難治性潰瘍性大腸炎を対象とした医師主導治験のためのアドレノメデュリン製剤の作成

文献情報

文献番号
201415029A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性潰瘍性大腸炎を対象とした医師主導治験のためのアドレノメデュリン製剤の作成
課題番号
H25-難治等(難)-一般-021
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
北村 和雄(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 芦塚 伸也(宮崎大学 医学部)
  • 稲津 東彦(宮崎大学 医学部)
  • 北 俊弘(宮崎大学 医学部)
  • 一圓 剛(ヒュービットジェノミクス株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
59,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究代表者等はアドレノメデュリン(AM)を強力な降圧作用をはじめ多彩な作用を有する生理活性ペプチドとして発見した。AMは循環器疾患治療薬としても有望であり、連携企業のヒュービットジェノミクス株式会社がAMの急性心筋梗塞治療薬としてのGLP準拠の非臨床試験を実施した。一方、AMは消化管の粘膜や筋層にも認められ、炎症性疾患では血中濃度が増加している。またAM遺伝子は、IL-6やTNF-α等の炎症性サイトカインで誘導され、誘導されたAMはこれらのサイトカインを強力に抑制する。実際、我々は炎症性腸疾患モデルである酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデルラットを用いて、AMの新規かつ特徴的作用である大腸潰瘍治癒促進効果を報告した。以上の研究成果を踏まえて、我々は平成21~23年度に臨床応用基盤研究事業として、基礎研究と探索的臨床研究を実施した。その結果、ステロイドやLCAPに抵抗性の難治性潰瘍性大腸炎の患者にAMを持続投与することで、顕著な粘膜再生がみられ、潰瘍が治癒し寛解に導入できた。現在までに、8例の患者にAM投与を実施し、有効性は80%以上ときわめて良好であり、有害事象は認めなかった。AMの炎症性腸疾患治療薬としての有用性を示す動物実験の成果はヨーロッパをはじめ、国内外のいくつかのグループからも公表された。しかし、潰瘍性大腸炎患者に対するトランスレーショナルリサーチは他施設では行われておらず、我々により臨床研究でのpoof of concept(POC)が得られていることは大きな強みである。以上のように、AMの難治性潰瘍性大腸炎に対する効果は明白であり、質の高い潰瘍性大腸炎治療を達成できる可能性が非常に高い。しかし、2014年にAMの物質特許が切れることなどから、企業の参入は得難い状況である。そのため我々は医師主導型治験を実施し、早期に治療薬としての承認へとつなげたい。そのための最初のステップとして、本研究では医師主導型治験を実施するための製剤の確保とプロトコール作成を行うい、本研究終了後にはPhaseI の医師主導治験へ移行する。
研究方法
医師主導型治験を実施するための製剤の確保とプロトコール作成を行う計画であり、現在の進捗状況は次の通りである。
1.AM原末の作成
2.非臨床試験
3.AM製剤化・製剤の物性・安定性検証
4.治験プロトコールの作成
結果と考察
医師主導治験のためのアドレノメデュリン製剤の作成とPhase I のプロトコールの作成を実施した。AM原末の作成は平成26年7月に終了し、治験薬の作成は富士薬品で実施し、予定通り平成26年12月には治験薬が完成し、現在加速試験を実施している。当初計画していた研究は順調に進捗しており、平成27年度にはPhase I (単回投与試験)を開始できる状態になっている。
しかしながらPhase I (単回持続投与試験)の終了後にPhase I (反復投与試験)を実施する予定だが、Phase I (反復持続投与試験)の前に反復持続投与の毒性試験を実施することが望ましいとのPMDAからの指導を受けた。そのため、平成26年度に追加配分をいただき、反復持続投与の毒性試験の予備試験を実施しており、平成27年度にPhase I (単回持続投与試験)実施中に反復持続投与の毒性試験の本試験を実施する予定である。
結論
アドレノメデュリン治験薬の製造は順調に進み、PhaseI(単回投与試験)を開始するための非臨床試験も充足しており、さらにPhaseI(単回投与試験)のプロトコールも完成したことから、本事業はほぼ順調に進展した。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201415029B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性潰瘍性大腸炎を対象とした医師主導治験のためのアドレノメデュリン製剤の作成
課題番号
H25-難治等(難)-一般-021
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
北村 和雄(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 芦塚 伸也(宮崎大学 医学部)
  • 稲津 東彦(宮崎大学 医学部)
  • 北 俊弘(宮崎大学 医学部)
  • 一圓 剛(ヒュービットジェノミクス株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究代表者等は1993年にアドレノメデュリン(AM)を発見した。AMは循環器疾患治療薬としても有望であり、連携企業のヒュービットジェノミクス株式会社がAMの急性心筋梗塞治療薬としてのGLP準拠の非臨床試験を実施した。一方、AMは消化管の粘膜や筋層にも認められ、炎症性疾患では血中濃度が増加している。またAM遺伝子は、IL-6やTNF-α等の炎症性サイトカインで誘導され、誘導されたAMはこれらのサイトカインを強力に抑制する。実際、我々は炎症性腸疾患モデルである酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデルラットを用いて、AMの新規かつ特徴的作用である大腸潰瘍治癒促進効果を報告した。以上の研究成果を踏まえて、我々は平成21~23年度に臨床応用基盤研究事業として、基礎研究と探索的臨床研究を実施した。その結果、ステロイドやLCAPに抵抗性の難治性潰瘍性大腸炎の患者にAMを持続投与することで、顕著な粘膜再生がみられ、潰瘍が治癒し寛解に導入できた。現在までに、7例の患者にAM投与を実施し、有効性は80%以上ときわめて良好であり、有害事象は認めなかった。AMの炎症性腸疾患治療薬としての有用性を示す動物実験の成果はヨーロッパをはじめ、国内外のいくつかのグループからも公表された。しかし、潰瘍性大腸炎患者に対するトランスレーショナルリサーチは他施設では行われておらず、我々により臨床研究での poof of concept(POC)が得られていることは大きな強みである。以上のように、AMの難治性潰瘍性大腸炎に対する効果は明白であり、質の高い潰瘍性大腸炎治療を達成できる可能性が非常に高い。しかし、2014年にAMの物質特許が切れたことなどから、企業の参入は得難い状況である。そのため我々は医師主導型治験を実施し、早期に治療薬としての承認へとつなげたい。そのための最初のステップとして、本研究では医師主導型治験を実施するための製剤の確保とプロトコール作成を行った。連携企業のヒュービットジェノミクスが実施した急性心筋梗塞治療薬としての前臨床試験のかなりのデータが流用可能であり、不足している前臨床試験だけを実施する計画である。そのため、平成26年度末までに、治験薬確保とプロトコール作成が終了し、本研究終了後の平成27年度からはPhaseI(単回投与試験)医師主導治験への移行が可能となった。
研究方法
医師主導型治験を実施するための製剤の確保とプロトコール作成を行い、予定通り研究が進捗した。
1.AM原末の作成
2.非臨床試験
3.AM製剤化・製剤の物性・安定性検証
4.治験プロトコールの作成
結果と考察
今回の検討で、ペプチド研究所製およびアメリカンペプチド(APC)社製アドレノメデュリン原薬は各ロット間で有意差はなく、同等であったことから恒常性は保たれている。それ故、アドレノメデュリン原薬を用いた非臨床試験は本剤の医師主導治験(PhaseI)開始時資料として活用できると判断した。以上の結果は、平成26年3月27日に実施した対面助言でも認められ、その結果、現在までに実施している非臨床試験でPhaseIに入ることは可能であるとの結論となった。PhaseI試験は単回投与試験と反復投与試験を実施する予定である。PhaseI単回投与試験は、添付資料4に示したように、低用量からの二重盲検での実施を予定している。以上の結果より、PhaseI開始の準備がほぼ終了したので、平成27年度にはPhase I に入れることが確実となった。しかしながらPhaseI(単回持続投与試験)の終了後にPhase I(反復投与試験)を実施する予定だが、Phase I(反復持続投与試験)の前に反復持続投与の毒性試験を実施することが望ましいとのPMDAからの指導を受けた。そのため、平成26年度に追加配分をいただき、反復持続投与の毒性試験の予備試験を実施しており、平成27年度にPhase I(単回持続投与試験)実施中に反復持続投与の毒性試験の本試験を実施することで、Phase IIまでの臨床試験が遅滞なく実施できる予定である。
結論
アドレノメデュリン治験薬の製造は順調に進み、Phase I (単回投与試験)を開始するための非臨床試験も充足しており、さらにPhase I (単回投与試験)のプロトコールも完成したことから、本事業はほぼ順調に進展した。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201415029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アドレノメデュリンは重要な循環調節因子であるとともに、強力な抗炎症作用があることが明らかになり、炎症性腸疾患治療薬としても期待されている。本研究では、アドレノメデュリンの炎症性腸疾患治療薬として開発するための医師主導治験を実施するために、製剤の製造とPhaseIプロトコールの準備を実施した。我が国で発見された生理活性ペプチドについて、研究者自らが製剤の作成を行い、治験プロトコルを作成してPhaseIに入る準備ができたことは、学術的にもきわめて意義深い。
臨床的観点からの成果
強力な抗炎症作用や粘膜再生作用を有するアドレノメデュリンには既存薬にはないmucosal healingでの寛解導入が期待でき、この状態になると長期間の寛解維持が期待できる。また、タクロリムスのような強力な免疫抑制剤で懸念される副作用はなく、生物学的製剤への上乗せも容易である。特に、ヒトの内在性物質であり抗原性がないことから、長期にわたり安全に使用できる新しい炎症性腸疾患治療薬になることが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は「アドレノメデュリン注射薬」の製剤化、医師主導治験PhaseIのプロトコール作成を完了し、PhaseI(単回投与試験)を2015年以降に開始できる状態にしたため、現状ではガイドライン等に取り上げられるなどの貢献はできなかった。AMはヒトの体内に存在する物質であり抗原性がなく、安全性も高い。そのため、薬害等の発生の可能性は低く、長期にわたり安全に使用できる医薬品となる可能性があるため、実用化後は炎症性腸疾患のガイドラインに加えられる可能性を有した医薬品となることが期待される。
その他行政的観点からの成果
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)は原因が不明の難治性疾患であり、現時点では根本的治療はなく、様々な治療法の工夫にもかかわらず、治療に難渋し、入院を繰り返す症例も多い。また、食生活の欧米化により、近年我が国では炎症性腸疾患の患者数の急速な増加がみられており、今後さらに増加が懸念されている。そのため、炎症性腸疾患に対しての、新たな治療法の開発が強く求められており、強力な抗炎症作用や組織修復作用を有するアドレノメデュリンによる治療で新たな展開が期待できる。
その他のインパクト
1)平成26年3月27日にPMDAで対面助言(被験物の名称:アドレノメデュリン)を実施した。
2)平成26年6月14日に
THE UEHARA MEMORIAL FOUNDATION SYMPOSIUM 2014で
「Adrenomedullin as a Potential Therapeutic Agent for Refractory Ulcerative Colitis」
の招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
長時間作用型アドレノメデュリン誘導体
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-058225
発明者名: 北村和雄,加藤丈司,久保恵是,桑迫健二,久保茂,熊谷久美子
権利者名: 国立大学法人宮崎大学
出願年月日: 20140320
国内外の別: 国内
特許の名称
急性腎障害に起因する多臓器不全の予防又は治療薬
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-036815
発明者名: 北村和雄,池田正浩、園田紘子,加藤丈司
権利者名: 国立大学法人宮崎大学
出願年月日: 20140227
国内外の別: 国内
特許の名称
新規ペプチドおよびその用途
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2013/080614
発明者名: 北村和雄、浅田祐士郎,永田さやか
権利者名: 国立大学法人宮崎大学
出願年月日: 20131106
国内外の別: 国内外
特許の名称
動脈硬化の検査方法
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2013/060103
発明者名: 北村和雄,浅田祐士郎,山下篤,松浦祐之介
権利者名: 国立大学法人宮崎大学
出願年月日: 20130402
国内外の別: 国内外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nagata S, Hikosaka T, Kitamura K.
Adrenomedullin Administration in Two Rat Models of Experimental Inflammatory Bowel Disease.
Am J Life Sci , 3 (3-2) , 39-42  (2015)
10.11648/j.ajls.s.2015030302.17
原著論文2
Kawano S, Kawagoe Y, Kuwasako K, et al.
Gender-related alterations in plasma adrenomedullin level and its correlation with body weight gain.
Endocr Connect , 4 (1) , 43-49  (2015)
10.1530/EC-14-0131
原著論文3
Kubo K, Tokashiki M, Kuwasako K, et al.
Biological properties of adrenomedullin conjugated with polyethylene glycol.
Peptides , 57 (July) , 118-121  (2014)
10.1016/j.peptides.2014.05.005
原著論文4
Ashizuka S, Kita T, Inatsu H, et al.
Adrenomedullin: A novel therapy for intractable ulcerative colitis.
Inflamm Bowel Dis , 19 (2) , 26-27  (2013)
10.1002/ibd.22891
原著論文5
Nagata S, Hatakeyama K, Asami M, et al.
Big angiotensin-25: A novel glycosylated angiotensin-related peptide isolated from human urine.
Biochem Biophys Res Commun. , 441 (4) , 757-762  (2013)
10.1016/j.bbrc.2013.10.124
原著論文6
Ashizuka S, Inatsu H, Inagaki-Ohara K, et al.
Adrenomedullin as a potential therapeutic agent for inflammatory bowel disease.
Curr Protein Pept Sci , 14 (4) , 246-255  (2013)
原著論文7
Kuwasako K, Hay DL, Nagata S, et al.
Functions of third extracellular loop and helix 8 of Family B GPCRs complexed with RAMPs and characteristics of their receptor trafficking.
Curr Protein Pept Sci , 14 (5) , 416-428  (2013)
原著論文8
北村和雄
アドレノメデュリンの展開研究
心臓 , 45 (12) , 1496-1502  (2013)
原著論文9
鶴田敏博、北村和雄
ストローマからみた心血管病.「ストローマをターゲットとした心血管病の治療」
循環器内科 , 74 (2) , 125-131  (2013)

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2019-06-18

収支報告書

文献番号
201415029Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
152,239,000円
(2)補助金確定額
152,239,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 29,621,389円
人件費・謝金 1,323,132円
旅費 784,840円
その他 85,378,639円
間接経費 35,131,000円
合計 152,239,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-