新たな造血幹細胞移植法の開発:生着効率の向上を目指して

文献情報

文献番号
201415005A
報告書区分
総括
研究課題名
新たな造血幹細胞移植法の開発:生着効率の向上を目指して
課題番号
H25-難治等(免)-一般-104
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
村田 誠(名古屋大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小澤 敬也(東京大学 医科学研究所)
  • 小川 啓恭(兵庫医科大学 医学部)
  • 豊嶋 崇徳(北海道大学大学院 医学研究科 )
  • 前田 嘉信(岡山大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、生着効率の向上を目指した新しい造血幹細胞移植法の開発を行うことである。主たるプロジェクトは、骨髄非破壊的前処置を用いた非血縁臍帯血移植において、解凍した臍帯血を直接骨髄内へ移植する移植法の臨床試験を実施し、その安全性と有効性を確認すること。またこれとは別に間葉系幹細胞を併用する移植法の開発も行う。
研究方法
1. 成人血液悪性疾患に対する減量強度前処置を用いた骨髄内臍帯血移植法の臨床試験:対象は減量強度前処置による同種臍帯血移植の適応となる成人血液悪性疾患患者。骨髄穿刺針を局所麻酔下で腸骨に穿刺し、解凍洗浄した臍帯血を注入する。試験デザインは臨床第II相試験、主要評価項目は移植後60日の生着生存率。必要実施症例数は21例だが、不適格症例登録の可能性を考慮し予定登録数は22例。安全性担保のため、生着不全、生着前早期死亡、骨髄内輸注に伴うgrade 4以上の有害事象の発生患者数で規定した試験早期中止基準を設定し、独立した効果安全性評価委員会を設置した。またモニタリングを定期開催し、その結果に基づき必要に応じて監査も適宜実施する。尚、全ての参加施設で倫理審査委員会の承認を得て実施する。
2. 臍帯血を洗浄せずに注入する骨髄内臍帯血ミニ移植の臨床試験:対象は初回臍帯血移植の適応となる55~70歳の血液悪性疾患患者で、かつ骨髄線維症を有しない患者に限る。フルダラビン+シクロフォスファミド+放射線全身照射による前処置法と、シクロスポリン+MMFによるGVHD予防法を用いる。試験デザインは臨床第I/II相試験で、安全性を評価する第I相試験は10例、有効性を評価する第II相試験は30例の登録数を予定している。
3. その他の施設における骨髄内臍帯血移植の進捗状況を把握する。
4. 造血幹細胞移植における間葉系幹細胞の臨床応用:日本ケミカルリサーチ社による多施設共同臨床試験「同種造血幹細胞移植後に発症したステロイド抵抗性の急性GVHDに対するJR-031投与の第II/III相試験」(治験調整医師:小澤敬也)の評価を行う。対象はステロイド抵抗性のgrade III以上急性GVHDを呈した患者25例で、間葉系幹細胞(開発名:JR-031)2×106個/kgを週2回、4週間投与した。
5. 移植後免疫応答に関する基礎的解析:マウス移植モデルを用いるなどして、生着・拒絶などの移植後免疫応答に関する基礎的解析を行う。
結果と考察
1. これまでの試験実施症例数は計19例となった。臍帯血ユニットの解凍、洗浄、濃縮や、骨髄内への注入などは問題なく実施できている。今年度中に発生した至急報告義務のある有害事象は生着不全の1例。ただし通常の臍帯血移植後に一定の頻度で起こりうる事象であり、効果安全性評価委員によりその後の試験継続は可と判断された。2014年7月6日にモニタリング検討会を開催した。臍帯血洗浄バッグの改良を製造元のニプロ株式会社と共同で行った。
2. 安全性を確認する第I相試験を終え、続いて有効性を検討する第II相試験を実施した。登録症例数は予定の30例に到達し、現在は移植後観察期間に入っている。
3. 単施設で骨髄内臍帯血移植を実施している2施設より、2014年7月5日開催の班会議で実施状況が報告された。
4. 第II/III相臨床試験(25例)を終えており、初回投与時から24週までの期間に28日間以上継続したCRを達成した症例は12例(48%)だった。間葉系幹細胞投与による輸注毒性、異所性組織形成は認めず、有害事象の多くは同種造血幹細胞移植後に一般的に認められるものであった。
5. RAGE欠損マウスを使用したマウス急性GVHDの系で、GVHD発症頻度や致死率にWTマウスと有意な差を認め、HMGB1-RAGE系がGVHDに関与していることを確認した。移植後シクロフォスファミドを用いたHLA半合致末梢血幹細胞移植後の生着不全3例において、不適合HLAを認識する1回目移植ドナーのGVHD関連T細胞が2回目ドナー細胞に対して作用し生着不全に至った可能性が示唆された。
考察:放射線を用いない骨髄非破壊的前処置による骨髄内臍帯血移植法の開発に成功すれば、生着率の高い、放射線性二次癌のない、小児成長障害の少ない、治療関連合併症の少ない臍帯血移植法が確立されるものと期待される。また骨髄内移植法や間葉系幹細胞を用いた移植法を骨髄移植や末梢血幹細胞移植にも応用すれば、生着に必要な移植細胞数を減らすことができ、ドナーに掛かる身体的・精神的負担が軽減され、その結果ドナー拡大も期待できる。
結論
引き続き、臍帯血を洗浄した上で移植する骨髄内臍帯血移植と、洗浄しないで移植する骨髄内臍帯血移植の両臨床試験を推進していく。同時に、間葉系幹細胞を用いた新しい移植法の開発基盤を整備する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201415005Z