川崎病のサーベイランスとその治療法に関する研究

文献情報

文献番号
199800350A
報告書区分
総括
研究課題名
川崎病のサーベイランスとその治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
原田 研介(日本大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柳川 洋(自治医科大学公衆衛生)
  • 加藤裕久(久留米大学医学部)
  • 古川 漸(山口大学医学部)
  • 薗部友良(日本赤十字社医療センター)
  • 直江史郎(東邦大学大橋病院、病院病理学)
  • 川崎富作(日本川崎病研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
川崎病は1967年川崎富作博士によって初めて報告され、世界的にもKawasaki diseaseとして認められている。乳幼児に多く、その合併症として冠動脈瘤を伴い、死に至ることもある。その原因はまだ究明されていない。1970年から、厚生省川崎病研究班により2年毎のサーベイランスが全国的に行われており、1996年までの調査が終了している。毎年約6,000人の新しい患者が発生しており、その発生頻度は上昇している。今までの継続されたサーベイランスの結果は、世界的にも貴重なものであり、これを永続することは、日本の世界に対する義務である。この調査によって、患者数の発生状況を知り、より効果的な治療法の研究を行うことにより、小児慢性特定疾患対策の一つとして、医療費の削減へ繋がると同時に、小児の健康維持、増進に寄与できる。
研究方法
川崎病のサーベイランスについて;第14回の川崎病のサーベイランス(1995、1996年の調査)が昨年(1997年)終了しており、この結果から患者12,531人を対象に、患者住所の地域別8区分(北海道、東北、関東・甲信越、東海・北陸、近畿、中国、四国、九州・沖縄)にわけて患者発生の地域差を解析し、 小地域単位の流行について観察を行った。また、第15回のサーベイランスとして1997、1998の2年間を対象とし、すでに全国100床以上の病院に調査票を送り、川崎病の発生状況、合併症の発生状況、検査所見等の回答を依頼している。川崎病の治療法について;ガンマグロブリン療法を選択的に行っている施設の治療成績を明らかにするため、当該施設の過去10年間のデータをまとめた。すでに米国で良好な成績を認められているガンマグロブリン大量療法(1g/kgもしくは2g/kg1回投与)についての検討を行うため、過去に行われた各施設での治療例を集積する準備を行う。ガンマグロブリン投与後も発熱が持続する不応例に対する治療法としてステロイドパルス療法の効果を検討する。また本疾患の免疫学的な特徴を研究することによって、病因究明と特異的治療法の手がかりがえられる可能性があり、本年度は末梢血のモノサイト / マクロファージの活性化について検討した。
・長期予後について冠動脈障害を合併した症例の長期予後を検討し、今後の医療の必要性、医療のあり方を予測する。本年度は、冠動脈後遺症を残した症例に新たな冠動脈瘤が出現、拡大する例について検討を行った。さらに、これまで収集した剖検例の病理学的所見と治療法との関連について検討を行い、冠動脈瘤の予防と管理についてより有効な方法を検討する。本年度は冠動脈破裂例とステロイド使用との関連について検討した。
結果と考察
・ 川崎病のサーベイランス第15回全国調査は2,672施設を調査対象とした。中間成績として、1999年2月末現在の回答数は約1,200施設(44%)、報告された患者数はおよそ7,500人であった。川崎病全国調査によって1996年までの患者発生状況では、1986年の流行以降10年間、全国規模の流行はみられていないが、小児の母数が減少しているため、発生頻度は増加しつつある。第14回全国調査患者の小地域単位の観察においては、1995年、96年ともに、罹患率は1.5倍前後の地域間格差がみられた。東北、東海・北陸については、他の地域に比べて罹患率が全般に低く、明かな流行の山も認められなかった。北海道、関東・甲信越、近畿、中国、四国、九州地域では罹患率が増加しており、局地的には数ヶ月単位で連続して患者発生の増加がみられた。今回の観察により日本全体としては2年間の罹患率に大きな差はみられなかったが、両年とも罹患率に地域間の開きがあることと全国各地域において局地的な流行を繰り返していることが明らかになった。原因究明に当たっては、現在も感染症の可能性を最も重視すべきであると考える。今後、第15回全国調査の調査結果をもとに、局地流行の疫学像をさらに詳細に観察する予定である。
・川崎病の治療法について
厚生省の川崎病に対するγ-globulin適応基準(原田スコア)が提唱された1989年にから1998年までの10年間に当該施設に入院した急性期川崎病に対して、この基準による選択的γ-globulin療法(IVGG)を行った結果、258例中203例(78.7%)に対してIVGGが行われた。IVGGの適応にならなかった55例中、2例(3.6%)に一過性の冠動脈拡大を認めたが、遠隔期まで残る冠動脈病変は発生せず、原田スコアによるIVGGの適応判定は満足できる結果を得ている。スコア判定のために血液検査回数が増えたとは言えなかった。3回以上の検査を判定に用いることで目標より投与率が増えた反面、合併症予防には良好な結果を得たと考えられる。すでに米国で良好な成績を認められているガンマグロブリン大量療法(1g/kgもしくは2g/kg1回投与)についての検討を、過去に行われた各施設での治療例を集積して行う。急性期の川崎病において、炎症性サイトカインのみを産生する末梢血CD14+CD16+モノサイト / マクロファージ、CD14+モノサイト / マクロファージおよびその比率は、いずれも回復期と比較して有意に増加していた。また急性期川崎病の末梢血CD14+モノサイト / マクロファージのペルオキシダーゼ(POX)染色とPM-2K抗体との反応では、POX陽性顆粒を有するPM-2K抗体陰性細胞とPOX陽性顆粒を有しないPM-2K抗体陽性細胞が混在していたが、回復期の川崎病、健常小児、伝染性単核球症では前者のみであった。これらの現象は重症細菌感染症においても見られた。川崎病の末梢血ではモノサイト / マクロフ
ァージの活性化が起こっていると考えられた。
・長期予後について
遠隔期の症例に新たに冠動脈瘤が出現、拡大する例として、発症後10年以上経過して狭窄遠位部に新冠動脈瘤が形成された2例と、急性期以後の経過観察中に冠動脈瘤の拡大を認めた1例が報告、検討された。たとえ冠動脈瘤の退縮あるいは退縮傾向が見られた例でも、特に急性期の冠動脈瘤の内径が6mm以上の例では、注意深い経過観察の重要性が示唆された。また新たに形成された冠動脈瘤が破裂しないかなど、この点に関しても慎重な経過観察が必要であり、今後発症10-20年後の冠動脈造影症例が増せば、同様の症例の数が増加する可能性がある。冠動脈瘤の形成された例はもとより、冠動脈瘤の形成されなかった例での若年性冠動脈硬化症の出現に関しても経過観察の必要性が示唆された。川崎病剖検例約120例を病理組織学的に再検討したところ、動脈瘤破裂による心タンポナーデで突然死した症例は7例(6%)であった。うち6例が極期を過すぎた第20日以後に破裂しており、いずれも解熱傾向がなかったり、再燃が示唆される重症例であった。7例中6例にステロイド剤が投与されており、活動性の動脈炎が存在している時期におけるステロイド投与は十分慎重に行わなくてはならない。
結論
川崎病の発生数は1986年以降10年間、全国規模の流行はみられていないが、発生頻度としては徐々に増加しつつある。第14回の全国調査では罹患率に地域間の開きがあることと全国各地域において局地的な流行を繰り返していることが判明した。1989年からの10年間の原田スコアによるIVGGの選択的ガンマグロブリン投与の成績は満足できる結果を得ているが、投与率や検査回数、入院期間などについて経済的検討がさらに必要である。日本におけるガンマグロブリン大量(2g/kg)療法、ステロイドパルス療法の検討はまだ議論が多く、今後も検討が必要である。長期予後については、冠動脈瘤の退縮例でも、新しい瘤を形成することがあり、注意深い経過観察の重要性が示唆された。川崎病剖検例の病理組織学的再検討では、動脈瘤破裂による突然死の多くにステロイド剤が投与されており、その効果と安全性については疑問視されている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-