わが国におけるがんの予防と検診の新たなあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201411027A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国におけるがんの予防と検診の新たなあり方に関する研究
課題番号
H26-がん政策-指定-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
津金 昌一郎(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 笹月 静(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
  • 片野田 耕太(国立がん研究センター がん対策情報センター)
  • 斎藤 博(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
  • 濱島 ちさと(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
  • 町井涼子(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
12,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国におけるがんの予防および検診について、エビデンスは蓄積されつつあるものの、必ずしも正しく実践されていない、また、逆にプラクテイスがエビデンスより先行しているエビデンス・プラクテイスギャップが存在する。このギャップを低減するためのがんの予防・検診の新たなあり方に関する研究を行った。
研究方法
予防のあり方に関する研究として多目的コホート研究(JPHC Study)のコホートIIの対象者(アンケート回答あるいは血液提供時年齢40-70歳)で血液の提供のあった約20,000人について、ABCD分類の他に喫煙、食塩摂取などの生活習慣要因を考慮に入れて、10年間で胃がんに罹患する確率を求めることができる予測モデルを構築した。検診のあり方に関する研究として個別検診のチェックリスト(CL)による精度管理の研究と福島県で18歳以下を対象に実施されている甲状腺検査の対照データを提示するための研究を行った。
結果と考察
予防のあり方に関する研究について男性の40歳A群かつ他のリスク因子無0.04%、70歳D群かつ他のリスク因子有14.87%、女性では同様の確率が0.03%、4.91%であった。また、性別・年齢、ABCD分類のみに関する最小モデルの構築も行った結果、A群での10年間で胃がんに罹患する確率は男女とも対象年齢範囲を通しても1%にも満たないことが示された。また、同様の確率は男女別にそれぞれ男性40歳のA群 0.06%から70歳のD群 8.71%、女性の40歳A群 0.04%から70歳のD群 2.43%であり、胃がんのリスク層別が可能であることが示された。また、記述統計データによる胃がん罹患率を指標としたリスク層別についても試みた。胃がんのリスク因子別の割合および相対リスクと、人口集団全体の胃がん罹患率から、リスク因子別の胃がん罹患率を推定した。ピロリ菌および萎縮性胃炎による胃がんリスクの増加は生活習慣と比べて大きく、リスク因子別の推定胃がん罹患率(人口10万対・単年)は、男性で40歳代のA群 11.6から70歳代のD群 1474.4まで、女性で40歳代のA群 8.4から70歳代のD群 444.0までの範囲であった。さらに、リスク層別化を行う上で最適の検査について検討した。検診のあり方に関する研究について精度管理体制が、個別検診の精度管理に必須の要件として妥当かについて、プロセス指標値との関連分析により(全国自治体データ、n=1531を用いて)分析した。その結果、個別検診のプロセス指標(精検受診率など)が優良な自治体では不良な自治体に比べ、これらの体制の整備状況が有意に良好であった。従ってこれらの精度管理体制は、個別検診の精度管理に必須の要件として妥当であり、これら5要件が個別検診用CLに必要であることが示された。先行研究の結果やがん検診専門家による議論等により、個別検診における精度管理体制評価の指標(新CL案)を作成し、その妥当性、有用性について検討を実施した。福島県における0歳人口を到達年齢に応じて乗じ任意の年齢まで合計することで年齢別累積有病数を得た。2010年時点の福島県の18歳以下の甲状腺がん有病者数は、2.1人(男性0.5人、女性1.6人)と推定された。2014年6月30日現在、福島県では県民健康調査の結果104例が甲状腺がんまたはその疑いと診断されている。この明らかに多い診断数は過剰発生あるいは過剰診断による可能性が考えられる。前者については要因とがんの発生との間にはある程度の年数を要することから、2011年の震災発生以後の何らかの要因により2014年の検査までの甲状腺がん発生率が高まったとは考えにくい。一方、後者については成人の甲状腺検査や小児の神経芽細胞腫マススクーニングの例などでも知られているところである。甲状腺がん検査には、ベネフェットだけでなく、リスク(過剰診断とそれに基づく治療や合併症・その後のQOLの低下など、偽陽性者の結果的に不必要な二次検査、甲状腺一次検査自体、それぞれの心身への負担)が伴う可能性があるという認識が必要であり、検査導入の際は、リスク・ベネフィットの両方の側面についてのエビデンスを得たうえで、ベネフィットが上回る場合に導入されるべきである。


結論
予防のあり方に関する研究についてピロリ菌感染、ペプシノーゲン値を同時に測定したコホート研究では最大の規模であるが、外的妥当性の観点からは全国規模で本研究結果を適用するにはさらなる検討が必要である。検診のあり方に関する研究についてリスク・ベネフィットの両方の側面についてのエビデンスを得たうえで、ベネフィットが上回る場合に導入されるべきである。

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201411027Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,000,000円
(2)補助金確定額
16,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,516,597円
人件費・謝金 5,018,028円
旅費 1,135,120円
その他 4,638,255円
間接経費 3,692,000円
合計 16,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-10-21
更新日
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