先天異常モニタリング等に関する研究

文献情報

文献番号
199800349A
報告書区分
総括
研究課題名
先天異常モニタリング等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
住吉 好雄(横浜市立大学客員教授、横浜市愛児センター所長)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦において、様々な催奇形因子にたいし継続的監視体制を行う事はわが国における国民の健康の維持、向上のために重要なことである。本研究はこの目的のためにも全国レベルでの先天異常の継続的モニタリングを行うことにより有害な環境因子をはじめとする種々の催奇形因子を早期に特定し、さらに学術的検討を行いわが国におけるサーベイランス・システムを確立し、維持することである。    
研究方法
1972年より実施されてきた全国270病院を対象とした日本母性保護産婦人科医
会(日母と略す)の先天異常モニタリング・システムと1981年より心身障害研究として実施されてきたすべての先天異常モニタリング・システム(人口ベースの鳥取県、石川県、神奈川県、病院ベースの東海3県を対象とした口唇・口蓋裂だけのモニタリング)から共
通のマーカー奇形を経時的に集計し、わが国に於ける先天異常の発生状況の監視を続ける。
本年度は、各モニタリングの代表者が集まり、いかにすればすべてのモニタリングが正しいデータを持ち寄れるか、の方法を検討し、新しい方法によるデータの収集は平成11年1
月から開始することとし、本年度は従来どおりの方法でモニタリングを続ける事とした。
結果と考察
本年度は各モニタリングの調査方法ならびに、ベースライン値の比較検討を
行い、いずれのモニタリングシステムも診断は生後7日以内に診断しえたもので、対象は
妊娠22週以後のすべての生産児および死産児を対象にしていることを確認した。来年1月
からは、従来日母のモニタリング・システムが加盟していた国際クリアリングハウス・モニタリング機構に日本のモニタリングの成績として、すべてのモニタリング・システムの
4半期ごとのデータを集計し、報告することとした。
本年度は、日母のモニタリング・システムで減少傾向のみられる、無脳症、増加傾向のみられる、水頭症、二分脊椎、ダウン症、尿道下裂について、ほかのモニタリング・システムのそれらの疾患の増減傾向と比較を行った。
1.無脳症の推移;どのモニタリング・システムの無脳症の推移も有意に減少を示している。しかしこれは見かけ上の減少で、日母で22週未満に診断し人工妊娠中絶した無脳
症の症例の調査で得られた数を加えた曲線ではほとんど同じレベルにあることが確認
され、他の3つの22週以降の症例での急激な減少は22週未満の人工妊娠中絶数がはいっていないためと考えられる。
2.水頭症の推移;日母の成績では、1989年以後はいずれも有意の上昇を示している。し
かし他の3つのプログラムの成績は横這い、或いは減少傾向が見られる。
3.二分脊椎の推移;日母の成績ではやや上昇傾向が見られ、1985年、1993年、1995年は有意の上昇であった。しかし石川県は1993年以降、神奈川県は1994年以降上昇傾向を
示しているが、鳥取県は1990年以降減少し、横這い状態を示している。
4.尿道下裂;日母の成績では有意の上昇ではないが、やや上昇傾向が見られる。鳥取県、
石川県では同じく上昇傾向が、神奈川県では1994年以降減少している。
5.ダウン症候群の推移;日母の成績では上昇傾向がみられ、1989年、1995年、1997年の
値は有意の上昇であった。石川県は1993年以降、神奈川県は1994年以降上昇傾向を示しているが、鳥取県は1990年以降横這い状態を示している。
結論
この先天異常モニタリングの究極の目的は、環境にとりこまれた催奇形物質を早期
に発見し、それ以上同じ原因による先天異常児が出生しないよう予防することにあり、一つの監視機構である。わが国において現在活動中のモニタリングは、日母が26年、鳥取県
が24年、石川県,神奈川県がいずれも18年と長期間にわたり継続されており、充分その役割を果たしている。本年度は、日母のモニタリングで減少または増加傾向を示している疾患を取り上げ他の3つのモニタリングの成績と比較した。無脳症では、22週以降の出生児
のモニタリングでは、いずれも急激に減少傾向を示しているが、これが真の減少でないことは、日母の22週未満に出生前に診断し人工妊娠中絶した無脳症の症例の調査から明らか
で、22週以降の調査だけでは真の減少の傾向は掴めないことがわかった。一方、日母のモ
ニタリングで増加傾向のみられた水頭症、二分脊椎、ダウン症候群、尿道下裂のうち、ダウン症候群は石川県、神奈川県で同様の増加傾向がみられ、尿道下裂では、鳥取県、石川県、神奈川県、いずれにも増加傾向がみられる。日母のこれら増加傾向は、ある特定の地域の特定の病院にみられるのではなく、増加の地域が分散しているため、今後の推移を見
守って疫学的調査を開始するかどうかを決めたいと考えている。

公開日・更新日

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