温泉利用が健康づくりにもたらす総合的効果についてのエビデンスに関する研究

文献情報

文献番号
201412013A
報告書区分
総括
研究課題名
温泉利用が健康づくりにもたらす総合的効果についてのエビデンスに関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
前田 豊樹(九州大学病院別府病院 大学病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,140,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
温泉地別府市は、温泉に関する疫学調査を行うのに最適な条件にある。わが国は、現在超高齢化社会を抱えており、非侵襲性で経済的な補助治療の一つとしての温泉の医療応用に向けて、再評価することが必要である。本研究は、この問題に応えるべく、大規模疫学調査、臨床研究、動物実験、細胞実験など、多方面で現代の研究手法により温泉の医用効果を探索して温泉の医用効果を検証し、わが国の医療の現状と将来における温泉医療のあり方を考える上での基礎データを提供することを目的としている。
研究方法
 疫学研究:最終年度は、温泉入浴頻度、温泉浸漬時間、温泉利用期間、温泉利用時間帯、利用泉質と生活習慣病をふくむ14疾患と異なる種類の17種の悪性腫瘍性疾患の最近1年間の既往の有無について解析し、これらを逐一生涯既往の結果と照合した。これにより、本当に温泉の入浴法が疾患発症に影響しているかどうかの確認を行った。さらに、温泉入浴パターンが、年齢により異なる面があったため、男女とも、年齢が入浴パターンに影響されない再グループ化した条件の下で、温泉効果が再確認されるか最終検証を行った。これを、生涯既往疾患と最近1年の既往疾患の両方で行い、疾患既往と温泉利用の関連が、双方で確認できた場合に温泉利用がその疾患の予防効果につながると判定した。
 臨床研究:前平均4週間の入院鉱泥浴治療による16名の線維筋痛症患者の疼痛緩和効果の検証、4週間連日の炭酸入浴剤利用による8人の外来糖尿病患者におけるヒト血管内皮機能の変化の追跡を行った。
結果と考察
 疾患未既往群と各疾患既往者とを温泉利用状況ごとに対比させて、利用条件ごとの利用率の有意差を検討した。すなわち、浸漬時間、温泉利用時間帯、利用泉質別に各疾患既往との関連を検討した。さらに、利用泉質に関して検討を加えた。利用数から解析可能なものは、単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉の3つに絞られた。最終的に、高血圧、高脂血症、うつ病、慢性肝炎、気管支喘息が候補として残った。高血圧は、他の多くの動脈硬化性疾患の素地となるため、温泉入浴による高血圧発症抑制は、二次的に動脈硬化性疾患の発症抑制につながる可能性がある。高血圧のほか、高脂血症に対する温泉の効果が伺え、虚血性心疾患、脳卒中、腎臓病などの動脈硬化性疾患についても、温泉利用による発症抑止効果が潜在的に存在すると予想される。泉質については、最終候補6疾患についての検討で、炭酸水素塩泉浴と塩化物泉浴に有用性が認められた。炭酸水素塩泉では、その血管拡張効果から温熱浸透効果が高いことが生体への効果を生み出している可能性があると推測している。  
 心筋症患者に対する温浴の効果:
慢性心不全患者の、温泉治療において、BNPやCRPの低下から、心筋トレーニング効果と炎症性サイトカインの排出促進が考えられる。心臓リハビリテーションにおいて温泉プール浴の有用性が示されている。 
 糖尿病患者における炭酸入浴:同年齢層の24名の糖尿病患者 を対象に、炭酸入浴剤入りの湯(~200ppm 炭酸ガス)に連日4週間入浴(16名)した際の、血管内皮機能への影響を、水道水の沸かし湯浴の8患者と比較して検討した。その結果、脈波伝導速度の低下とHbA1c8.0%以下の患者での血管拡張が観察された。炭酸入浴では、末梢血管拡張が促され、末梢循環が著しく改善されると考えられる。この反復で血管の柔軟性も改善する可能性がある。炭酸入浴では、血圧への有意な影響はないが、今回の検討では、末梢の細動脈や小動脈への影響に比べ、中大動脈への影響が小さかったからかもしれない。今回の解析では、炭酸浴は、糖尿病患者に対して、血糖降下作用は期待できないが、末梢の動脈硬化の伸展抑制には有効である可能性が示唆された。
 線維筋痛症患者への鉱泥浴の鎮痛効果:慢性疼痛性疾患である線維筋痛症患者16名に対する4週間の40℃10分平日連日鉱泥浴入浴前後で比較すると、疼痛、うつ状態スケールの改善と、CRPの有意な低下を認めた。鉱泥浴は、深部体温上昇効果が高く、細循環を改善し、疼痛原因物質の対外排出が促されていると考えている。本検討は、薬剤既治療の線維筋痛症患者を対象としているが、その疼痛を半分程度に軽減できたことは、極めて有効な治療と言える。
結論
 温泉浴に高血圧、高脂血症、うつ病、慢性肝炎、気管支喘息の予防効果、動脈硬化の伸展抑止効果、慢性疼痛緩和効果、心機能の改善効果、体細胞の抗老化促進効果が伺える調査結果を得た。さらに、慢性心不全、線維筋痛症に対して治療効果も示すことが出来た。高血圧や高脂血症の抑制は動脈硬化性疾患の抑制につながるであろう。同様に慢性肝炎の抑止は、肝硬変、肝がんの抑止につながる。このように二次的に他疾患の発症予防につながる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201412013B
報告書区分
総合
研究課題名
温泉利用が健康づくりにもたらす総合的効果についてのエビデンスに関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
前田 豊樹(九州大学病院別府病院 大学病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
九州大学病院別府病院は温泉地別府において温泉の医用効果を研究してきた歴史を有する。現在、高齢者に向けた非侵襲性治療の整備が急務であり、温泉治療はその現状にあった統合医療の一つである。本研究は、九州大学病院別府病院が、別府市、別府市医師会との共同で進める疫学調査を中心に、臨床研究、動物実験、細胞実験を合わせて駆使し、温泉の医用効果を検証し、わが国の医療における温泉医療応用を推進することを目的としている。
研究方法
疫学研究:疾患既往歴と温泉利用状況をアンケート調査して、温泉利用の疾病罹患への影響を探るものである。65歳以上の別府市民2万人を対象とした。性別、年齢、給湯設備、温泉入浴頻度、温泉浸漬時間、温泉利用期間、温泉利用時間帯、生活習慣病をふくむ14疾患既往の有無をアンケート調査した。臨床研究:心筋症患者32名に対する2週間の入院温泉治療前後の心機能追跡と、入院鉱泥浴治療による疼痛緩和効果の検証、炭酸入浴剤利用による糖尿病患者のヒト血管内皮機能の変化の臨床研究を行った 動物実験:高血圧発症ラットに高食塩食を摂取させ、連日入浴させ高血圧発症抑制効果を検証した。細胞実験:ヒト臍帯静脈血管内皮細胞を用い、42℃条件下でテロメア関連蛋白、ヒートショック蛋白、アポトーシス関連蛋白の発現の推移を観察した。

結果と考察
アンケート疫学調査: 11,058通の有効回答を得た。性差、年齢分布が概ね全体像を反映していた。利用泉質は主に、単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉であった。温泉利用と既往歴の因果関係を探るのに、過去1年以内の疾患発症についての質問項目を設けた。疾患関連利用状況が、生涯既往と1年以内既往の両方で同様の結果であれば、温泉利用が疾患発症に何らかの影響を及ぼしたと予想される。最終的に、高血圧、高脂血症、うつ病、慢性肝炎、気管支喘息が候補として残った。高血圧や高脂血症の発症抑制は、虚血性心疾患、脳卒中、腎臓病、不整脈の発症抑止効果にもつながると予想される。泉質は、炭酸水素塩泉浴と塩化物泉浴に有用性が認められた。心筋症患者に対する温浴の効果:慢性心不全患者を対象に、入院温浴治療を行った。治療群において心機能マーカーであるBNPや炎症マーカーである高感度CRPが有意に低下した。血管拡張による循環動態への影響から、心不全に伴う有害な全身性の炎症性因子の排出を促進している可能性がある。糖尿病患者における炭酸入浴:24名の糖尿病患者を対象に、炭酸入浴剤入りの湯(~200ppm 炭酸ガス)に連日4週間入浴(16名)した。その結果、脈波伝導速度の低下とHbA1c8.0%以下の患者での血管拡張が観察された。これは末梢の動脈硬化の伸展抑制に有効と思われる。線維筋痛症患者への鉱泥浴の鎮痛効果:慢性疼痛性疾患である線維筋痛症患者16名に対する鉱泥浴の鎮痛効果を検証した。疼痛、うつ状態スケールの改善、CRPの低下を認めた。特に疼痛は半減した。鉱泥浴は、深部体温がよく上昇し、40℃10分の温浴でも著明な発汗が続く。このことが、疼痛原因物質の体外排出を促していると思われる。ラット温浴実験:ダール食塩感受性ラットを4週間高食塩餌とし、ケージで温浴させ、連日温浴群で高血圧発症が部分的に抑制された。その効果は心筋HSP90上昇と平行していた。これは、温浴による高血圧抑止効果と継続的温浴により心筋細胞機能の回復、長寿化の可能性を示唆している。ヒト臍帯静脈内皮細胞高温培養実験:42℃培養でテロメラーゼ蛋白や熱ショック蛋白発現の上昇やリン酸化p53の出現、抗アポトーシス効果が誘導された。これは一種のフォルミシス効果である可能性がある。
結論
温泉浴に高血圧、高脂血症、うつ病、慢性肝炎、気管支喘息の予防効果、動脈硬化の伸展抑止効果、慢性疼痛緩和効果、心機能の改善効果、抗老化効果が伺えた。前述の疾患は、健康寿命、QOLに影響を及ぼす疾患である。というのも、これらは、虚血性心疾患、脳卒中、慢性腎臓病、動脈硬化性閉塞症、呼吸不全、肝硬変、肝がんの素地となるからである。これらの疾患は、超高齢社会において、予防と治療の一層の充実が求められている。わが国は火山国であり、温泉は至る所に存在する。この地の利を生かし、温泉を医療に応用することは、高齢者に優しく、医療費負担も少ないという、本邦が目指すべき医療の姿といえよう。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201412013C

収支報告書

文献番号
201412013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,250,000円
(2)補助金確定額
1,250,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 34,750円
人件費・謝金 568,264円
旅費 417,970円
その他 119,016円
間接経費 110,000円
合計 1,250,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
-