災害時及び災害に備えた慢性閉塞性肺疾患等の生活習慣病患者の災害脆弱性に関する研究

文献情報

文献番号
201412027A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時及び災害に備えた慢性閉塞性肺疾患等の生活習慣病患者の災害脆弱性に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-016
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木田 厚瑞( 日本医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 黒澤 一(東北大学 医学部)
  • 萩原 弘一(埼玉医科大学 医学部)
  • 土橋 邦生(群馬大学 医学部)
  • 堀江 健夫(前橋赤十字病院 呼吸器内科)
  • 桂 秀樹(東京女子医科大学八千代医療センター 呼吸器内科)
  • 若林 律子(東海大学 健康科学部)
  • 茂木 孝(日本医科大学 医学部)
  • 酒井 志野(福田 志野)(帝人ファーマ株式会社 在宅医療営業企画部)
  • 矢内 勝(石巻赤十字病院 呼吸器内科)
  • 藤本 圭作(信州大学 医学部)
  • 山本 寛(東京都健康長寿医療センター 呼吸器科)
  • 蝶名林 直彦(聖路加国際病院 呼吸器内科)
  • 山内 広平(岩手医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,930,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は防災時の基本理念に則り,患者自身による「自助」,病院・地域による「共助・公助」の実態を把握し,それぞれの問題点を明らかにし,将来への対応策を作り上げることを課題とした.26年度の研究は昨年度までの結果を踏まえ,1)患者にとって緊急時の拠り所となる在宅酸素事業者がどのような保守管理体制を構築しており,現状でどのような問題があるのかを明確にする.2)患者が緊急時にどのように情報を入手したか,実際の被災者の調査を基にして災害・緊急時の情報提供のあり方を探る,3)東日本大震災で被災しなかった慢性呼吸器疾患患者において,今後どのような患者が具体的に支援の必要な状態になるかを把握する,4)患者・家族の震災対策に対しての希望について把握する,5)災害時のアクションプランを準備する.以上,5項目に取り組んだ.
研究方法
1)酸素事業者の保守管理体制に関するアンケート調査.日本産業ガス・医療ガス協会医療ガス部門に属する事業者に対して書面アンケートを実施.アンケートの内容は患者団体連合会が要望してきた①機器所在・履歴のコンピュータ管理の有無,②24時間対応,③緊急対応,④災害対応,⑤スタッフ教育,⑥機器の品質管理,⑦衛生管理,⑧個人情報保護,の8つの観点で構成した.
2)東日本大震災被災地の在宅酸素療法患者及び関係者に対する緊急時連絡方法に関する研究. 岩手県に居住する同震災にあった患者.その家族,医療スタッフに対して震災当時の情報供給についての書面アンケート調査を実施した.
3)慢性呼吸器疾患患者における災害に関する実態調査.2014年10月までに日本における呼吸器疾患患者会に登録している患者のうち,関東以南に在住している患者.対象者に郵送にてアンケート用紙,返信用封筒を,患者会を介して送付し無記名にて回収した.
4)患者会からの要望まとめ.最終年度にあたり災害に対する備えをテーマに市民公開講座を実施した.患者,業者,医療者が集まり現状と課題について討議し,この講座を基に患者会にはさらに要望書を作成してもらった.
5)慢性閉塞性肺疾患患者への災害時アクションプランの作成に関する検討.石巻赤十字病院での震災経験を基に,災害時に使用するアクションプランを作成する.すでにCOPDの地域連携としてICONを整備しており,この中に組み込む形態とした.
結果と考察
 酸素業者への調査により,①会社レベルで自分たちの患者の情報管理が一元化できていない状態の事業者が2割ほど存在した.②災害・緊急時に患者の把握ができない事業者が少なからず存在した.③約1/3の事業者が患者の望む日常生活のサービス提供がなされていない状況であった.④6割ほどの事業者は他の医療機関,同業他社,患者団体,自治体などの組織との連携が不足していた.⑤さらに事業者からの提言ではHOTセンターの運行,費用など,より実際的な問題に踏み込んだ意見が集約された.
 岩手県におけるHOT患者の震災時の情報取得に関する調査では,震災直後から酸素に関する情報を入手した患者が7割を超えていた.震災時の情報入手にはラジオが望ましいとする意見が多かった.これは災害時の電話やメールといった手段では電源喪失時の影響が大きいといった点からも理にかなっている判断である.
 被災地以外のHOT患者650名の調査により,55.4%は過去に何らかの災害を経験していた.災害時援助の必要性について49.5%が何らかの援助が必要と回答した.援護が必要となる危険因子は息切れ,Stage III-IVの重症度,HOTまたは人工呼吸使用であった.息切れの強い重症患者を支援対象とすべきといえる.一方,HOTについて緊急カードを所持している患者はわずかに33.1%であった.
 患者会からは大災害発生時に,在宅酸素療法や在宅人工呼吸療法を実施している患者を支援・収容するセンターを一定の行政単位ごとに設置して欲しいとの要望があった.さらに災害時要援護者の避難支援ガイドラインについても,身障や介護保険基準では実情に合わない点を指摘され見直しの要求あり.
 災害時のアクションプランを作成し平時からの運動,呼吸リハビリを勧め,薬剤,感染予防,あるいは避難用品などの一般事項と供に,HOT使用者向けに平時と災害時の酸素流量などを掲載した.
結論
 これまで災害時に酸素業者の役割が大きいことが指摘されていたが,今回の調査では業者の災害時対応にもばらつきがあり,全ての業者で均一な対応が取れていないことが明らかとなった.また医療機関や自治体と業者の連携などをもっと進めていく必要がある.息切れの強い重症患者の支援体制が最も問題になると予測され,現在,各自治体で進められている避難行動要支援者名簿の作成において十分に配慮される必要がある.

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201412027B
報告書区分
総合
研究課題名
災害時及び災害に備えた慢性閉塞性肺疾患等の生活習慣病患者の災害脆弱性に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-016
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木田 厚瑞( 日本医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 黒澤 一(東北大学 医学部)
  • 萩原 弘一(埼玉医科大学 医学部)
  • 土橋 邦生(群馬大学 医学部)
  • 堀江 健夫(前橋赤十字病院 呼吸器内科)
  • 桂 秀樹(東京女子医科大学八千代医療センター 呼吸器内科)
  • 若林 律子(東海大学 健康科学部)
  • 茂木 孝(日本医科大学 医学部)
  • 酒井 志野(福田 志野)(帝人ファーマ株式会社 在宅医療営業企画部)
  • 矢内 勝(石巻赤十字病院 呼吸器内科)
  • 藤本 圭作(信州大学 医学部)
  • 山本 寛(東京都健康長寿医療センター 呼吸器科)
  • 蝶名林 直彦(聖路加国際病院 呼吸器内科)
  • 山内 広平(岩手医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災の際,急性期医療の対応は体制整備が図られていたが,慢性疾患患者への対応については,早期から経時的に問題が山積し,急性期医療とは異なる対応が必要であった.この対策として平時から非常時にも備えた患者管理・サポート体制の構築が必要である.本研究は防災時の基本理念に則り,患者自身による「自助」,病院・地域による「共助・公助」の実態を把握し,それぞれの問題点を明らかにし,将来への対応策を作り上げることを課題としている.このため本研究では,患者自身の自己管理能力を向上させ,医療者の支援の下,「自助」を最大限に発揮させること.そのための「共助」の理想的な提供方法を見つけること.さらに確実な酸素供給のため必要なシステムを構築し,「公助」を普及させることを大きな目的とした.
研究方法
研究対象・内容は大きく3区分される.第1は実際の被災地で何が問題となったかを把握するための患者実態調査である.これには東北および関東の被災地の患者を対象とした.第2は患者の「自助」を支援・教育するための医療体制に関する調査研究である.第3は患者を取り巻く「共助・公助」のシステムが現状でどこまで機能し,何が問題となるかを把握するため自治体および地域医師会,酸素業者を対象とした調査を実施した.以上を基にして整備すべき事項の提言書とマニュアル(項目案)を作成した.
結果と考察
 被災地患者の実態調査により,発災後にCOPDや喘息の増悪,肺炎などの発症が日を追って増加していた.また在宅酸素療法(HOT)患者は酸素を求めて医療機関に駆け込んだが,多くの患者は軽症で酸素が続けられれば大過ない状態であり,このため酸素業者の迅速な対応によるHOTセンターの立ち上げが功を奏したといえる.しかし,それでもHOT患者の2割は呼吸不全を来たし,入院治療が必要となった.その後に続いた計画停電も医療機関に少なからず影響を与え,千葉県内ではHOT・人工呼吸患者への影響は18%で発生し,そのうち病院や酸素業者への問い合わせが72%と最多であった.岩手では震災直後にHOTに関する情報提供を受けていたのは75%であり,うち60%は酸素業者の直接訪問であった.患者の84.6%が今後は情報提供方法としてラジオの利用が望ましいと回答した.これらの結果は災害への備えとして個人の自助を高めておくのみならず,医療使節・酸素業者の連携が極めて重要であることが明らかであった.
 患者の教育体制・指導状況については,対象HOT患者の60%が医療者から緊急時の対応について指導を受けていないと回答した.緊急時に酸素濃縮器が使用できない場合の対応法について尋ねると50%が携帯ボンベへの切り替えと回答し,携帯ボンベを持たない患者は47.7%が酸素業者への連絡と回答した.COPD患者では教育状態の指標であるLINQスコアが不良な患者ほどHOTについての知識も不足していた.患者会に属するHOT患者の調査では約半数が災害時に何らかの支援が必要と回答した.一方で緊急カードの常備はわずかに33%であった.肺機能が重症,あるいは息切れが高度なほど災害時の援助の必要性は高かった.13.2%の患者は災害時にどうすればよいか判らないと回答していた.これらは普段から患者の知識・理解度を把握しておかなければ,対処できない問題であり,平時の評価が重要であることが改めて示された.
 共助・公助の調査では,自治体の対応状況では多くの自治体がHOT患者を災害時要援護者の対象としていたが,一方で身体障害者手帳や介護保険による対象基準が厳しく,現状ではHOT患者に向けた対応は不十分であった.酸素業者への調査では12%の業者で患者情報管理に問題有り,緊急対応についても19%の業者で担当者任せとなっており,全体としての情報共有に問題があった.自治体や医療機関との事前協議を行っている業者も半数に満たない状況であった.松本市では自治体が中心となり,災害時医療救護活動マニュアルが作成され,ここにHOT患者の対応方法も集約しており,さらにすでにHOTセンター立ち上げ訓練も実施されているという.
 以上を元に災害対応マニュアルを整備し,HOTセンターの立ち上げを提言する.
結論
現状のままでは将来の災害に対して,慢性呼吸器疾患患者,HOT・人工呼吸患者への対応は不十分となり大きな被害が出る可能性が高い.個人情報の管理を進めつつも,災害時には柔軟に利用できる制度を生かし,早期に避難行動要支援者名簿を整備し,特に身障手帳・介護保険では適切な評価ができないHOT患者にも配慮した制度設計が必要である.また医療者・酸素業者については相互依存ではなく,より実際的な連携を事前構築する必要がある.松本市の対策は解決策の一つとして注目に値する.

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201412027C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 災害対策としての患者教育のあり方について,現状の患者教育ではまだ不備のあることが明らかとなった.特に在宅酸素療法(HOT)患者については多くの患者が緊急時の対策を把握しておらず,現行の教育方法の再考が求められた.また酸素使用のアドヒアランスは疾患全体の管理状況と関連しており,包括的な指導が必要であることが明らかとなった.
 HOT患者の教育状態を把握する手法について質問票を作成し、ある程度の効果が見込めた.今後,論文投稿し日時用臨床における普及を図る.
臨床的観点からの成果
災害医療における患者,医療者,酸素業者,自治体との関係においてどこにどのような問題があるのかを明らかにした.医療者については普段の診療から緊急時対策についての説明,教育が不十分であること,酸素業者や自治体における医療連携に個人情報管理の課題が多いことが明らかとなった.
国内のどの地域にも共通する医療システム上の問題点を明らかにしており,個人情報の取り扱いに関して災害医療における特殊性を広く理解しておく必要性を示した.今後の防災医療における呼吸器領域の基礎データとなると考える.
ガイドライン等の開発
災害対策マニュアルとして、2016年、「慢性呼吸器疾患患者の大災害対策:チーム・アプローチのための情報」をメディカルレビュー社より発刊した。
その他行政的観点からの成果
災害時対策の一環としてHOTセンターの設置を提言した.東日本大震災においてこの方法が有効であったという実績を踏まえ,さらに自治体・業者・医療機関と連携して計画的に整備し,今後の大震災への医療対策として優先的に取り組む必要がある.これを設置するにあたり留意すべき基本的事項を提言としてまとめた.各自治体における要援護者支援制度において慢性呼吸器疾患患者の対策が不十分である可能性,特にHOT患者への配慮が不足している点が明確となった.患者団体と連携し今後必要な法的整備に対しての修正要望を明らかにした.
その他のインパクト
3年間の調査研究を基に市民公開シンポジウムを都内で実施した(平成26年12月6日).医療者,患者団体,酸素業者,マスコミを含め,慢性呼吸器疾患患者における災害時医療の問題点を議論した.さらにこの様子は毎日新聞を始め,地方紙にも広く掲載された.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
市民公開シンポジウム「呼吸器病患者は災害にどのようにそなえておくべきか?~東日本大震災による経験から~」開催。さらにこの様子は毎日新聞を始め、地方紙にも広く掲載された。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamura N, Suzuki N, Nakajima Y, Utsumi Y, et al
Scedosporium aurantiacum brain abscess after near-drowning in a survivor of a tsunami in Japan
Respir Investig , 51 (4) , 207-211  (2013)
10.1016/j.resinv.2013.07.001

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
2018-06-19

収支報告書

文献番号
201412027Z