家族性LCAT欠損症患者に対する細胞加工医薬品「LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞」の早期実用化にむけた非臨床試験

文献情報

文献番号
201415020A
報告書区分
総括
研究課題名
家族性LCAT欠損症患者に対する細胞加工医薬品「LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞」の早期実用化にむけた非臨床試験
課題番号
H24-難治等(難)-一般-065
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
武城 英明(東邦大学 医学部医学科臨床検査医学研究室(佐倉))
研究分担者(所属機関)
  • 石橋 俊(自治医科大学附属病院 糖尿病内科学、代謝内科学)
  • 佐藤 兼重(千葉大学大学院 医学研究院 形成外科学)
  • 花岡 英紀(千葉大学医学部附属病院 臨床試験部、臨床試験支援)
  • 黒田 正幸(千葉大学医学部付属病院 未来開拓センター、遺伝子細胞治療)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
62,892,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はこれまで根本的治療法のない難治性血清蛋白欠損症である家族性LCAT欠損症に対して新たな治療法を確立し、その予後の改善とQOLの向上に貢献する。家族性LCAT欠損症に持続的蛋白補充に基づく細胞医薬品を患者へ早期に提供することを目指し、遺伝子治療臨床研究『家族性LCAT(レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ)欠損症を対象としたLCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞の自家移植に関する臨床研究』の認可に至った非臨床成果を有効に活用し、遺伝子治療技術の有効性と安全性にかかわる臨床研究、臨床試験(治験)を経て、国内での医薬品製造・販売承認(薬事承認)へ円滑に繋げる非臨床試験成績を収集することを目的とする。本研究は本治療法の基本コンセプトである持続的蛋白質補充療法はファブリー病、ニーマンピック病、原発性脂質異常症、糖原病、原発性ホルモン産生障害、血友病、小人症などの難治性遺伝病、さらにはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経難病、Ⅰ型糖尿病、慢性リウマチなど既存療法において様々な課題を有する難病に適用可能であり、将来そのような広い疾患を対象にして国民の保健・医療・福祉の向上を通じ社会貢献を目指す。
研究方法
H25年度に実施したLCAT遺伝子導入前脂肪細胞の品質に関するPMDA相談の下、相談結果に基づいた細胞の品質に関連した検討を進め、GMP準拠したCPCでの模擬的な細胞製造試験とそれに付随した工程管理試験の中での実施可能性に関する最終的な検討を進めた。また、非臨床動物試験について、治験実施に向けたGLP非臨床動物試験計画をPMDAとの相談に基づき立案することを目的として、以下の検討を進めた。
結果と考察
移植細胞の品質に関わるPMDA相談での指摘について項目ごとに製造・工程管理試験の精査を行った。その結果、GMP製造に連動した工程管理試験実施の目処がたった。今後は実際にCPCを使用したGMP製造の中で最終確認作業を進める。また、非臨床動物試験のGLP試験への移行に向けた探索的な検討を行った。昨年度作出した薬効・薬理試験用の病態モデルマウスを用いた薬効・薬理予備試験において、LCATの血中分泌が確認され有効性評価の目処がたった。また安全性試験のモデルとして、免疫不全マウスとイヌ(ビーグル)を評価した。免疫不全マウスとしてNOD/SCIDマウスを使用し、LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞の移植によりhLCATの血中への持続分泌が認められ、生存している移植細胞においてクローナリティ異常は検出されなかった。大動物安全性は、H25年度に自家移植が可能と判断したイヌについて、LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞と同程度の遺伝子導入コピー数を有する細胞を調製し、自家移植試験を実施した。自家移植個体で少なくとも移植14日目まで血中にhLCAT蛋白が検出され、移植前の培養上清で確認されたLCAT分泌能に依存した血中へのLCAT補充が確認された。このことからイヌは安全性のみならず有効性に関連したDose-escalation試験にも使用できる可能性が考えられた。本年度の予備探索試験成果に基づき、今後は非臨床動物試験計画に関するPMDA相談を経て、非臨床GLP試験に移行する予定である。
結論
今年度の試験成績により、実際のGMP製造と工程管理試験実施が可能となった。今後はボランティアの脂肪組織を用いた試験製造に移行し、千葉大学に設置された細胞調製室(CPC)におけるGMP製造体制を構築する予定である。
また、新規作出マウスが薬効・薬理試験用として使用できる基礎DATAが確立された。また遺伝子導入脂肪細胞に自家移植による酵素補充療法の安全性を評価する大動物が本研究で初めて見いだされ、今後のGLP安全性試験への移行に目処がたった。今後PMDAでの治験に向けた非臨床試験に関する相談を受ける予定である。これらの成果の下、標準治療法として共同研究先のセルジェンテック株式会社(移植治療用遺伝子導入前脂肪細胞の製造元)が本細胞を医薬品としての承認を目指す予定である。
前脂肪細胞を用いたex vivo遺伝子細胞治療は我が国が世界に先駆けて進めている独自の技術であり、PMDAとの相談の下、進めていく遺伝子導入前脂肪細胞の製品規格、GMP製造技術構築などにより確立される一連の細胞製造技術並びに、がん化、クローナリティー等の細胞造腫瘍性の評価等の安全性対策やヒト・動物細胞を用いた有効性評価によって取得する非臨床試験成績は、幹細胞やiPS細胞をはじめとするヒト自家あるいは他家の細胞・組織利用医薬品や臓器移植にも適用できる基盤研究成果となる。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201415020B
報告書区分
総合
研究課題名
家族性LCAT欠損症患者に対する細胞加工医薬品「LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞」の早期実用化にむけた非臨床試験
課題番号
H24-難治等(難)-一般-065
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
武城 英明(東邦大学 医学部医学科臨床検査医学研究室(佐倉))
研究分担者(所属機関)
  • 石橋 俊(自治医科大学附属病院糖尿病内科学、代謝内科学)
  • 佐藤 兼重(千葉大学大学院医学研究院 形成外科学)
  • 花岡 英紀(千葉大学医学部附属病院 臨床試験部、臨床試験支援)
  • 黒田 正幸(千葉大学医学部附属病院 未来開拓センター、遺伝子細胞治療)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性遺伝病は根本的治療法が存在しないあるいは既存療法の種々の問題点から欠損蛋白質の持続的補充を可能とする新規治療法の実用化が医療行政上の喫緊の課題である。この現状を打破することを目的に、患者脂肪組織由来の前脂肪細胞に治療目的遺伝子を導入しこれを自家移植する遺伝子導入細胞医薬品の薬事承認を目指す。本研究は根本的治療法のない難治性血清蛋白欠損症である家族性LCAT欠損症に持続的蛋白補充に基づく細胞医薬品の患者への早期提供を目指し、遺伝子治療技術の有効性と安全性にかかわる臨床試験(治験)を経て、国内での医薬品製造・販売承認(薬事承認)へと円滑に繋げるための非臨床試験成績を得ることを目的とする。本治療法の基本コンセプトである持続的蛋白質補充療法はファブリー病、ニーマンピック病、原発性脂質異常症、糖原病、原発性ホルモン産生障害、血友病、小人症などの難治性遺伝病、さらにはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経難病、Ⅰ型糖尿病、慢性リウマチなど既存療法において様々な課題を有する難病に適用可能であり、将来そのような広い疾患を対象にして国民の保健・医療・福祉の向上を通じ社会貢献を図る。
研究方法
これまでの非臨床試験成績を踏まえ、移植細胞の品質に関わるPMDA薬事戦略相談を受け、GMP準拠した移植細胞の調製に関わる工程管理試験について指摘に基づいた検討を行なった。また、非臨床動物試験について、治験実施に向けたGLP非臨床動物試験計画をPMDAとの相談に基づき立案することを目的として、有効性及び安全性評価モデル動物の作出と移植評価を探索的に実施した。並行して対象疾患である家族性LCAT欠損症の患者調査に向けた難病申請を原発性高脂血症調査班と共同で行なった。
結果と考察
LCAT遺伝子導入前脂肪細胞の品質に関するPMDA相談の下、工程管理試験の改善と確立を行った。今後GMP準拠した細胞調製室(CPC)での模擬的な細胞製造試験とそれに付随した工程管理試験の中で、その実施可能性などの最終的な確認を進める。非臨床GLP試験の実施に向け、PMDAとの非臨床動物試験計画相談を目的とした探索的な試験検討を行った。薬効・薬理試験用の病態モデルマウスを作出し、それの繁殖と薬効・薬理予備試験を実施した。LCATの血中分泌が確認され有効性評価の目処がたった。また安全性試験のモデルとして、免疫不全マウスとイヌを評価した。免疫不全マウスとしてNOD/SCIDマウスを使用し、LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞の移植によりhLCATの血中への持続分泌が認められ、生存している移植細胞においてクローナリティー異常は検出されなかった。大動物安全性試験については、自家移植用の動物の選択から研究を開始した。以前の試験成績と本研究での試験成績からイヌを用いた自家移植が最も効率的な自家移植モデルであることが判明した。特にLCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞と同程度の遺伝子導入コピー数を有する細胞の自家移植により血中へのLCAT補充が確認され、大動物での遺伝子導入前脂肪細胞移植による酵素補充モデルが確立された。本研究の予備探索試験成果に基づき、今後は非臨床動物試験計画に関するPMDA相談を経て、非臨床GLP試験に移行可能な試験基盤が確立された。また、家族性LCAT欠損症が指定難病として認定される予定となり、患者の実態調査・リクルートを推進する基盤が確立された。
結論
本研究の結果、移植用細胞のGMP製造と工程管理試験実施が可能となった。今後はボランティアの脂肪組織を用いた試験製造に移行し、千葉大学に設置されたCPCにおけるGMP製造体制を構築する予定である。
また、新規作出マウスが薬効・薬理試験用として使用できる基礎DATAが確立された。また遺伝子導入脂肪細胞に自家移植による酵素補充療法の安全性を評価する大動物が本研究で初めて見いだされ、今後のGLP安全性試験への移行に目処がたった。今後PMDAでの治験に向けた非臨床試験に関する相談を受ける予定である。これらの成果の下、標準治療法として共同研究先のセルジェンテック株式会社(移植治療用遺伝子導入前脂肪細胞の製造元)が本細胞を医薬品としての承認を目指す予定である。
前脂肪細胞を用いたex vivo遺伝子細胞治療は我が国が世界に先駆けて進めている独自の技術であり、PMDAとの相談の下、進めていく遺伝子導入前脂肪細胞の製品規格、GMP製造技術構築などにより確立される一連の細胞製造技術並びに、がん化、クローナリティー等の細胞造腫瘍性の評価等の安全性対策やヒト・動物細胞を用いた有効性評価によって取得する非臨床試験成績は、幹細胞やiPS細胞をはじめとするヒト自家あるいは他家の細胞・組織利用医薬品や臓器移植にも適用できる基盤研究成果となる。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201415020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脂肪細胞(組織)は、従来形成外科領域で臨床実績のある移植材料である。近年の脂肪細胞の生理学的研究を背景として、それを治療蛋白の供給細胞、いわば分泌装置と見立てた実用化研究を進めた。本研究の結果、脂肪組織より比重特性に基づいて天井培養により調製される前脂肪細胞を用いたex vivo遺伝子治療の基盤技術とそれに基づくGMP準拠の細胞調製法と工程管理試験が確立された。さらにこれまで存在しなかった当該治療技術の安全性試験の選択肢としてイヌ自家移植モデルが確立された。
臨床的観点からの成果
千葉大学がLCAT欠損症の精密検査施設として日本先天代謝異常学会に登録された。現在実施中の「家族性LCAT欠損症を対象としたLCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞の自家移植に関する臨床研究」(第一種再生医療実施計画)において、移植後1年が経過したが、安全性が確認され、リポ蛋白代謝に対する有効性が示唆されている。本研究で確立した治療技術は、既存の組換え型蛋白製剤による酵素補充療法では不可能であった、長期薬効持続を可能とする技術であり、多くの難治性疾患治療法への応用が期待される。
ガイドライン等の開発
本治療開発の対象疾患であるLCAT欠損症は脂質異常、視力障害、腎不全と複数の診療領域にまたがる疾患であることから、治療開発のための患者実態、疾病診断も明確でなかった。原発性高脂血症研究班と連携し、平成27年7月1日付、LCAT欠損症について難病指定を受けた。今後、本研究で確立した病態評価法等を用いて、さらに厚生労働科学研究難治性疾患等克服研究事業で本疾患の全国調査が行われる予定であり、それらの研究を通じて我が国における本症の実態解明が進むものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
臨床研究計画は再生医療安全性確保法の下、現在実施中である。また治験実施に向けて、製造法・品質・生物由来原料基準および非臨床試験に関するRS戦略相談(平成30年2月8日、平成30年7月13日)を受けた。治験計画は、RS戦略相談を終え(平成31年2月15日)、千葉大学医学部附属病院治験審査委員会において承認された(平成31年4月15日)。令和元年中に治験を開始予定である。
その他のインパクト
LCAT欠損症に対する第一種再生医療臨床研究の第一症例受け入れに伴い、千葉大学よりプレスリリースを発信し、PRTIMESに取り上げられた。また、先天代謝異常症、脂質異常症、遺伝子治療に関連した学会・シンポジウムで研究成果が発表された。欧州オランダアムステルダム大学との大学間共同調査研究により病態解明研究が進んだ。本研究は、脂肪細胞を用いた本邦独自の治療開発研究であり、本技術基盤は脂質異常症の新規治療として国際的に注目されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fukaya Y, Kuroda M, Aoyagi Y,et al.
Platelet-rich plasma inhibits the apoptosis of highly adipogenic homogeneous preadipocytes in an in vitro culture system.
Exp Mol Med , 44 (5) , 330-339  (2012)
10.3858/emm.2012.44.5.037
原著論文2
Naito S, Kamata M, Furuya M,et al.
Amelioration of circulating lipoprotein profile and proteinuria in a patient with LCAT deficiency due to a novel mutation (Cys74Tyr) in the lid region of LCAT under a fat-restricted diet and ARB treatment.
Atherosclerosis , 228 (1) , 193-197  (2013)
10.1016/j.atherosclerosis.2013.02.034
原著論文3
Kuroda M, Holleboom AG, Stroes E,et al
Lipoprotein subfractions highly associated with renal damage in familial LCAT deficiency.
Arterioscler Thromb Vasc Biol , 34 (8) , 1756-1762  (2014)
10.1161/ATVBAHA.114.303420

公開日・更新日

公開日
2016-05-24
更新日
2019-05-27

収支報告書

文献番号
201415020Z