脳死患者の家族に選択肢提示を行う際の対応のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201415010A
報告書区分
総括
研究課題名
脳死患者の家族に選択肢提示を行う際の対応のあり方に関する研究
課題番号
H26-難治等(免)-一般-104
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
横田 裕行(日本医科大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木  尚(日本医科大学付属病院 救命救急科)
  • 織田  順(東京医科大学 救急・災害医学分野)
  • 久志本 成樹(東北大学 大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野)
  • 小中 節子(公益社団法人日本臓器移植ネットワーク)
  • 坂本 哲也(帝京大学 医学部)
  • 田中 秀治(国士舘大学 体育学部、同大学院救急システム研究科)
  • 名取 良弘(飯塚病院 脳神経外科)
  • 山勢 博彰(山口大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
4,979,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 脳死下臓器提供に関する選択肢提示の方法が、臨床現場の感覚と大きく乖離していることが指摘されている。本研究ではガイドライン等で示されている一律的な脳死下臓器提供の手順、とくに選択肢提示に関しての問題点を検討し、より円滑な方法を提示することを目的とした。
研究方法
 研究代表者は研究分担者と協議の上、以下に記載した各々の視点から研究を行うことを確認した。
①選択肢提示のあり方に関する研究
 現在のガイドラインに則った標準的選択肢提示法での課題を検討する。方法の一端として「救急医療における脳死患者の対応セミナー」を日本臓器移植ネットワーク(JOT)と本研究班が共催し、現在の選択肢提示の標準的手表の問題点を議論し、その解決策を検討した。
②小児脳死例における選択肢提示の諸問題に関する研究
 小児における課題は、終末期医療の現状や虐待の有無の確認の手続き等を踏まえる必要があり、選択肢提示の手法についても成人と同様に論じるべきではない。現在の選択肢提示の課題について検討した。
③クリニカルパスとしての選択肢提示の時期に関する研究
 救命救急センターに入院となった連続300症例について、独自に開発した傷病分類を俯瞰し、作成したデータベースから意思決定に最も影響する属性を分析した。
④地域の共通認識としての選択肢提示に関する研究
 法的脳死下臓器提供308例を対象として、JOTのデータから、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄の8地方に分けて、1)脳死下臓器提供数とその推移、2)人口10万人あたり提供数、3)原疾患別提供数と原疾患比率、4)人口10万人あたり原疾患別提供数、及び原疾患の地域の特性や差異に関して検討した。
⑤コーディネーターの視点からみた選択肢提示の諸問題に関する研究
 臓器提供に際してはコーディネーターの関与は必須、かつ重要である。臓器提供者家族(以下ドナー家族)の想い、特に臓器提供の選択肢提示に関連した状況を調査し、選択肢提示に際して家族にとって適切な方策や家族対応について検討した。具体的にはドナー家族に対して臓器提供の意思決定、死別後の生活に至るまでの家族の心情について、半構造化面接によるインタビュー調査を行った。
⑥救急医、集中治療、脳神経外科医等の選択肢提示に関する意識に関する研究
 脳死下臓器提供の可能性がある患者の主治医となり得る医師に伴う様々な負担、例えば精神的負担、時間的な負担が存在するではないか。存在するとしたらどのような負担があり得るかを、また実際に生じているかをアンケート調査を行い検討した。
⑦組織提供に際しての選択肢提示に関する諸問題に関する研究
 組織提供も提供患者やその家族への対応は臓器提供と共通する部分が多く、また選択肢の提示も行われている。選択肢提示に際して組織提供と臓器提供の共通点や相違点を整理し、コーディネーターの役割、提供への手順や手続きや方法を検討した。
⑧行政や社会と連携して選択肢提示に関する研究
 選択肢提示にあたっては日常の普及啓発活動が重要である。行政・社会・医療者側それぞれの要求を把握するためアンケート調査を含めた調査を行い、問題点を整理した。
⑨看護師の視点からみた選択肢提示のあり方に関する研究
 看護師は主治医より患者家族との関わりが密接である。医師と看護師の関わりの中で、選択肢の提示にあたってどのような役割を担うかを検討した。具体的には脳死下臓器提供を行ったと公表している施設に勤務し、脳死下臓器提供を経験した看護師を対象に、質問紙調査を実施した。
結果と考察
 実際の脳死下臓器提供では選択肢の提示方法は一律的に決まっている。「脳死とされうる状態の診断」後に選択肢の提示を行う現在の手法は家族の臓器提供への潜在的意思を必ずしも反映していない。日常の啓発活動を前提として、実際の提供場面では家族の中のキーパーソンを中心に理解度や医療スタッフとの信頼構築へのプロセスを考慮し、選択肢の提示を行うことが必要である。
 たとえば、臓器提供をする患者本人、あるいは患者家族の意思が予め判明している場合は「法的脳死判定マニュアル」に記載されている脳死とされうる状態の判断は省略可能と考える。
結論
 家族への対応は、その年齢や属性、地域の特徴などを十分考慮し、さらに臓器提供者が小児の場合は特段の配慮が必要である。また、医師だけではなく、家族に常により添う機会が多い看護スタッフへの教育の重要性が明らかとなった。画一的で、むしろ混乱の原因ともなっている現行行われている選択肢提示法も、例えば“臓器提供をする患者本人、あるいは患者家族の意思が予め判明している場合”などでは、医療現場の裁量に委ねるべきである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201415010Z