ミトコンドリア脳筋症の発症予防と治療法開発の研究

文献情報

文献番号
199800356A
報告書区分
総括
研究課題名
ミトコンドリア脳筋症の発症予防と治療法開発の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 雄一(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 林純一(筑波大学生物科学系)
  • 埜中征哉(国立精神・神経センター神経研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
53,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ミトコンドリア脳筋症患者の約70%は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)に変異をもつ。患者の細胞の中では、変異mtDNAと正常mtDNAがそれぞれのミトコンドリアのなかで共存して存在している。そして、何らかの要因で変異mtDNAの比率が高いミトコンドリアが増加し、一定の値(閾値)を越えると細胞の機能が障害され、病気が発症する。本研究の目的は、細胞の中の変異mtDNAを多く含むミトコンドリアを減少させ、変異mtDNAの少ないミトコンドリアを増加させる方法を見出して、発症予防や治療法を開発することにある。
全体計画=(1)ミトコンドリア脳筋症患者培養細胞株の樹立
(2)任意のDNAをミトコンドリアに導入する方法の開発
(3)変異mtDNA/正常mtDNA比率の変動に関する研究
(4)ミトコンドリア脳筋症モデル動物での治療実験
研究方法
(1)すでに得られている患者培養細胞株に加えて、自然経過で改善する乳児良性型チトクロームc酸化酵素欠損症や変異mtDNA比率が改善した症例などの特殊例の患者細胞株を樹立する。
(2)細胞から1度ミトコンドリア分画を分離し、そこに外からDNAを導入した後、ミトコンドリアを細胞にもどす方法(2段階導入法)を開発する。
(3)欠失を有する細胞と点変異を有する細胞を融合させることで、両方の変異mtDNAの動態から、変異mtDNA/正常mtDNA比率の変動に関わる内因性因子の研究を行った。また、患者培養細胞株に対して、外因性因子の一つとしてゲルマニウム等を投与し、変異mtDNA/正常mtDNAの比率の変化の有無を調べる。
(4)ゲルマニウム中毒のミトコンドリア脳筋症モデル動物として、マウスに同様な変化を生じるかどうかを検討する。
結果と考察
(1)自然に改善する乳児良性型チトクロームc酸化酵素欠損症の培養細胞株を確立し(後藤)、また、血液1mlから得たミトコンドリア分画を培養細胞に導入する方法を確立した(林)。
(2)新鮮で純度の高いミトコンドリア分画を得る方法、そのミトコンドリアにエレクトロポレーション法にてDNAを導入する条件、ミトコンドリアをマイクロインジェクションで細胞に戻す方法を確立し、ここでミトコンドリアへの2段階DNA導入法が実用段階に入った(後藤)。
(3)変異mtDNAの比率を変化させる内因性因子の研究として、異なる変異を有する細胞株を融合させる実験を行い、互いに他の障害を補いあう(代償作用)ことが明らかになった(林)。また外因性因子のひとつとして、培養液中にゲルマニウムを加え検討したが、明らかな変化は認めなかった(埜中)。
(4)ゲルマニウム中毒によるミトコンドリア脳筋症モデル動物として、ラットの系は確立していたが、同様の中毒実験をマウスに対して行った。しかしマウスでは、ミトコンドリア機能異常の指標であるチトクロームc酸化酵素活性低下を示す筋線維の出現が認められなかった(埜中)。
結論
変異mtDNA/正常mtDNAの比率を変化させて、細胞を正常な機能に保ち(予防)、または機能を回復させる(治療)ことをめざして進めている今回の研究において、この1年の実験結果は次年度につながる成果となった。とくに、個々の細胞レベルでのDNA、RNA、蛋白の研究が緊急かつ重要なものであることがますます明らかになり、次年度においては全体計画をふまえつつ、この点に力を集中する。また、世界ではじめて欠失mtDNAを有するマウスを作製でき(未発表)、その臨床所見を詳細に調べるとともに、治療研究に応用してゆく。

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