支援を強化しているが、本研究はその好例となりうるものと考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201415034C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は西野らが本疾患のモデルマウスをGNE‐KOマウスとヒトGNE遺伝子のD176V変異トランスジェニックマウスの掛け合わせにより作製したが、他の研究グループの疾患モデル動物と異なり成長に伴いヒトの病態を忠実に再現する。モデルマウスにN-アセチルノイラミン酸による発症予防効果を示し、世界で初めて治療法の糸口を提示した。この成果はNature Medicine(15(6)690-5, 2009)に掲載され特許も出願された。これらの独創的な学術的成果を元に日本発の治療開発を行っている。
臨床的観点からの成果
国立精神・神経医療研究センターの西野らの成果をもとに、我々が世界で初めて実施した第Ⅰ相試験等の成果を踏まえ、海外で実施中の第Ⅱ相試験の結果を検討し、平成27年度に第Ⅱ/Ⅲ相試験を開始することにより日本人患者でPOCを確認し、海外と同時期の承認取得を目指すものであり、計画通り進行中である。遠位型ミオパチーの新規治療開発を推進できた。2016年1月に東北大学、ついで2月以降協力機関4施設で治験届を提出し、2016年3月に東北大学病院にて第II/III相試験を開始しはじめている。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究は日本で見出されたシーズを採算の取りにくい希少疾病医薬品として開発することから、その実用化には官民学の協力関係が不可欠である。厚生労働省ではウルトラオーファンドラッグの開発支援を強化しているが、本研究はその好例となりうるものと考えている。難治性筋疾患における橋渡し研究のプラットフォーム確立も推進した点で意義がある。なお、プロトコール開発等を含め24年度までの本事業は文科省の橋渡し研究加速ネットワークプログラムの支援で行った。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
3件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
非ヒト哺乳動物、その作製方法及びそれを用いた筋疾患用治療薬のスクリーニング方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願第2006-144241号
発明者名: 野口 悟,Malicdan MC, 西野一三
権利者名: 野口 悟,Malicdan MC, 西野一三
特許の名称
GNEタンパク質の機能低下に起因する疾患の治療用医薬剤、食品組成物、食品添加物
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2010/058116
発明者名: 野口 悟,Malicdan MC, 西野一三
権利者名: 野口 悟,Malicdan MC, 西野一三
特許の名称
タンパク質蓄積性筋疾患を治療するための医薬
詳細情報
分類:
特許番号: 特願第2011-042435号
発明者名: 野口 悟,Malicdan MC, 西野一三
権利者名: 野口 悟,Malicdan MC, 西野一三

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishino I, Carrillo-Carrasco N, Argov Z
GNE myopathy: current update and future therapy.
J Neurol Neurosurg Psychiatry.  (2014)
原著論文2
Mori-Yoshimura M, Hayashi YK, Yonemoto N,et al.
Nationwide patient registry for GNE myopathy in Japan.
Orphanet J Rare Dis. , 9  (2014)
原著論文3
Cho A, Hayashi YK, Monma K, et al.
Mutation profile of the GNE gene in Japanese patients with distal myopathy with rimmed vacuoles (GNE myopathy).
J Neurol Neurosurg Psychiatry. , 85 (8) , 914-917  (2014)
原著論文4
Huizing M, Carrillo-Carrasco N, Malicdan MC, et al.
GNE myopathy: New name and new mutation nomenclature.
Neuromuscul Disord. , 24 (5) , 387-389  (2014)
原著論文5
Mori-Yoshimura M, Oya Y, Yajima H, et al.
GNE myopathy: A prospective natural history study of disease progression.
Neuromuscul Disord , 24 (5) , 380-386  (2014)
原著論文6
Mori-Yoshimura M, Monma K, Suzuki N et al.
Heterozygous UDP-GlcNAc 2-epimerase and N-acetylmannosamine kinase domain mutations in the GNE gene result in a less severe GNE myopathy phenotype compared to homozygous N-acetylmannosamine kinase domain mutations.
J Neurol Sci. , 318 , 100-105  (2012)
原著論文7
Suzuki N, Izumi R, Kato M, et al.
[Therapeutic development for GNE myopathy.].
Clin Calcium , 27 , 429-434  (2017)
原著論文8
Naoki Suzuki, Masaaki Kato, Hitoshi Warita et al.
Phase I clinical trial results of aceneuramic acid for GNE myopathy in Japan
Translational Medicine Communications , 3 (7)  (2018)
https://doi.org/10.1186/s41231-018-0025-0

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2019-06-05

収支報告書

文献番号
201415034Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
76,826,286円
(2)補助金確定額
76,826,286円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,912,739円
人件費・謝金 15,582,758円
旅費 102,970円
その他 31,090,192円
間接経費 23,348,000円
合計 77,036,659円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-