ミトコンドリア脳筋症MELASの脳卒中様発作に対するタウリン療法の開発

文献情報

文献番号
201415023A
報告書区分
総括
研究課題名
ミトコンドリア脳筋症MELASの脳卒中様発作に対するタウリン療法の開発
課題番号
H24-難治等(難)-一般-068
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
砂田 芳秀(川崎医科大学 医学部神経内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 大澤 裕(川崎医科大学 医学部神経内科学)
  • 村上 龍文(川崎医科大学 医学部神経内科学)
  • 西松 伸一郎(川崎医科大学 医学部分子生物学1)
  • 萩原 宏毅(帝京科学大学医療科学部)
  • 後藤 雄一(国立精神・神経医療 研究センター 疾病研究第二部)
  • 古賀 靖敏(久留米大学 医学 部小児科学)
  • 太田 成男(日本医科大学大学 院医学研究科 加齢科学)
  • 武藤 多津郎(藤田保健衛生大学医学部 脳神経内科学)
  • 尾上 祐行(防衛医科大学校病院 神経抗加齢血管内科)
  • 内山 剛(聖隷浜松病院 神経内科)
  • 白石 裕一(長崎大学病院 神経内科)
  • 小川 厚(福岡大学筑紫病院 小児科)
  • 中村 道三(国立病院機構京都医療センター 神経内科)
  • 西田 勝也(国立病院機構兵庫中央病院 神経内科)
  • 高橋 哲也(広島大学病院 脳神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
68,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ミトコンドリア脳筋症MELASはミトコンドリアtRNALeu(UUR)遺伝子のクローバーリーフ領域の一塩基変異が原因で発症するが、その病態の全容は解明されていない。われわれは世界に先駆け、正常tRNALeu(UUR)のアンチコドン1文字目がタウリン修飾を受け、一方、MELASの変異tRNALeu(UUR)ではこの修飾が欠損し転写障害が惹起されることを発表した。タウリンを大量投与するとMELASモデル細胞のミトコンドリア機能障害が改善し、2例のMELAS患者の反復する脳卒中様発作が抑制されることからMELAS基本病態をtRNALeu(UUR) アンチコドン1文字目の転写後タウリン修飾異常病と提唱した。タウリンは、1987年に企業が高ビリルビン血症とうっ血性心不全を適応とした薬事承認をうけ、これまで重篤な副作用報告はなく安全性の高い既存薬と考えられる。本研究は、MELAS基本病態をtRNA転写後修飾病と捉える独創的知見から、MELAS脳卒中様発作の再発抑制のためタウリン大量投与の医師主導治験を実施して薬事承認を目指す。
研究方法
昨年度は日本神経学会、日本小児神経学会のバックアップを受けそれぞれの専門医認定施設(合計911施設)の診療部長宛ての全国MELAS疫学アンケート調査を実施した。これまで最大のMELAS患者:291名が集計され、このうち過去2年間に2回以上の脳卒中様発作のあった脳卒中様発作反復83名から10施設10患者を登録した。本年度は観察期間1年、100%レスポンダー(脳卒中様発作の完全抑制)を主要評価項目とするプロトコルで、企業提供のGMP試験薬タウリンによる、多施設共同・オープン・Phase III試験を実施した。
結果と考察
PMDAおよび各実施医療機関のIRB承認を得て、平成25年10月から平成26年1月までに、試験薬タウリンの経口投与を開始した。平成27年10月から平成27年1月までを脳卒中様発作の観察期間とした。脳卒中様発作の定義は、発作時突発性局所神経徴候(①片麻痺あるいは単麻痺 ②皮質性感覚障害(感覚消去) ③皮質性視覚障害(閃輝暗点、皮質盲) ④失語 ⑤失行 ⑥失認のいずれか)を有するものとし、かつ頭部MRIの核酸強調画像で異常信号域が認められるもの、とした。副次評価項目としては、ミトコンドリア病重症度スコア、50%レスポンダー率、特殊検査(血中・髄液の乳酸値、ピルビン酸値、乳酸/ピルビン酸比、タウリン値)、画像検査(頭部MRI検査)などについて検討した。薬効モニタリングについては白血球を用いたミトコンドリア遺伝子変異率、プライマー延長法によるtRNALeu(UUR)タウリン修飾率、ウエスタンブロットによるミトコンドリアのLeu(UUR)-rich蛋白質であるND6蛋白質量についてアッセイ系を構築し、それぞれFirst-in-human でバイオマーカーとなりうるか検討した。全10症例中、6症例で脳卒中様発作の完全抑制(100%レスポンダー)が達成され、残り4症例でも年間再発率の減少を認めた。5症例ではタウリン経口投与によりtRNALeu(UUR)タウリン修飾率の上昇が確認された。
結論
ミトコンドリア病に対して保険適応を獲得した薬剤は世界的に皆無である。既存薬タウリンによる治療が確立できれば、厚生労働行政の課題である希少難病対策(unmet medical use)の一翼を担える。日本で遺伝子変異が同定され 「tRNA転写後修飾異常病」という疾患概念が提唱されたMELASの独創的な病態介入療法として、厚生労働科学研究費補助金事業と我が国の医薬品開発力の卓越性を世界にアピールしたい。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201415023B
報告書区分
総合
研究課題名
ミトコンドリア脳筋症MELASの脳卒中様発作に対するタウリン療法の開発
課題番号
H24-難治等(難)-一般-068
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
砂田 芳秀(川崎医科大学 医学部神経内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 大澤 裕(川崎医科大学 医学部神経内科学)
  • 村上 龍文(川崎医科大学 医学部神経内科学)
  • 西松 伸一郎(川崎医科大学 医学部分子生物学1)
  • 萩原 宏毅(帝京科学大学 医療科学部)
  • 後藤 雄一(国立精神・神経医療 研究センター 疾病研究第二部)
  • 古賀 靖敏(久留米大学 医学部小児科学)
  • 太田 成男(日本医科大学大学院医学研究科 加齢科学)
  • 武藤 多津郎(藤田保健衛生大学 医学部脳神経内科学)
  • 尾上 祐行(防衛医科大学校病院 神経抗加齢血管内科)
  • 内山 剛(聖隷浜松病院 神経内科)
  • 白石 裕一(長崎大学病院 神経内科)
  • 小川 厚(福岡大学筑紫病院 小児科)
  • 中村 道三(国立病院機構京都医療センター 神経内科)
  • 西田 勝也(国立病院機構兵庫中央病院 神経内科)
  • 高橋 哲也(広島大学病院 脳神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
DNA二重らせんモデルを発見したクリックはtRNAのアンチコドンには正確なコドン認識のために、何らかの転写後化学修飾が存在すると予言した。脳卒中様発作を繰り返し進行するMELASはミトコンドリアDNAがコードしているtRNALeu(UUR)遺伝子のクローバーリーフ部位の点変異が原因であるが、その発症機構は解明されていない。われわれは正常ミトコンドリアtRNALeu(UUR) のアンチコドン1文字目はタウリン修飾を受け、一方、MELAS変異ミトコンドリアtRNALeu(UUR) ではこの修飾が完全欠損して転写障害が惹起されることを発見し、クリックの予言した「tRNA転写後修飾異常病」という新規疾患概念を、世界に先駆け提唱した。さらにタウリン大量投与によりMELASモデル細胞のミトコンドリア機能障害が改善し、2名の患者の頻発していた脳卒中様発作が9年以上完全抑制されたことを示した。本研究は、MELAS基本病態についての独創的知見から、MELAS脳卒中様発作の再発抑制のため、タウリン大量経口投与の医師主導治験を実施し、国内薬事承認獲得を目指す。
研究方法
平成24年10月から医師主導のためのインフラ整備を開始した。併せて日本神経学会、日本小児神経学会との共同研究により、MELAS全国疫学アンケート調査を911専門医施設を対象として実施した。これまで最大297症例が集積され、このうち脳卒中様発作を反復する83症例について追跡調査を実施し、10症例を登録した。また、多施設・オープン・Phase III試験のプロトコルを作成し、平成25年6月にPMDA本審査、9月にIRB承認をうけUMINデータベース登録および治験届けを提出した。平成25年10月から治験薬投与を開始して、全国10施設10登録患者で期間1年間の治験薬投与を実施した。平成27年12月迄に、脳卒中再発防止効果を検討した。ヒトtRNALeu(UUR)タウリン修飾率と、Leu(UUR)含有蛋白質であるND6の独自アッセイ系の構築し、これらをバイオマーカー候補をFirst-in-humanで評価した。2015年2月には治験成果検討会を開催した。この結果とSDVを考慮に入れ、治験総括報告書を作成・提出した。2015年3月の難治性疾患実用化研究成果報告会に際し、タウリンによるMELAS病態介入療法の国際展開について、米国NIH/国立先進TR科学センター・クリニカルイノベーション部門のKaufmann 部長と協議をした。
結果と考察
試験薬タウリン有効性は100%レスポンダー率(脳卒中様発作の完全抑制)を主要評価項目とした。脳卒中様発作の定義は、発作時突発性局所神経徴候(①片麻痺あるいは単麻痺 ②皮質性感覚障害(感覚消去) ③皮質性視覚障害(閃輝暗点、皮質盲) ④失語 ⑤失行 ⑥失認)のいずれかを有するものとし、かつ頭部MRIの核酸強調画像で異常信号域が認められるものと定義した。副次評価項目としては、ミトコンドリア病重症度スコア(JMDRS)、50%レスポンダー率、特殊検査(血中・髄液の乳酸値、ピルビン酸値、乳酸/ピルビン酸比、タウリン値)、画像検査(頭部MRI検査)などについて検討した。薬効モニタリングについては血清・白血球を用いたtRNALeu(UUR)タウリン修飾率、ND6蛋白質量First-in man で解析し、PCT取得を目指した。10症例中6症例では主要評価項目である脳卒中様発作の完全抑制に成功し、残り4症例でも年間再発率が有意に低下した。重篤な有害事象はなかった。バイオマーカー候補のうち、血中白血球tRNALeu(UUR) タウリン修飾率が5症例で増加した。MELAS基本病態に介入する廉価な既知薬タウリン治療の優先薬事承認申請を予定している。
結論
「ミトコンドリア病」および「tRNA転写後修飾異常病」対し保険適応を獲得した薬剤は世界的に皆無である。既に高ビリルビン血症と心不全を適応として薬事承認されているタウリンによる治療が確立できれば、厚生労働行政の課題である希少難病対策の一翼を担える。日本で遺伝子変異が同定され RNA修飾異常というユニークな病態が発見されたMELASの独創的な病態介入療法として、厚生労働科学研究費補助金事業と我が国の医薬品開発力の卓越性を世界にアピールし国際標準化治療としたい。本治験の骨子は、2013年ウィーンで開催された XXI World Congress of Neurologyでポスター賞を受賞し、国際的にも注目されている。現在、治験結果を論文に纏め、海外誌への投稿を準備している。①関連学会要望書による早期薬事承認支援、②長期継続投与治験による再発防止効果の確立、③新規バイオマーカー医療技術の確立を新たに計画し、平成27-29年度AMED課題に採択され、投与を継続する。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201415023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
われわれは、MELASでは、ミトコンドリアtRNAにおけるタウリン修飾が欠損し転写がされることを発見し「tRNA転写後修飾異常病」の概念を世界に先駆け提唱した。本研究は、タウリン経口投与による脳卒中様発作再発抑制を目的とし、多施設・オープン・第3相医師主導治験を実施した。全10症例中6症例で発作が完全抑制され、タウリン修飾率は改善し、国際科学誌に発表した(Ohsawa, Sunada, et al. JNNP, 90(5):529-536, 2019)。
臨床的観点からの成果
ミトコンドリア病およびtRNA修飾異常病で薬事承認を獲得した医薬は世界的に皆無である。タウリンは1987年に保険適用(高ビリルビン血症、うっ血性心不全)、重篤な副作用報告のない廉価なアミノ酸である。「先駆けパッケージ戦略:(新)未承認薬迅速実用化スキーム」を利用し、日本神経学会から希少疾患用医薬品として「適応外薬要望書」を厚生労働省に提出した。大正製薬は、タウリン散98%について「希少疾病用医薬品」指定を受け、MELAS脳卒中様発作のに対する効能・効果および用法・用量追加に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得した(2019/2/21)。
ガイドライン等の開発
ミトコンドリア病の全般的な治療法, ミトコンドリア病診療マニュアル2017, 12-16(診断と治療社)
その他行政的観点からの成果
廉価なアミノ酸によるドラッグリポジショニングによって希少難病治療が可能となれば医療費削減の一翼を担える。本研究は「臨床研究・治験活性化5か年計画 2012」のうち、(1)迅速に国民に医薬品を届ける、(2)独創的シーズの実用化、(3)最適治療法を見出すためのエビデンス構築に合致する。将来的に国際標準治療として世界に発信できれば、厚生労働科学研究費補助金事業の卓越性をアピールできる。大正製薬ニュースリリース(2019/2/21)、川崎医科大学ニュースリリース(2018/5/8, 2019/2/21)を各HPで発表した。
その他のインパクト
本治験の基盤となった、タウリン投与によるMELASモデル細胞のミトコンドリア機能の改善効果と、2名の患者への長期発作抑制効果について、ウイーンで開催された第21回世界神経学会で発表したところ、ポスター賞を受賞し、この独自な治療介入が世界的にも注目されているものと考えられた。また、平成26年3月の難治性疾患実用化成果報告会では口頭発表し、米国NIH-Clinical Trials in Rare DiseaseのKaufmann部長と国際展開について活発な議論を行った。タウリン散98%の製造販売承認事項一部変更承認については川崎医科大学及び厚生労働省で記者会見を行い、朝日新聞に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

特許の名称
老化を反映するミトコンドリアバイオマーカー
詳細情報
分類:
特許番号: WO2017/170300/A1
発明者名: 学校法人 川崎学園 川崎医科大学:砂田芳秀、大澤 裕、西松伸一郎
権利者名: 学校法人川崎学園
出願年月日: 20160326
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohsawa Y, Hagiwara H, Sunada Y, et al.
Taurine supplementation for prevention of stroke-like episodes in MELAS: a multicentre, open-label, 52-week phase III trial.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. , 90 (5) , 529-536  (2019)
10.1136/jnnp-2018-317964

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2019-06-06

収支報告書

文献番号
201415023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
98,646,000円
(2)補助金確定額
98,383,000円
差引額 [(1)-(2)]
263,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 24,789,520円
人件費・謝金 12,377,076円
旅費 1,127,400円
その他 60,089,770円
間接経費 0円
合計 98,383,766円

備考

備考
研究分担機関のうち、2機関で分担金額に未執行が生じた。
研究課題全体で相殺した結果、263,000円の返金額が発生した。
未執行額が発生したが、研究には影響なく遂行できた。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-