アトピー性皮膚炎発症機序の解明と皮膚バリアケアによる予防法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201414011A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性皮膚炎発症機序の解明と皮膚バリアケアによる予防法の開発に関する研究
課題番号
H25-難治等(免)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
天谷 雅行(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 博久(国立成育医療研究センター研究所)
  • 木戸 博(徳島大学 疾患酵素学研究センター)
  • 菅井 基行(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 加藤 則人(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
  • 大矢 幸弘(国立成育医療研究センター研究所)
  • 新関 寛徳(国立成育医療研究センター研究所)
  • 海老原 全(慶應義塾大学 医学部 )
  • 久保 亮治(慶應義塾大学 医学部 )
  • 松井 毅(理化学研究所 統合生命医科学研究センター)
  • 佐々木 貴史(慶應義塾大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
24,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、皮膚バリア機能障害による経皮的抗原曝露の亢進がアトピー性皮膚炎をはじめとするアトピー性疾患を発症、増悪させるという観点から、アトピー性皮膚炎発症機序を解明する基礎研究と、バリアケアによるアトピー性皮膚炎発症、増悪の予防法を確立するための疫学的臨床研究を行う。基礎研究では、フィラグリン以外の新規アトピー性皮膚炎発症関連新規候補遺伝子の探索、同定を行うとともに、アトピー性疾患モデルマウスの作成、解析を行い、発症機序の解明をめざす。臨床研究では、H22年度から開始された「適切なスキンケア、薬物治療方法の確立とアトピー性皮膚炎の発症・増悪予防、自己管理に関する研究」を継続、発展させることにより、スキンケア、バリアケアによりアトピー性皮膚炎の発症、増悪を予防することが可能か、疫学的研究を行う。
研究方法
1)アトピー性皮膚炎におけるタイトジャンクションバリア(TJ)と表皮内樹状細胞動態の解析
正常皮膚およびアトピー性皮膚炎患者より採取した紅斑部皮膚より単離した表皮シートを用いて、TJ関連分子および各種の表皮内樹状細胞マーカーを用いたwhole mount染色を行い、コンフォーカル顕微鏡を用いた3次元観察により、TJバリアと樹状細胞の形態観察を行った。
2)スキンケアによる乳児湿疹・アトピー性皮膚炎予防に関するランダム化介入試験
2010年11月から2013年11月までの3年間にハイリスク新生児(両親兄弟にADがある)118名を対象に、ランダムに介入群59名、コントロール群59名に割り付けした。介入群には連日全身に乳液タイプの保湿剤を塗布し、32週までのADの累積発症率をコントロール群(沐浴と乾燥時のみの保湿剤塗布)と比較した。
3)アトピー性皮膚炎診療ガイドラインの作成
皮膚科診療を専門とする医師を対象として、新たに公表された臨床研究データと既存のガイドラインとの関連性についてレビューし、これまでの推奨の根拠となっているエビデンスをより強化した診療ガイドラインを作成する。
結果と考察
1)アトピー性皮膚炎におけるタイトジャンクションバリアと表皮内樹状細胞動態の解析
活性化LCは、樹状突起をTJバリアとドッキングさせており、その樹状突起の先端にはlangerin分子の集積が観察され、TJバリア外からの抗原取得が活性化していると考えられた。アトピー性皮膚炎紅斑部では、活性化してTJバリアと樹状突起をドッキングさせたLCの数が増えていた。一方inflammatory dendritic epidermal cell (IDEC)は、LCよりも表皮内の深い場所に位置しており、周囲のランゲルハンス細胞が活性化した状態においても、その樹状突起を水平方向に延ばし、TJバリアとドッキングすることはなかった。LCとIDECのいずれも、アトピー性皮膚炎皮膚ではIgEに対する高親和性FceRIレセプターを発現していた。活性化しTJとドッキングしたLCにおいて、langerinが樹状細胞先端に集積したのに対し、FceRIは細胞膜全体に均等に分布し、樹状突起先端には濃縮していなかった。
2)スキンケアによる乳児湿疹・アトピー性皮膚炎予防に関するランダム化介入試験
生後32週の時点で、介入群では19名がADを発症しているのに対し、コントロール群では28名が発症しており、介入群ではアトピー性皮膚炎の発症を32%減らすことができた。(Log rank test p=o.o12) 卵白抗原への感作率は両群で有意差は認められなかったが、皮疹のある群と無い群で比較すると有意に皮疹のある群で感作率が高いことが分かった。牛乳抗原の感作率に有意差はなかったが、介入群が低い傾向が認められ、特異的IgE抗体価は介入群が有意に低かった。
3)アトピー性皮膚炎診療ガイドラインの作成
患者にとって重要なアウトカムを改善するために必要な問題を重要臨床課題として20件程度設定し、文献を検索し、エビデンスの評価と統合で求められたエビデンスの強さ、益と害のバランスのほか、患者の価値観の多様性、経済学的な視点も考慮して、推奨とその強さを決定した。また、これらのエビデンスをもとにした解説文を第I章として記載し、第Ⅱ章には構造的抄録を付記した診療ガイドラインを作成中である。
結論
本年度は、皮膚炎発症に重要な役割をする表皮樹状細胞の実態が明らかにされ、アトピー性皮膚炎発症病態の解明に寄与したのみならず、ランダム化介入試験により、スキンケア、バリアケアによりアトピー性皮膚炎の発症、増悪を予防すること可能であることが示された。皮膚バリア機能を補正することによりアトピー性疾患の発症、アレルギーマーチを予防、抑制する方法論を確立する上で大きな節目となる成果をあげることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
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収支報告書

文献番号
201414011Z