循環器疾患等の救命率向上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に関する研究

文献情報

文献番号
201412001A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患等の救命率向上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に関する研究
課題番号
H24-心筋-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 哲也(帝京大学医学部 救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 丸川 征四郎(医誠会病院)
  • 長尾 建(日本大学医学部駿河台日本大学病院 循環器科)
  • 森村 尚登(横浜市立大学大学院)
  • 長谷 守(札幌医科大学医学部 救急医学講座 )
  • 畑中 哲生(救急救命九州研修所)
  • 石見 拓(京都大学環境安全保健機構 附属健康科学センター)
  • 清水 直樹(東京都立小児総合医療センター)
  • 横田 裕行(日本医科大学大学院医学研究科外科系救急医学分野)
  • 田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は効果的な救急蘇生法の普及啓発で循環器疾患等による突然の心停止患者の救命率を向上することである。普及のための講習会のあり方を検討するとともに、AEDの累積設置台数の調査および市中配置のAEDの費用対効果と適正配備について検討を進める。先行研究で経皮的心肺補助装置(PCPS)を用いた救急蘇生法(ECPR)により適応のある院外心停止患者の社会復帰率が改善したことから、ECPRをより多くの適応患者により迅速・安全に施行するための科学的基盤を整備する。小児・学童の院内/院外心停止の症例の集積から解析を進めて実態を把握する。日本の分娩事情に応じた日本版新生児蘇生法ガイドラインを科学的根拠に基づいて確立し、全ての周産期医療関係者に普及させるための科学的基盤を確立する。
研究方法
胸骨圧迫とAEDの使用に単純化した簡易型CPR講習に対する自己復習の効果とマストレーニングを含む講習の普及が救急現場の実際のCPRに与える効果の検証を進めた。市中配置のAEDの増分費用対効果比(ICER)についてモンテカルロ法により信頼区間を求め、維持管理等の費用を上回るために必要な施設分類毎の利用者数を算出し感度分析を行った。基礎データであるAED累積販売台数の調査には廃棄台数調査を含め、設置台数を推定した。院外心停止患者に対するECPR症例の登録システムの構築のため、日本救急医学会が中心となって行われているJAAM-OHCAレジストリの入力項目との項目比較を行った。ECPR下の低体温療法・PCIに関する文献的考察を近年の論文で行った。PCPS実施施設の医師を対象としたECPR時のPCPS留置手技に関するアンケート結果の精査を進めるとともに、PCPS施行時の管理に関して臨床工学技士に対するアンケート調査を行った。小児院内心停止および学童院外心停止について、WEB登録システムに現段階で集積された症例を解析した。転帰の不良な乳児院外心停止については死因検索等にかかる議論を行い提言をまとめた。新生児蘇生体制について、分娩取扱施設へのアンケートを行い過去の結果と比較した。不要な酸素投与を避けるため、酸素ブレンダーの代替法として自己膨張式バッグ使用時の製品別の吸入酸素濃度について調査し、臍帯ミルキングの効果に関する調査の解析を進めた。新生児低体温療法の講習会を行い、登録事業を継続した。院内トリアージに関する実態についてのアンケート調査の解析を行った。
結果と考察
簡易型CPR講習を受講した3か月後の自己復習で6か月後の評価における胸骨圧迫回数は増加したが、正確な深さの胸骨圧迫に有意差はなかった。心肺蘇生講習の普及は対象地域の18.9%に達し、救急現場での良質なBystander CPRが43%から65%に向上した。AEDの累積販売数は636,007台で、うちPADが約81.2%であったが、廃棄台数を差し引くと推定設置台数は477,403台となった。市中配置のAEDのICERは約595万円/QALYであり、維持・管理等の費用を上回るために必要な施設利用者数は駅で10,430人などと再計算された。ECPRの症例集積にはJAAM-OHCAレジストリを基盤にするのが効率的と考えられた。PCPS留置手技を短時間に行えることには経験症例数と透視使用の有無が関連し、搬入直後に透視が使える設備と留置手技を含めたECPRの研修トレーニングの開発・普及が必要と考えられた。小児院内心停止では国際調査と比べて転帰は同等であったが、ICUでない一般病棟での発生が多かった。学童院外心停止の応需は21施設(27症例)であった。乳児院外心停止については原因検索、死因究明の体制整備などが議論された。新生児蘇生体制に関する施設アンケートではガイドラインに適合した改善が経年的にみられた。超早産児に対する臍帯ミルキングにより輸血量・回数の減少とともに重症頭蓋内出血の頻度も減少がみられた。新生児低体温療法の登録参加施設は継続して増加している。院内トリアージは73%の施設で行われ、多くは看護師が担当していたが、資格要件、結果の集計や事後検証などの課題が明らかとなった。
結論
簡易型CPR講習は一定の効果があり普及が望まれる。AEDは費用対効果を勘案した適正配置を推進すべきだが、廃棄・更新状況もふまえたAED設置台数を把握するための仕組み作りが課題である。ECPRは登録システムの構築に加えて安全迅速に行うための設備と研修トレーニングが重要となる。小児では一般病棟での心停止発生が課題で、学童院外心停止の登録、乳児心停止における原因検索と死因究明から防止策につなげる体制づくりが重要である。新生児蘇生はガイドラインに基づく体制整備と普及が重要である。院内トリアージの質の向上には教育体制や検証方法についての検討が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201412001B
報告書区分
総合
研究課題名
循環器疾患等の救命率向上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に関する研究
課題番号
H24-心筋-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 哲也(帝京大学医学部 救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 丸川 征四郎(医誠会病院)
  • 長尾 建(日本大学医学部駿河台日本大学病院循環器科)
  • 森村 尚登(横浜市立大学大学院)
  • 長谷 守(札幌医科大学医学部)
  • 畑中 哲生(救急救命九州研修所)
  • 石見 拓(京都大学環境安全保健機構 附属健康科学センター)
  • 清水 直樹(東京都立小児総合医療センター)
  • 横田 裕行(日本医科大学大学院医学研究科外科系救急医学分野)
  • 田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 浅井 康文(雄心会函館新都市病院)
  • 河野 元嗣(筑波メディカルセンター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
効果的な救急蘇生法の普及啓発で循環器疾患等による突然の心停止患者の救命率を向上する。
研究方法
胸骨圧迫とAEDの使用に単純化した簡易型CPR講習に対する自己復習の効果とマストレーニングを含む講習の普及が救急現場の実際のCPRに与える効果を検証した。市中配置のAEDのICERについてモンテカルロ法により信頼区間を求め、維持管理等の費用を上回るために必要な施設分類毎の利用者数を算出し感度分析を行った。AED累積販売数を調査して基礎データとした。院外心停止患者に対するPCPSを用いた救急蘇生法(ECPR)症例の登録システム構築のため、国内外の症例登録との項目比較を行った。SAVE-J研究でのECPR症例におけるQALYあたりの費用、ICERを算出した。ECPR下の低体温療法・PCIに関する文献的考察を近年の論文で行った。対象地域に対してGISを活用してECPRの適応患者数を推定した。PCPS実施施設の医師、臨床工学技士を対象としてECPR時のPCPS留置手技や管理に関するアンケートを行い結果を精査するとともに、マニュアルの再検討と改訂を行った。心原性院外心停止をきたした小中学生についての後方視的観察研究とともに、小児・学童の院内/院外心停止のWeb登録を開始し結果を分析した。消防本部における小児に対する口頭指導と除細動の状況を調査と、市民による小児BLS講習後の自己学習ツールの効果を検証した。転帰不良な乳児院外心停止については死因検索等にかかる提言をまとめた。院外心停止に対する自動式心マッサージ器使用症例の登録と、救急救命士が気道確保に用いる器具の添付文書における不適切な記載を調査した。新生児蘇生体制について、分娩取扱施設への経年的なアンケートを行い過去の結果と比較した。不要な酸素投与を避けるため、出生後のSpO2の経時的な正常基準値や、酸素ブレンダーの代替法として自己膨張式バッグ使用時の製品別の吸入酸素濃度について調査し、臍帯ミルキングの効果を検証した。新生児低体温療法の登録システムや、低酸素性虚血性脳症児の搬送中の体温モニタリング、予後因子に関する検討を行った。新生児蘇生に関する養育者の意識調査や、動物モデルにより高濃度酸素曝露による肺障害、人工呼吸と胸骨圧迫の順序に関する検討を行った。救急蘇生統計のデータ分析を研究方法の中心とした論文について、専門家のピア・レビューを行った。院内トリアージについて先行研究の分析とともに、医療機関に対するアンケートを行って実態を調査した。
結果と考察
簡易型CPR講習受講3か月後の自己復習で6か月後の評価時の胸骨圧迫回数は増加し、講習の普及で救急現場のCPRの質の向上がみられた。AEDの累積販売数は636,007台で、うちPADが81.2%であったが、廃棄分を差し引くと推定設置数は477,403台となった。市中配置のAEDのICERは595万円/QALYであり、維持・管理等の費用を上回るために必要な施設利用者数は駅で10,430人などであった。ECPRのICERは858万円/QALYであり、転帰不良例に費用がかかっていた。ECPRの適応患者数の推定では北海道9例、四国7例、九州25例の社会復帰の増加が見込まれた。PCPS留置手技を短時間に行えることには経験症例数と透視使用の有無が関連した。小児院内心停止では国際調査と比べて転帰は同等であったが、ICUでない一般病棟での心停止発生が多かった。学童院外心停止の応需は21施設(27症例)であった。8歳未満の小児への半自動式除細動器使用の問題点が確認された。新生児蘇生体制に関する施設アンケートではガイドラインに適合した改善が経年的にみられた。新生児低体温療法の登録参加施設が増加して全都道府県を網羅した。低体温療法の適応となるHIE児に対する搬送中の体温モニタリングは可能であり、頭部選択冷却の遅延と神経学的予後不良に関連があることが確認された。救急蘇生統計の分析によって得られた個々の論文に応じて、その都度に活動プロトコルを修正するべきではない。院内トリアージは73%の施設で行われ、多くは看護師が担当していたが、資格要件、結果の集計や事後検証などの課題が明らかとなった。
結論
簡易型CPR講習は一定の効果があり普及が望まれる。AEDは費用対効果を勘案した適正配置を推進すべきだが、設置数を把握するための仕組み作りが課題である。ECPRは登録システムの構築に加えて安全迅速に行うための設備と研修トレーニングが重要となる。小児では一般病棟での心停止発生が課題で、学童院外心停止の登録、乳児心停止における原因検索と死因究明から防止策につなげる体制づくりが重要である。新生児蘇生はガイドラインに基づく体制整備と普及が重要である。院内トリアージの質の向上には教育体制や検証方法についての検討が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201412001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
簡易型CPR講習を受講した3か月後の自己復習で6か月後の胸骨圧迫回数は増加した。CPR講習の普及で救急現場のCPRの質が向上した。AEDの推定設置台数は約47万台となった。市中に配置されたAEDのICERは約595万円/QALYであり、維持・管理等の費用を上回るために必要な施設利用者数は駅で10,430人であった。ECPR導入のICER は858万円/ QALYであった。学童院外心停止は58例が登録され学校管理下は32例(55%)であった。新生児低体温療法登録参加施設は157施設となった。
臨床的観点からの成果
救急現場のCPRの質を向上するためには簡易型を含むCPR講習の更なる普及が必要と判明した。AEDの設置台数を把握するためには廃棄台数の把握が重要である。AEDを市中に配置することの費用対効果は妥当であるが、施設利用者数による計画的配置が望まれた。ECPRの費用対効果を改善するためには、対象患者をより厳密にする必要がある。学童院外心停止に対しては学校におけるCPR教育とAEDの普及が重要である。新生児蘇生体制について国際ガイドラインに基づいた蘇生法教育と設備の普及が必要である。
ガイドライン等の開発
2012年8月31日日本版(JRC)救急蘇生ガイドライン2010に基づき救急救命士等が行う救急業務活動に関する報告書の取りまとめについて(厚生労働省医政局指導課事務連絡)。2012年9月21日「非医療従事者によるAEDの使用について」の一部改正及び「AEDの講習の内容の取りまとめについて」の廃止について(医政発0921第11号通知)。2013年9月27日自動体外式除細動器(AED)の適正配置に関するガイドラインの公表について(厚生労働省医政局指導課)。以上について研究を参考にして策定に協力した。
その他行政的観点からの成果
2015年10月15日に発表された国際蘇生連絡委員会(ILCOR:International Liaison Committee on Resuscitation)の心肺蘇生コンセンサスにおいて、科学的コンセンサスを策定する根拠となった。米国、欧州とわが国の心肺蘇生ガイドラインの改訂作業が現在進められており、市民、救急隊員、救急救命士、医師等の救急蘇生に活かされるため、救急活動基準や搬送基準などの行政による通知等に反映される予定である。
その他のインパクト
2013年10月24日に東京で開催されたアジア蘇生科学シンポジウム(A-ReSS)などの国際シンポジウムにおいて研究成果の一部を発表して、内外の本分野における第一人者の医学者と研究について情報の共有を行った。その他、救急蘇生に関連する日本救急医学会、日本循環器学会、日本集中治療医学会等の国内学会、米国のAmerican Heart Association学術集会、欧州のEuropean Resuscitation Concil学術集会等の国際学会で本研究による報告について議論された。

発表件数

原著論文(和文)
8件
心臓、体外循環技術、Clinical Engineering、日本周産期・新生児医学会雑誌、周産期医学、小児内科
原著論文(英文等)
8件
Resuscitation、Ther Hypothermia Temp Management、Pediatr Int、J Perinatol、Int J Dev Neurosci
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
日本脳低温療法学会、日本救急医学会、日本冠疾患学会、日本体外循環技術医学会、日本循環器学会、日本産婦人科・新生児血液学会学術集会、日本周産期新生児学会、未熟児新生児学会
学会発表(国際学会等)
14件
AHA ReSS、IHTMS、International Symposium of Pediatrics
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tetsuya Sakamoto, Naoto Morimura, Ken Nagao, et al.
Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation versus conventional cardiopulmonary resuscitation in adults with out-of-hospital cardiac arrest: A prospective observational study
Resuscitation , 85 , 762-768  (2014)
10.1016/j.resuscitation.2014.01.031
原著論文2
Chika Nishiyama, Taku Iwami, Yukiko Murakami,et al.
Effectiveness of simplified 15-min refresher BLS training program: Arandomized controlled trial
Resuscitation  (2015)
10.1016/j.resuscitation.2015.02.015

公開日・更新日

公開日
2015-09-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201412001Z