多関節障害重症RA患者に対する総合的関節機能再建治療法の検討と治療ガイドライン確立

文献情報

文献番号
201414005A
報告書区分
総括
研究課題名
多関節障害重症RA患者に対する総合的関節機能再建治療法の検討と治療ガイドライン確立
課題番号
H24-難治等(免)-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
石黒 直樹(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 肇(新潟県立リウマチセンター )
  • 織田 弘美(埼玉医科大学医学部)
  • 木村 友厚(富山大学大学院医学薬学研究部(医学) )
  • 小嶋 俊久(名古屋大学医学部附属病院)
  • 小嶋 雅代(千田 雅代)(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 田中 栄 (東京大学医学部附属病院)
  • 二木 康夫 (慶應義塾大学医学部)
  • 西田 圭一郎(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 芳賀 信彦 (東京大学医学部附属病院)
  • 橋本 淳 (国立病院機構 大阪南医療センター)
  • 宮原 寿明 (国立病院機構 九州医療センター )
  • 桃原 茂樹 (東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター)
  • 行岡 正雄 (医療法人行岡医学研究会 行岡病院 )
  • 里宇 明元(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(RA)における関節破壊の進行は顕著に抑制されるようになってきた。しかし、また10~30%の症例では完全には関節破壊を予防できず、手術治療を必要とする時には多関節障害を有している。単関節の関節再建術は既に治療法として確立しているが、多関節障害を持つRA患者における手術治療の総合的なコンセプトは明確ではない。多関節障害の評価方法を確立し、それを基に個々の患者に最適な、総合的な生活機能(ADL, QOL)回復のための手術と、術後の運動・作業療法指導が実施できれば、より早期により高いレベルまでの回復が可能となり、新たな関節障害の発症も予防できる。また、特にRAでは疼痛、身体機能障害が患者に負の心理的影響を与え(Arthritis Rheum 2009)、治療満足度低下に繋がる事に注目し、患者自身の評価(Patient Reported Outcome、PRO)を重視し、心理社会的要因に配慮した全人的な標準的治療プログラムが必要である。本研究は「多関節障害を持つRA患者」に対し、手術種類に応じた関節再建治療に関わる総合的な治療ガイドラインを開発することを目指し行うものである。
研究方法
1.全国多施設RA関節再建術データベースの構築:本研究の主調査として、各研究分担者の所属施設におけるRA関節再建術予定の全患者を登録し、性、年齢、罹病期間、疾患活動性、薬物療法情報、各関節可動域、包括的QOL指標および抑うつを含めた患者の主観的評価、身体機能評価(HAQ,DASH、起座動作の速度など)を収集し、術後半年、1年において、経過の定期的な追跡を行った。2.新潟県立リウマチセンターにおけるデータの後ろ向き研究を行った。3.RA上肢関節再建術に関するシステマティックレビュー④RA関節再建術の術前・術後評価に関する検証 (個別研究)を行った。
結果と考察
それぞれの関節についてHAQ-DIのうち障害度と可動域が有意に相関する項目で、困難なく日常生活動作ができる患者の可動域の95%信頼区間の下限値を必要最低可動域とすると手関節 屈曲-伸展 60.7°回内外 146.9°、肘屈曲134°、肩屈曲135.1°であった。同様に下肢については足関節:屈曲-伸展 55°、膝関節:屈曲-伸展 120°、股関節:屈曲-伸展 120°が日常生活に支障がないレベルの可動域と推計された。Time Up and Go test(TUG)は関節可動域だけでなく、疼痛、筋力も含めた総合指標ととらえることができ、TUGによる身体機能障害としての目安は9-10秒と算出された。多関節障害患者であるRA手術患者においては上肢機能、可動域は広範な日常生活動作に影響を持っていた。手術部位のみでなく全身としての評価が重要である。よりよい機能再建術のために、術前可動域と術後結果として得られる可動域から手術による機能改善を想定し、患者との相互理解を深め、手術計画をたてていく必要がある。
結論
研究成果を踏まえて以下の提言を纏めた。
<具体的な提言>
1)RA手術治療の実施にあたっては、術前に薬物療法により全身的疾患活動性を十分コントロールすることを基本原則とする。
2)多関節障害を念頭に、術前評価には手術部位のみならず、全身の関節について、疼痛、可動域、握力を評価し、特に入浴、起座動作は上肢補助動作も把握する。肩関節の可動域制限は多くの日常生活動作に関連するので必ず評価する必要がある。
3)手術予定患者には、手術により得られる可動域、握力の向上により期待できる身体機能の改善度と手術部位以外の可動域から想定される機能改善の限界を提示する。
4)術前評価に基づき、複数関節への手術介入を含めた治療計画を考慮する。
5)術前の可動域、動作速度は、強く術後の改善に影響を及ぼす。患者への情報提供、手術介入のタイミングも重要である。
6)術後も含め、リハビリテーションにおいても数値目標を目指して行うべきである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201414005B
報告書区分
総合
研究課題名
多関節障害重症RA患者に対する総合的関節機能再建治療法の検討と治療ガイドライン確立
課題番号
H24-難治等(免)-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
石黒 直樹(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 肇(新潟県立リウマチセンター )
  • 織田 弘美(埼玉医科大学医学部)
  • 木村 友厚(富山大学大学院医学薬学研究部(医学) )
  • 小嶋 俊久(名古屋大学医学部附属病院)
  • 小嶋 雅代(千田 雅代)(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 田中 栄(東京大学医学部附属病院)
  • 二木 康夫(慶應義塾大学医学部)
  • 西田 圭一郎(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院)
  • 橋本 淳(国立病院機構 大阪南医療センター)
  • 宮原 寿明(国立病院機構 九州医療センター )
  • 桃原 茂樹(東京女子医科大学  膠原病リウマチ痛風センター)
  • 行岡 正雄(医療法人行岡医学研究会 行岡病院)
  • 里宇 明元(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(RA)における多関節障害の評価方法を確立し、それを基に個々の患者に最適な、総合的な生活機能(ADL, QOL)回復のための手術と、術後の運動・作業療法指導が実施できれば、より早期により高いレベルまでの回復が可能となり、新たな関節障害の発症も予防できる。また、特にRAでは疼痛、身体機能障害が患者に負の心理的影響を与え、治療満足度低下に繋がる事に注目し、患者自身の評価を重視し、心理社会的要因に配慮した全人的な標準的治療プログラムが必要である。本研究は「多関節障害を持つRA患者」に対し、手術種類に応じた関節再建治療に関わる総合的な治療指針の開発を目的に行った。
研究方法
1.全国多施設RA関節再建術データベースの構築:本研究の主調査として、各研究分担者の所属施設におけるRA関節再建術予定の全患者を登録し、性、年齢、罹病期間、疾患活動性、薬物療法情報、各関節可動域、包括的QOL指標および抑うつを含めた患者の主観的評価、身体機能評価(HAQ,DASH、起座動作の速度など)を収集し、術後半年、1年において、経過の定期的な追跡を行った。2.新潟県立リウマチセンターにおけるデータの後ろ向き研究を行った。3.RA上肢関節再建術に関するシステマティックレビューを行った。4.RA関節再建術の術前・術後評価に関する検証 (個別研究)を実施した。
結果と考察
HAQ-DIのうち障害度と可動域が有意に相関する項目で、困難なく日常生活動作ができる患者の可動域の95%信頼区間の下限値を必要最低可動域とすると手関節 屈曲-伸展 60.7°回内外 146.9°、肘屈曲134°、肩屈曲135.1°であった。同様に下肢については足関節:屈曲-伸展 55°、膝関節:屈曲-伸展 120°、股関節:屈曲-伸展 120°が日常生活に支障がないレベルの可動域と推計された。術前可動域と術後結果として得られる可動域から手術による機能改善を想定し、患者との相互理解を深め、手術計画をたてていく必要がある。それぞれの関節についてHAQ-DIのうち障害度と可動域が有意に相関する項目で、困難なく日常生活動作ができる患者の可動域の95%信頼区間の下限値を必要最低可動域とすると手関節 屈曲-伸展 60.7°回内外 146.9°、肘屈曲134°、肩屈曲135.1°であった。同様に下肢については足関節:屈曲-伸展 55°、膝関節:屈曲-伸展 120°、股関節:屈曲-伸展 120°が日常生活に支障がないレベルの可動域と推計された。Time Up and Go test(TUG)は関節可動域だけでなく、疼痛、筋力も含めた総合指標ととらえることができ、TUGによる身体機能障害としての目安は9-10秒と算出された。各関節の可動域は有意な相関があるが、隣接関節と相関がより強いことがわかった。握力は肩屈曲、手関節屈曲―伸展との相関が強かった。患者評価も肩関節可動域との相関が強かった。肩関節可動域障害はRA重度多関節障害の特徴で、術前評価として肩関節可動域の把握は、術後の機能獲得の推定に重要であると考えられた。肩関節の機能再検手術成績が不安定な現状では、肩関節炎の診断の精度を上げ、肩関節炎の存在する場合の徹底した薬物療法を含め、肩関節への治療介入方法も今後、検討する必要がある。





結論
研究成果から以下に示すような提言を作成した。
多関節障害を念頭に、術前評価には手術部位のみならず、全身の関節について、疼痛、可動域、握力を評価し、特に入浴、起座動作は上肢補助動作も把握する。肩関節の可動域制限は多くの日常生活動作に関連するので必ず評価する必要がある。手術予定患者には、手術により得られる可動域、握力の向上により期待できる身体機能の改善度と手術部位以外の可動域から想定される機能改善の限界を提示する。術前評価に基づき、複数関節への手術介入を含めた治療計画を考慮する。等である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201414005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)日常生活上の制限の多面性、2)多関節が協働してADLレベルを決定していること3)機能障害と患者評価との関連性を明らかにし、関節可動域、握力などについてRA患者におけるADL自立のための各関節の必要条件を2つの観察臨床研究から明らかにした。身体機能、患者主観的評価において手術療法は明らかな効果があり、術前評価から得られたADL自立のための必要条件(可動域、動作速度)は、術後の回復度にも関連することがわかり、これらを、治療目標、およびまた治療介入時期の目安として設定することの妥当性を示した。
臨床的観点からの成果
機能再建術のためには、疼痛軽減のみならず、機能障害の改善のための数値目標は不可欠であり。可動域、TUGは数値目標としうる。患者、医師間のみならず、看護、リハビリテーションなどチーム医療を行う際、日常のトータルマネージメントの際に共有すべき情報と考えられる。3年間の研究成果を基に「より良いRA機能再建のための提言2014」をまとめた。
ガイドライン等の開発
今回作成した「より良いRA機能再建のための提言2014(案)」は生物学的製剤を含む新しい薬物治療の背景を持つ最新の患者データを基にした具体的なものである。RA治療に携わる臨床家にとって有用なものと考える。本研究班のなかでは、デルファイ法を用いて、合意形成がされた。患者パネルによる評価、パブリックコメントなどの手順を経て公開していく予定である。
その他行政的観点からの成果
RA治療において、薬物、手術、リハビリテーションを含むTotal managementは必須であり、現在の薬物療法をふまえた手術療法の実態が多施設で検証された極めて重要な研究と考える。現在の薬物療法下における手術治療の具体的数値目標は、治療実践において、内科、整形外科、リハビリ、看護のチーム医療をする上での共通の認識を形成するうえで、極めて重要である。
その他のインパクト
市民向け公開講座を6月21日名古屋において開催予定している。

発表件数

原著論文(和文)
25件
原著論文(英文等)
42件
その他論文(和文)
71件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
268件
学会発表(国際学会等)
46件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-25
更新日
2018-05-21

収支報告書

文献番号
201414005Z