大規模コホートを用いた急性心筋梗塞における早期再灌流療法に向けた医療連携システム構築と効果的な患者教育のためのエビデンス構築に関する研究

文献情報

文献番号
201412002A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模コホートを用いた急性心筋梗塞における早期再灌流療法に向けた医療連携システム構築と効果的な患者教育のためのエビデンス構築に関する研究
課題番号
H24-心筋-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木村 剛(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀江 稔(滋賀医科大学 呼吸循環器内科)
  • 中川 義久(天理よろづ相談所病院 循環器内科)
  • 古川 裕(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、CREDO-Kyoto AMI Registryに登録されている患者を対象に発症から来院までに関する情報を調査するとともに長期予後を評価することで、急性心筋梗塞における発症から来院までの経緯が長期予後に及ぼす影響を検討する目的で計画された。具体的には、来院形態や施設間搬送における地理的関係の長期予後への影響を検討し、早期再灌流療法に向けた患者搬送を含む医療連携システムの形成に必要なエビデンスを構築することである。
研究方法
本研究では、CREDO-Kyoto AMI Registryに登録された対象患者に対して、発症から来院までに関する情報を調査するとともに長期予後を評価することで、急性心筋梗塞における発症から来院までの経緯が長期予後に及ぼす影響を検討した。研究3年次となる平成26年度では、発症24時間以内のST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)のうち、冠動脈形成術(PCI)非施行施設からPCI施行施設に施設間搬送が行われた患者群(Transfer群)と直接PCI施行施設に来院した患者群(Direct admission群)の患者背景及び長期予後の違いを検討した。
結果と考察
本研究では、登録患者のうち発症24時間以内のSTEMI症例3942例を対象とした。来院形態の内訳は、PCI施行施設に直接救急搬送された症例1363例(35%)、PCI施行施設に独歩来院した症例732例(19%)、院内発症例56例(1.4%)、PCI非施行施設からの施設間搬送症例1725例 (44%)であった。本解析では、施設間搬送を受けた1725例(Tranfer群)と直接PCI施行施設へ来院した症例(Direct admission群)2095例の比較を行った。発症-来院時間(平均(四分位範囲))に関しては、Transfer群3.5(2.2-7.3)時間に対してDirect admission群1.5(0.8-3.4)時間とTransfer群で有意に遅延していた(P<0.001)。一方、来院-バルーン時間に関しては、Transfer群78(54-108)分、Direct admission群108(72-144)分とDirect admission群で有意に長かった (P<0.001)。総虚血時間に関しては、Transfer群5.0(3.5-9.1)時間、Direct admission群3.6(2.5-5.9)時間とTransfer群で有意に長かった (P<0.001)。5年時までの死亡/心不全入院の発生率は、Direct admission群22.2%に対してTransfer群では26.9%と有意にTransfer群において高かった(log-rank P<0.001)。この結果は交絡因子を補正した多変量解析後も同様であった(ハザード比 1.22、95%信頼区間1.07-1.40、P<0.001)。本研究によって、海外に比較してPrimary PCI可能な医療機関が多いとされる本邦においてもSTEMI患者の約40%がPCI非施行施設を経由してPCI可能な施設に施設間搬送されている実態が明らかになった。また、PCI非施行施設を経由した場合には総虚血時間が有意に長くなり、その結果、長期予後も不良となることが示された。これらの結果を踏まえると、今後更なる急性心筋梗塞患者の予後改善のためには、STEMI患者が直接PCI施行可能な医療機関に搬送される割合を増加させる試みが重要と考えられる。具体的には、急性心筋梗塞の可能性のある患者をPCI可能な医療機関に直接搬送する救急システムの構築や救急車内でのプレホスピタル12誘導心電図の導入などが考えられる。本研究ではPCI非施行施設への来院形態や患者の滞在時間に関する情報が得られておらず、PCI非施行施設に受診したSTEMI患者の更なる詳細な臨床データの蓄積も今後の検討課題と考えられる。
結論
発症24時間以内のSTEMI患者において、施設間搬送された患者は、PCI施行施設に直接搬送された患者と比較して、有意に長期の臨床成績が不良であった。更なるSTEMI患者の予後改善のためには、今後STEMI患者が直接PCI施行可能な医療機関に搬送される割合を増加させる試みが必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201412002B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模コホートを用いた急性心筋梗塞における早期再灌流療法に向けた医療連携システム構築と効果的な患者教育のためのエビデンス構築に関する研究
課題番号
H24-心筋-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木村 剛(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀江 稔(滋賀医科大学 呼吸循環器内科)
  • 中川 義久(天理よろづ相談所病院 循環器内科)
  • 古川 裕(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、CREDO-Kyoto AMI Registryに登録されている患者を対象に発症から来院までに関する情報を調査するとともに長期予後を評価することで、急性心筋梗塞における発症から来院までの経緯が長期予後に及ぼす影響を検討する目的で計画された。
研究方法
本研究では、Primary PCIを受けた発症24時間以内のST上昇型心筋梗塞(STEMI)症例3942例を対象として、発症から来院までに関する情報を調査するとともに長期予後を評価することで、急性心筋梗塞における発症から来院までの経緯が長期予後に及ぼす影響を検討した。
結果と考察
発症から来院までの時間が2時間以上を要していた症例を来院遅延症例と定義し、多変量解析により独立遅延因子を検討したところ、75歳以上の高齢者、女性、時間外発症(Off hours)が独立遅延因子となった。その一方で、心筋梗塞の既往、救急車による搬送、心原性ショックについては早期受診の独立因子であった。本研究においてPrimary PCIを施行された発症24時間以内のSTEMI症例のなかで、44%の症例がPrimary PCI非施行施設からPrimary PCI施行施設へ施設間搬送を受けていた。5年までの死亡/心不全入院の発症率は、直接PCI施行施設に来院した症例22.2%に対して施設間搬送症例26.9%と有意に不良であった(log-rank P<0.001)。この結果は交絡因子を補正した多変量解析後も同様であった(ハザード比 1.22、95%信頼区間1.07-1.40、P<0.001)。しかしながら施設間搬送症例の搬送距離の中央値は8kmで、搬送距離による予後の違いは認めなかった。本研究により、本邦における急性心筋梗塞症例の医療機関受診までの経緯の実態が明らかとなった。Primary PCI施行施設に救急車による直接搬送を受けた症例の割合はいまだ十分とはいえず、施設間搬送を受けた症例の予後は不良であった。
結論
更なる急性心筋梗塞の予後改善のためには、急性心筋梗塞患者の多くを直接Primary PCI施行施設に搬送することを可能にする医療連携システムの構築と来院遅延を来すことの多い高齢者や女性を中心とした広く一般社会に向けた早期受診を促す啓発活動が重要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201412002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により本邦における急性心筋梗塞の発症から来院までの経緯を含めたプレホスピタルでの情報が収集でき、その実態が明らかになった。PCI施行可能な施設の多い本邦においてもST上昇型急性心筋梗塞症例の約40%が施設間搬送をうけており、そうした症例は直接PCI可能な施設に搬送された症例に比べて予後不良であることが明らかになった。その一方で施設間搬送が必要になった際には、施設間搬送自体は中央値8kmと比較的近隣の施設に搬送されており、搬送距離によって予後が変わらないことも明らかとなった。
臨床的観点からの成果
発症から来院までの独立遅延因子は高齢、女性、時間外発症であり、早期受診の独立因子は心筋梗塞既往、心原性ショック、救急車による搬送であった。しかし、本研究では救急車による直接搬入は35%に留まり、直接搬送例と比較し、長期予後が有意に不良であった。更なる急性心筋梗塞の予後改善のためには、急性心筋梗塞患者の多くを直接Primary PCI施行施設に搬送することを可能にする医療連携システムの構築と来院遅延を来すことの多い対象を中心に広く社会に向けた早期受診を促す啓発活動が重要であると考えられる。
ガイドライン等の開発
本研究の結果を受け、今後更なる急性心筋梗塞の予後改善のためには、急性心筋梗塞患者の多くを直接Primary PCI施行施設に搬送することを可能にする医療連携システムの構築が必要となってくるものと思われるが、その具体的な方策として、プレホスピタル12誘導心電図といった病院前診断の導入など様々な取り組みが進んでいくものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
本研究の結果では、約40%のSTEMI症例が何らかの施設間搬送を受けている実態が明らかになったことから、今後更なる急性心筋梗塞の予後改善のために、急性心筋梗塞患者の多くを直接Primary PCI施行施設に搬送することを可能にする医療連携システムの構築が望まれる。
その他のインパクト
救急現場における医療連携システムの構築に加えて、本研究で明らかになった急性心筋梗塞発症時の医療機関受診に関する遅延因子である高齢者や女性を含めた広く一般社会に向けた急性心筋梗塞発症時の早期医療機関受診を促す啓発活動が重要であると考えられ、今後具体的な取り組みに繋がっていくものと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Watanabe H, Shiomi H, Nakatsuma K, et al.
The Clinical Efficacy of Thrombus Aspiration on Five-year Clinical Outcomes in Patients with ST-segment Elevation Acute Myocardial Infarction Undergoing Percutaneous Coronary Intervention.
J Am Heart Assoc.  (2015)
原著論文2
Nakatsuma K, Shiomi H, Watanabe H, et al.
Comparison of long-term mortality after acute myocardial infarction treated by percutaneous coronary intervention in patients living alone versus not living alone at the time of hospitalization.
Am J Cardiol. , 15 (114(4)) , 522-527  (2014)
10.1016/j.amjcard.2014.05.029
原著論文3
Taniguchi T, Shiomi H, Toyota T, et al.
Effect of preinfarction angina pectoris on long-term survival in patients with ST-segment elevation myocardial infarction who underwent primary percutaneous coronary intervention.
Am J Cardiol. , 15 (114(8)) , 1179-1186  (2014)
10.1016/j.amjcard.2014.07.038.

公開日・更新日

公開日
2015-09-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201412002Z